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9 悪鬼弓聖2

 俺はイングリットを見つめた。

 かつての仲間だった彼女。

 一緒に笑い合い、戦い、苦難を乗り越えてきたはずだった。


 だけど、俺たちの道は分かたれてしまった。

 魔王との戦いにおいて決別し、その後も俺と彼女たちの道が交わることはなかった。

 いや、やっと交わったと思ったら、こうして敵味方として向かい合っている。

 どうしてこんなことになってしまったんだろう……。


 周囲を見回す。

 すでに大勢の魔族が彼女に射殺されている。

「……これ以上はやらせない」

 そのためには――彼女を殺すしかないのか。

「殺せるのか、俺に……?」

 逡巡が、俺の動きを鈍らせる。

 そのときだった。


 ばしゅっ!


 鋭い痛みが左肩に走った。

 避けきれずに、一本の矢が深く突き刺さっている。

「ぐっ……」

「ボーッとよそ見なんて余裕だね、シオン! あたしと戦ってる最中に考え事?」

 イングリットがクスクスと笑う。

 その声には、かつての快活さの欠片もなかった。

 ただ冷たい響きだけ耳に残る。


 ひゅん、ひゅんひゅんっ!


 矢がさらに降り注いだ。

「……ちいっ」

 俺はとっさに聖剣を振るい、なんとか弾き返す。

「っ……!」

 けれど、その一撃一撃がとんでもなく重く、速い。

 威力も、矢を放つ精度も、以前とはくらべものにならない。

 以前から彼女は『弓聖』の称号を受けるほどの弓矢の超達人だった。

 だけど、今の力はもう完全に人間離れしている。

 あの黒い鬼の姿になって、異常な力を得ているとしか思えない。


「このままじゃ殺される――」

 俺だけじゃない。

 この城にいる魔族たちも、みんな。

「俺は――」

 もう、迷ってはいられない。

 守るべき者のために戦う。

 それが、俺が歩むと決めた道なんだから。


「やるしかない――っ!」

 俺は心を決め、地面を強く蹴った。

 イングリットに向かって、一直線に突進する。

 ざんっ! ぎんっ! がぎんっ!

 降り注ぐ矢の雨を聖剣で片っ端から叩き落とし、切り払う。

 切り払い、叩き落とす。

 それを繰り返しながら、ひたすら前へ進む。


「ま、それがセオリーだよね」

 城門のアーチの上から、イングリットが楽しそうに俺を見下ろしていた。

「弓術士は距離を詰められて、接近戦に持ち込まれたら何もできない――そう思ってるんでしょ?」

「ああ、君を無力化させてもらう!」

 俺は叫んで、さらに加速した。

 あと少し。

 あと数メートルで攻撃の間合いに入ることができる。


「本当、シオンって素直で性格がよくて――馬鹿だね♪」

 イングリットの口の端が歪み、笑みの形に吊り上がった。

 その表情に、俺は今まで感じたことのない邪悪さを感じ取った。

 ゾッとするような悪寒が背筋を駆け上がる。

 俺は考えるより先に、全力で後ろに跳び退っていた。

 直後、


 ごごごごごごっ……!


 俺がさっきまでいた場所の地面が、轟音とともに大きく裂けた。

「へえ? 避けたんだ。やるじゃん」

 イングリットが、少しだけ感心したように言った。

 だけど、俺にはそんな言葉に構っている余裕はなかった。


「この攻撃は――」

 目の前にできた、異常に深く、巨大な大地の裂け目。

 その底は暗くて見えなかった。

 俺は裂け目を覗きこみ、戦慄を覚える。

「弓矢の攻撃じゃない。なんだ、これは――?」

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