18(完) 俺と彼女が歩んでいく道
あれから、どれだけの月日が経ったか――。
人間界と魔界は緩やかに共存への道を進んでいる。
その道は平坦じゃないし、数か月や数年単位で成し遂げられることじゃない。
けれど俺には永遠に近い命がある。
そして、その人生を共に歩んでくれる女性がいる。
俺は彼女と共に、その夢の実現に向けて、長い長い人生を過ごしていくつもりだ――。
「どうしたんだ、シオン?」
そんなことを考えながら城のバルコニーで満月を見上げていると、ヴィラが歩み寄ってきた。
「ちょっと物思いにふけっていたんだ」
俺はヴィラに微笑んだ。
「……まさか、別の女のことじゃないだろうな」
「えっ?」
「この間の魔界の有力者たちが集まるサミットに、やたらとシオンにベタベタしてきた女がいただろう?」
「いたっけ……」
「いた! 私は見逃さなかったぞ」
「いや、積極的に話しかけてきた女魔族は確かにいたけど、あれは政治の話だし……」
俺が説明すると、ヴィラはジト目になった。
「……シオンは相変わらず鈍感だ。あれは絶対恋する女の視線だったぞ」
「そうかなぁ……ヴィラ、俺が女魔族と話すたびに同じことを言ってないか?」
「っ……!」
ヴィラはたちまち頬を赤くした。
「……仕方なかろう。その……惚れた弱みだ。お前に……」
「ヴィラ……」
恥ずかしそうにする彼女を、俺はそっと抱き寄せた。
「俺が君以外の女性に目移りするわけないだろ。信じてくれよ」
「うん……信じてる」
ヴィラは嬉しそうな声で呟き、俺の胸に顔を預ける。
満月の光が、俺たちを照らし出していた。
足元から伸びる俺の影には、魔族の証である黒い翼や尾のシルエットがある。
そう、ヴィラとよく似た形の――。
「ヴィラこそ、俺以外の男に目移りするんじゃないぞ?」
「ん? シオンがそんなことを言うなんて珍しい」
「俺だってヤキモチくらい焼くよ」
「心配するな。お前以外の男など眼中にないから」
ヴィラは微笑みながら言った。
俺は笑顔でうなずき返し、彼女を伴ってバルコニーから室内に移る。
俺とヴィラはこうやって長い年月を過ごしてきたし、これからも過ごしていくんだろう。
魔族としての悠久の命。
もともと人間だった俺には、今もなおその重みを受け止めきれない部分はある。
人間とは比べものにならないほど長い時間を生きていくことに、不安や畏怖を感じることさえある。
それでも、俺は前を向いて歩いていこうと思う。
俺の傍らにはいつでも、最愛の女性が寄り添ってくれるから。
「どうした、シオン?」
彼女が俺を見上げる。
俺は顔を寄せ、ヴィラと唇を合わせた。
「ん……」
彼女も俺を歓迎するようにキスを受け止めてくれた。
「これからも――ずっと一緒だ」
俺はヴィラに微笑んだ。
魔王の伴侶として。
元人間の勇者として。
そして、ヴィラという女性を愛する一人の男として。
俺は、これからもずっと――。
【完】
完結です! コミカライズも(あちらはダッシュエックス文庫版に準拠しているので、なろうとは別ルートですが)無事に完結しました。ここまで読んでいただき、ありがとうございました!







