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15 悪鬼と勇者

 ――三人が放つ圧はイングリットとはまるで違う。


 空気が重い。


 肌がピリピリと痛む。


 俺はイングリットを地面に寝かせると、聖剣を構え直した。


「久しぶりね、シオン。あいかわらず甘いんだから」


 ティアナが俺を見下ろす。


 その声には軽蔑がこもっていた。


「あたしたちに裏切られたっていうのに、まだ凝りてないんだ?」

「ティアナ、カトレア、ユーフェミア……君たちもイングリットと同じ……」

「ええ、メリーアン様から素晴らしい力をいただきましたの」


 カトレアがうっとりと両手を広げた。


「この力で魔をこの世から浄化します。それこそがわたくしたちの新たな使命ですわ」

「シオン……邪魔。消えて」


 ユーフェミアが冷たく言った。


「私たちの邪魔をするなら、あなたも浄化対象」


 ごうっ……!


 三人の気配が膨れ上がった。


 同じような悪鬼の姿だけど、イングリットに比べて、三人の圧力は段違いだった。


 かけられた術式が違うのか、あるいは適性のようなものがあるのか。


 どちらにせよ、厳しい戦いになりそうだ――。

 と、


「シオン、無事か!」


 城から飛んできたのはヴィラだった。


「あら、魔王様。ちょうどいいわ」


 ティアナが剣を掲げた。


「あんたから先に消してあげる――【無明・鬼神刃】!」


 ざんっ!


 すさまじい斬撃波は、ヴィラの防御結界を一撃で切り裂いた。


「きゃあっ……!?」


 血まみれになりながら吹き飛ぶヴィラ。


「ヴィラ!」


 俺は叫んで彼女を追いかける。

 と、


「させませんわ」

「させない」


 今度はカトレアとユーフェミアだ。


 拘束魔法による魔力の鎖が俺を縛り、雷撃が俺を打ち据える。


「ぐああああああっ……!?」


 以前の二人とは魔法の威力が違い過ぎる――!


「終わりよ、シオン!」


 ティアナが憎々しげに叫んだ。


 手にした剣が俺を貫こうと向かってくる。


「くっ……」


 俺は、動けない。


 この拘束魔法は簡単に解けそうにないし、絶え間なく続く雷撃の前に意識が飛びそうだ。


 まずい、三人を一度に相手にしては、とても対抗できない――。


 きいいいんっ!


 次の瞬間、甲高い金属音が響き渡った。


「そこまでだ、ティアナ」


 力強い声とともに、ティアナの剣を受け止めた者がいた。


「あなたは――」


 俺は呆然とその人物を見つめる。


 立っているのは一人の騎士だ。


 鎧の胸元には王家の紋章が刻まれている。


「パーシバル……殿下……!」


 メリーアン王女の兄であり、王国有数の剣の使い手だ。


 俺との接点はそれほど多くなかったけど、彼の噂はよく知っていた。


 魔王軍との戦いにおいては、負傷離脱していた期間もあり、最終決戦では後方支援に回ったものの、頼もしい味方の一人だった。


 でも、どうして彼がここに――?

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