7 帰還
俺は魔王城に帰還した。
目の前に広がっていた光景は――阿鼻叫喚の地獄だった。
「ぎゃあっ!」
「ま、魔王様を守れ――ぐあっ」
「だ、駄目だ、強い――強すぎる!」
城門付近で、魔族の兵たちが次々と倒されていく。
空から降り注ぐ無数の矢に射貫かれて。
地面にはおびただしい数の矢が突き立ち、墓標を連想させた。
「みんな、下がれ!」
俺は兵たちに叫びながら前に出る。
そして前方に目を凝らした。
「あれは――!」
数百メートル前方――城門のアーチの上に、黒いシルエットがたたずんでいる。
夕陽を背にしていて、逆光で姿がよく見えない。
「……弱いね。魔族ってこんなに弱かったの?」
クスクスと笑うその影。
俺は前に進む。
逆光の中、そいつの姿が次第にはっきり見えてきた。
鬼。
城門のアーチの上にたたずんでいるのは、全身が黒い装甲で覆われた身長3メートルほどの異形の鬼だ。
その手には、異様に巨大な弓が握られている。
その声には聞き覚えがあった。
冷たく、それでいてどこか楽しんでいるような響き。
「君は……まさか……」
俺はゴクリと息を飲んだ。
異形へと変じているけど、間違いない。
声も、弓を構える姿も。
「イングリット……!?」
かつての勇者パーティの仲間、『弓聖イングリット』だ。
「シオン……?」
ひゅんっ! ひゅんっ! ひゅんっ!
イングリットがふたたび矢を放つ。
そのたびに逃げ遅れた魔族兵が悲鳴を上げて倒れていく。
矢の雨は止まない。
まさに虐殺だった。
「くそっ……!」
俺は走り出した。
「みんな、逃げろ! 逃げろぉっ!」
叫びながら、数百メートル先のイングリットをにらむ。
「やめろ、イングリット!」
「ふうん、向かってくるんだ? なら――」
イングリットがこちらに弓矢を向けた。
「射殺してあげる」
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