3 そのころ、勇者パーティは4
とうとう、王女を殺してしまった――。
ティアナは足元に横たわるメリーアンの死体を見下ろし、ため息をついた。
なぜか護衛も連れていなかったのは、それだけ竜を召喚する護身具に自信を持っていたのか。
あるいは他人に聞かれたくない話をするつもりで、護衛を外したのか。
今となっては分からない。
(さすがに軽率すぎたわね……)
今になって後悔がこみ上げる。
昔から、ティアナはそうだった。
勢いで行動し、その後のことは行動してから考える――。
フォローしてくれる頼もしい仲間たちがいるから、今まではそれでなんとかなってきた。
だが今――。
(とうとう、取り返しのつかないことをしてしまったのかもしれない)
不安が大きくなる。
胸の奥が苦しい。
いくら自分たちが世界を救った英雄とはいえ、第一王女を手にかけたことが明るみに出れば、罪人として裁かれるだろう。
おそらく死罪は免れない。
「……ちっ、冗談じゃないわ」
ティアナは舌打ちをした。
「とにかく、なんとかしないとね」
何も案が思いつかず、とりあえず三人に言葉を投げかけてみる。
「ですが、具体的には――これからどうするのです?」
「ボクたち、捕まっちゃうよ」
「逮捕、だめ。絶対」
大聖女カトレア、弓聖イングリット、極魔導師ユーフェミアが口々に言った。
「さすがに軽率すぎますわ……」
カトレアがボソリと付け加える。
「なんですって?」
ティアナは苛立ちを隠せずに彼女をにらんだ。
先ほどの自分の内心をなぞるような言葉をかけられ、どうしようもなく腹立たしかった。
軽率なのは自覚している。
けれど、それを他人に指摘されたくはなかった。
「どのみち、あのままじゃ破滅だった……殺すしかなかったじゃない!」
「別に殺さなくても……取引なり、説得なり、あるいは洗脳という手もありましたわ」
「相手は王族よ。簡単に洗脳なんてできるはずがない。何重にも魔法防御をかけているはず」
「じゃあ、取引か説得だね。殺すのはあくまで最後の手段だったと思うな」
と、イングリット。
「ま、先走って殺したのは君なんだし、いざとなればボクはそう証言するよ」
「イングリットまで……」
ティアナはますます苛立った。
二人とも何も分かっていない。
隙を見せればメリーアンは、すぐにでも事実を公表する構えだった。
あのタイミングで殺しておかないと、次の一手で破滅していたかもしれないのだ。
「今は仲たがいしてるときじゃない。大事なのは証拠隠滅」
ユーフェミアが言った。
「私たち四人が力を合わせれば、証拠なんて簡単に消せる」
「……ありがとう、ユーフェミア。どうやらこの中であなたが一番頭がいいようね」
ティアナが笑う。
「……なんですか、その言い方?」
「もしかして、ボクにケンカ売ってる?」
カトレアとイングリットが詰め寄った。
「ケンカ? あなたたちが、このあたしに勝てるつもり?」
「――三人とも、黙れ」
決して大きくはないが、その声は強烈な威圧感を伴い、ティアナたちの動きを封じた。
「今は仲たがいしているときじゃない、と言ったはず」
ユーフェミアがティアナたちを見据える。
ゾクリとするようなプレッシャーだった。
「……そ、そうね。まずは今後の対応を考えましょう」
ティアナがうなずいた。
「王女の死体をどうするのかが問題よね」
「手っ取り早いのは……焼却」
ぼっ!
ユーフェミアの右手に小さな火球が出現した。
高レベルの魔術師である彼女なら、メリーアンの死体を欠片も残さずに焼き尽くすことが可能だろう。
「無理ですわ。いくらユーフェミアさんでも」
カトレアが言った。
「メリーアン様の……というか、王族の体には幾重もの魔法結界が備わっています。それらをすべて解かない限り、炎で燃やし尽くすことはできません」
「私の炎なら何発も当てれば……」
「痕跡が、残るのです」
カトレアが重ねて言った。
「死体そのものがなくなっても、『死体を燃やした』という痕跡は必ず残ります。そういう仕組みの結界なのです」
「その痕跡っていうのは、燃やした人間を特定できるようなものなの」
「はい。仮に実行すれば、ユーフェミアさんの仕業だとバレてしまうでしょう」
「むむ……それは困る」
ユーフェミアがうつむいた。
「じゃあ、どこかに隠すとか?」
イングリットが言った。
「そうですね。現実問題としては死体ごと隠して、封印してしまう――というのが、もっとも見つかりにくいと思います。それにしてもリスクはありますが」
カトレアがため息をつく。
「あまり考えている時間もないしね。実行しましょ」
ティアナが三人に言った。
※
――ぴくり。
彼女たちの死角で、王女の指がわずかに動いたことを……。
このときティアナたち四人は気づかなかった。