14 浄化の一閃
斬るんじゃない。
この聖なる光で、彼女を蝕む呪いを浄化するんだ。
「うぐっ……! あ……ああ……やめ……て……」
イングリットの体から声が漏れる。
それは悲鳴とも苦悶ともつかなかった。
聖剣が触れた部分から浄化の光が流れ込んでいく。
バキ、バキバキッ……!
悪鬼の鎧に無数の亀裂が走り始めた。
その亀裂から黒い瘴気が噴き出す。
次の瞬間、
しゅううっ!
その瘴気が聖なる光に触れて霧散していく。
同時に、イングリットの瞳から冷たい光が薄れていくのが分かった。
「シオ……ン……?」
憎悪と殺意に満ちていた瞳に、戸惑いの色が浮かぶ。
「なんで……。ボク、ここに……」
か細い声でうめくイングリット。
「大丈夫だ。もう、大丈夫だから」
俺は彼女に語りかける。
さらに聖剣に力を込めると、浄化の光が最大限にまで高まった。
パリィィィィィィィィィンッ!
甲高い音がした。
悪鬼の鎧はガラス細工のように砕け散った。
その中から一人の少女が現れた。
ボロボロの服をまとっているが、元のイングリットの姿だった。
「……シオン……」
彼女の頬に涙が伝う。
そのまま意識を失い、崩れ落ちた。
俺はイングリットの体を抱き止めた。
「……よかった。殺さずに済んだ……」
思わず安堵のため息が漏れた。
――と、そのとき、
「シオン、上だ!」
聖剣からファリアの声が響いた。
えっ……?
「次が来るぞ! まだ終わらん!」
「!」
俺はハッとして顔を上げた。
背後の魔王城、その上空の一点が禍々しく歪んでいた。
空が――ねじれて裂けていく。
その向こうから、三つの影がゆっくり降臨する。
黒い鎧。
赤い鎧。
白い鎧。
「お前……たちは……!」
俺は呆然と降り立った影を見つめた。
かつて、俺と共に旅をした仲間たちだ。
そして、俺を裏切った仲間たち。
だが、その姿はイングリットと同じだった。
聖騎士ティアナも。
大聖女カトレアも。
極魔導師ユーフェミアも。
全員が、異形の戦鬼へと変貌していた。
「イングリットがやられたみたいね……」
「構いませんよ。わたくしたちがやります」
「シオン、私たちがここで始末する」
三人が言い放った。
感情がいっさい抜け落ちたような冷徹な声だった。
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