2 勇者としての道は
「私はマスターに力の使い方を教えるために具現化した」
ファリアが言った。
「君は、さらなる力を身に付けることができる。だが……君はそれを望むのかな?」
「俺は……」
うつむく俺。
正直、俺は戦う理由を完全に見失っていた。
現状、人間たちの国と魔族の国は休戦状態になっている。
魔族の国は周囲を結界に覆われており、これを破壊しない限り、人間たちは攻め入ることができない。
その結界を切り裂く唯一の力を持っているのが――そう、俺の持つ聖剣ファリアレイダだ。
俺が魔族の国に滞在している間、人間たちは容易に攻め入ることができないのだった。
だから――戦争が再開されるかどうかには、俺の動向が大きくかかわってくる。
俺は、どうすればいいんだろう……?
今さら魔王軍と戦う気にはなれない。
だけど、人間の世界に平和をもたらしたい気持ちは、当然持っている。
戦わずして平和が訪れれば――それが一番いいんだけどな。
「ならば、一つ質問させてくれ。マスターはこれからどうするつもりなのだ?」
「えっ」
「ずっとこの魔王国にとどまるのか?」
「そ、それは――」
俺は言葉に詰まった。
魔王との最後の戦いの後、この国で目覚めて――それ以来、あまり考えないようにしてきた問いだった。
意識的に、答えを避けていた問いだった。
ヴィラと一緒に過ごすうちに、ずっとこんな時間を過ごせたらいいのに、と思うようになっていた。
魔王国で過ごした時間はわずかだけれど――。
俺の人生で、こんなにも穏やかで優しい時間は初めてだった。
さらなる力を望むのか――。
ファリアの問いに明確な答えを返せないまま、俺はいったん修練を終えた。
とりあえず体がなまらないように、一通りのトレーニングをした感じだ。
聖剣を異空間に帰すと、ファリアも姿を消した。
聖剣をこっちの世界に呼び出している間なら、ファリアもこの世界に出てくることができるそうだ。
で、それを待っていたかのように、
「シオン!」
薄桃色の長い髪をなびかせながら、ヴィラが走ってきた。
「どこに行ったのかと思った。心配したぞ」
「ああ、ちょっと鍛錬に」
俺が言うと、ふいにヴィラが黙りこんだ。
うつむき、肩を震わせている。
「よかった。もう人間の国に帰ったのかと」
「……なんか涙ぐんでないか、ヴィラ?」
「っ……!」
慌てたように顔を上げるヴィラ。
やっぱり目の端に涙がにじんでいた。
「……悪かったよ。次からは事前に言ってから、鍛錬に出かけるから」
「ううん、あたしの方こそごめんね。考えすぎちゃったみたい」
ヴィラが微笑む。
「シオンがここにいてくれてよかった」
「ヴィラ……」
「……ずっと、ここにいてほしいな……」
ぽつりとつぶやくヴィラ。
胸の鼓動が高鳴る。
俺は――。
俺も、ずっとここにいたい。
自分の気持ちに、気が付き始めていた。