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13 今こそ俺は、この剣を振るう

 俺が守りたいものは、なんだろうか。


 人間か、魔族か。


 その答えは、どちらか一方ではあり得なかった。


 俺はただ、人間も魔族も、どちらも守りたかっただけだったなんだ。


 それはヴィラと出会って、彼女の優しさや、魔族たちの穏やかな暮らしに触れて、初めて心から感じるようになった気持ちだ。


 魔族と人間の共生。


 二つの異種族の間で育まれる、恒久的な平和。


 それは壮大な、あまりにも見果てぬ夢なのかもしれない。


 けれどヴィラと二人なら、その夢をどこまでも追いかけることができる。


 俺は、そう強く感じていた。


 ――だけど、そんな俺の理想を打ち砕くように、かつての仲間が立ちはだかった。


 イングリットが放つ無数の矢は、容赦なく魔族の命を奪っていく。


「かつての仲間を……俺は斬らずに、和平の道を歩めるのか……」

「どこまでも甘い男だ、シオン」


 ふいに聖剣から呆れたような声が聞こえた。


 その声には、けれど温かみがあった。


「だが、そんな君だからこそ――私は君を相棒として認めたのだ」

「ファリア……?」


 その瞬間、聖剣からまばゆい光があふれ出す。


「これは――」


 黄金の刀身が、まるで呼吸をするかのように脈動している。


「聖剣とは、その名の通り聖なる力を宿す剣だ」


 ファリアが淡々と説明を続ける。


「今までの君は、その力をただ魔を滅する力としてのみ使っていた。だが、聖なる力にはもう一つの顔がある。すなわち――浄化だ」

「浄化――?」

「魔王軍と戦い、魔王を滅するために剣を振るったかつての君と、今の君とは違う。人間と魔族、双方の平和を心から願い、そのために立ち上がった。そう、今の君なら――その浄化の力を使えるかもしれん」

「今の、俺なら……」


 ファリアの言葉が、俺の心に深く染み渡る。


 そうだ、俺はもう昔の俺じゃない。


 ヴィラと出会い、守りたいものが増えた。


 目指すべき道を見つけた。


「だが、それは覚悟のいる道だぞ、シオン。ただ敵を倒すよりも、はるかに険しい道だ」

「……分かっている。ありがとう、ファリア」


 俺は強くうなずいた。


 ファリアの言う通り、それは綺麗事だけでは済まない、茨の道だろう。


「だけど、俺が目指すのはきっとその道しかないはずだから――」


 聖剣を握る手に、力がこもる。


 震えは――ない。


 俺の心から、迷いが消えていた。


「俺はその道を切り開く。お前と一緒にな」


 この一撃で必ず――イングリットを止める。


 殺すためじゃない。


 彼女を、あの悪鬼の呪縛から救い出すために。


「何をごちゃごちゃと!」


 俺の決意を嘲笑うかのように、イングリットが最大級の矢を放つ。


 空を黒く染め上げるほどの矢の豪雨が降り注ぐ。


 だけど、今の俺には迷いはない。


 研ぎ澄まされた感覚が、無数の矢の軌道を完璧に見切る。


 だんっ!


 俺は地面を強く蹴り、一瞬でイングリットの懐に飛び込んだ。


「なっ、今までより速い――!?」


 イングリットが目を見開く。


「速すぎる――」

「迷いを捨てた今の俺は、君の矢よりも速い!」


 そして、俺は聖剣を一閃する――。


 浄化の光をまとった黄金の刃が、闇を切り裂いた。

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