8 悪鬼弓聖1
「シオン、本当に生きてたんだ?」
イングリットが笑う。
「じゃあ、今度こそもう一度殺してあげる……このボクが」
まさしく矢継ぎ早に放たれる矢、矢、矢――。
「ちいっ!」
俺は聖剣を手に、降り注ぐ矢を弾き返す。
が、とにかく数が多い。
「うおおおおおおおっ……!」
弾ききれずに、手足を貫かれた。
「ぐうっ……」
「あはははは! なんだ、強くなったって聞いたけど、弱いじゃん!」
「速い――」
異常なまでの早射ちにうめく俺。
以前からイングリットは早射ちに長けた弓使いではあったが、これほどではなかった。
人間離れした力――それは鬼の姿になったことで得た力なのか。
「ねえ、これ以上の邪魔はしないでくれる?」
イングリットがにいっと笑う。
「今、ゴミ掃除の最中だから」
「ゴミだと……!?」
俺はカッとなった。
「ゴミをゴミって言って何が悪いのぉ? こいつら、人間の敵じゃん」
「……!」
「まさか、こいつらのことを仲間だと思ってる?」
「俺は――」
俺は聖剣を握り直す。
「もし、そう思ってるなら――君はもう勇者じゃない。人間全体に対する裏切り者だよ」
イングリットの弓がふたたびこちらに向けられる。
「ボクが殺してあげる」
「俺は……殺し合いなんて望まない」
俺は自分の表情が歪むのを自覚した。
たとえ、彼女たちがかつて自分を殺そうとした相手でも――。
やっぱり、仲間だったから。
その思いを捨てきれない……。
「退いてくれ、イングリット」
俺はうめいた。
「やーだね」
イングリットが舌を出す。
「戦う気がないなら――ボクが一方的に殺してあげる!」
ばしゅっ!
ふたたび超速で無数の矢が放たれた。
「――やるしかないのか」
俺は聖剣を構えなおす。
苦い思いが、胸を焼いていた。
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