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11 悪鬼弓聖4

 ……殺すのは、最後の手段だ。


 たとえ彼女が俺を殺そうとした相手であったとしても、俺は彼女を救いたい。


 それが俺の勇者としての矜持だった。


 俺は、守るべき者のために戦う。


 それは――たとえ敵であろうと、かつての仲間であろうと、変わらない。


 彼女を、あの醜悪な姿から解放してやる。


「……彼女は君を裏切った女だろう?それでも救いたいのか」


 聖剣から響くファリアの声は険しい。


 彼からすれば『救う必要なんてない』ということなんだろう。


「確かに俺は彼女たちに裏切られ、殺されかけた……だけど、それでも」


 俺は唇をかみしめた。


 自分の気持ちが上手く整理できていない。


 救いたい気持ちと。


 目の前の敵を討って、魔王城にいる仲間たちを守りたい気持ちと。


 二つの感情が俺の中で激しく交じり合っていた。


「問答無用で斬り捨てればいいだろう。君を殺そうとした裏切り者だ。情けをかける必要などない」

「…………」

「迷うな、シオン。君のその甘さが、いずれ命取りになる」


 ファリアの言葉が重く胸に突き刺さる。


 甘い……のかもしれない。


 けれど、俺たちが過ごした時間まで嘘だったとは思いたくないんだ。


 そんな俺の葛藤などお構いなしにイングリットは容赦なく矢を射続けてくる。


 ひゅんっ! ごうんっ!


 一本一本が地面をえぐり、空気を裂くほどの威力を持っている。


 とても手加減できるような状況じゃなかった。


「くそっ……!」


 俺は聖剣を振るい、彼女の矢に応戦する。


 金属と金属がぶつかり合う甲高い音が戦場に響き渡った。


 ぎんっ! がぎんっ!


 一撃を防ぐたびに、腕が痺れる。


「なんて力だ――」


 鬼と化した彼女は、もはや俺の知っているイングリットじゃない。


 だけど、それでも。


「やっぱり、俺たちは――仲間だったんだ。その記憶までは消せない。一緒に旅した想いも……」

「甘いな、君は」


 ファリアがあきれたように言った。


 その声には非難の色だけではなく、どこか哀れむような響きも混じっている気がした。


「だが、そんな君だからこそ、私は君を認めたのだ」


 ファリアの声のトーンがわずかに変わる。


「勇者だと、戦友だと。そして――唯一無二の相棒だと!」


 彼の言葉が、俺の心に熱いものを注ぎ込んだ。


 そうだ。俺は一人じゃない。


 ファリアが側にいる。


 俺の甘さも、弱さも、全てを受け入れてくれる相棒が。


「ありがとう、ファリア……!」


 俺は聖剣を強く握りしめた。


 迷いは消えた。


 俺のやるべきことは、一つだ。


「イングリット、君を止める! そして――必ず救い出す!」


 俺は叫び、ふたたび大地を蹴った。


 矢の嵐の中を、ただひたすらに彼女の元へと突き進む。


 無数の矢が俺の体をかすめ、浅い傷をいくつも刻んでいく。


 けれど、そんな痛みは気にならなかった。


 俺の心は、ただ一つの決意で満たされていたからだ。


 ――そして。


 俺はイングリットへと肉薄する。


 さあ、今助けるぞ――!

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