7 勇者と魔王の共闘1
「……あの中に大量の呪詛が蓄積されているんだ」
ヴィラが俺に耳打ちした。
「あのオーブが弾けると、内部の呪詛がすべてまき散らされる……」
「なっ……!」
俺は絶句した。
「あのオーブだけで人間の国なら二つ三つまとめて汚染できるくらいの量はあるだろう」
ヴィラがうめく。
「どうして、そんなものを保管していたんだ、とでも思ったか?」
「えっ」
「私たちも呪詛兵器を使うつもりはなかった。ただ、使わないからといって廃棄できる代物じゃない。兵器を捨てるということは、呪詛をまき散らすことと同義だからな」
ヴィラが説明する。
「私はオーブの中の呪詛をすべて浄化しようと考えた。時間はかかるが、少しずつ確実に――」
「ああ、人間の国でも同じように浄化をやっているところはあるな」
俺が言った。
「浄化は順調だった。だが、強引に奪いに来る者がいるとは……私にも気の緩みがあったかもしれない」
「とにかく、あいつらから呪詛兵器を取り戻そう。数は一つか?」
「いや、二つだ。もう一つ、彼らの中の誰かが持っているはず」
と、
「取り返す? ふん、させませんよ、魔王様」
オーブを持った魔族が笑った。
「あなたは呪詛兵器をまき散らすのです」
「……なんだと」
眉をひそめるヴィラ。
「そう、大量の呪詛を人間どもの世界に向かって、ね」
「人間どもは本腰を入れてあなたを滅ぼしに来るでしょう」
「せいぜい奴らの力を削いでください」
他の魔族たちが口々に言っては笑う。
わざわざ自分たちの目的を吹聴するのは、ヴィラに精神的な圧力をかけようというのか。
あるいは先ほどのヴィラの魔法が効いていて、自分たちの内心を話しやすくなっているのか。
「こいつら――」
俺は奴らをにらみつけた。
つまり、こいつらはヴィラの名をかたり、呪詛兵器を人間界で使うつもりなのか……!?
「そんなことはさせない」
ヴィラの全身から黒い魔力のオーラが湧き上がった。
「呪詛兵器を返してもらうぞ。力ずくでも、な」
「お、おっと、近づくなよ……!」
魔族が慌てたように叫んだ。
「俺たちに何かすれば、こいつを破裂させる」
「領内で呪詛をまき散らしたくないよなぁ?」
「外道が……!」
ヴィラがうめいた。
「俺たちはどっちでもいいんだ。人間界で使うのがベストだが、ここで使っても、民衆のお前に対する求心力は確実に落ちる」
「大失態を犯したヴィラルヅォードは魔王にふさわしくない。もっと有能な者を王にすべき――そんな声も出てくるだろう」
「そうなれば、我らが主が次期魔王になるための流れを作ることができる」
「そのためなら、民が犠牲になることも厭わないのか? お前たちの主は」
ヴィラがまたうめく。
「そんな奴に王の座をくれてやるわけにはいかん」
「――ヴィラ」
俺は彼女に耳打ちした。
「ここは共同作戦で、奴らから呪詛兵器を取り戻そう」
「……勇者と魔王の共闘、か」
「面白いだろう?」
ニヤリと笑ってみせる。
こんなときだからこそ――。
いや、正直に言って、かつては宿敵だった彼女とともに戦うというのは、中々に胸が熱くなる展開だった。
「……面白い」
ヴィラが俺を見て微笑む。
俺と同じ感想を抱いたようだ。
「で、具体的にはどうする?」
「そうだな、こういうのはどうだ――」