11 そのころ、勇者パーティは3
1章ラストです!
「あなたたちがしたことを知りました」
王女メリーアンはティアナたち四人を呼び出し、開口一番に言った。
「勇者シオンは魔王との戦いで非業の死を遂げた――その真相を」
「っ……!」
ティアナは息をのんだ。
やはり、感づかれている。
いや、すべてを知られてしまったのかもしれない。
ティアナたち四人がシオンを『自爆』させ、魔王もろとも葬ったことを――。
「姫、何を仰っているのか、あたしたちには分かりかねますが……」
「お黙りなさい!」
しらを切るティアナに、メリーアンが怒声を上げた。
気弱でおとなしい彼女が、信じられないほど怒気をあらわにしている。
「わたくしの愛しいシオン様をよくも……よくも……!」
「落ち着いてください。姫様は誤解なさってます」
「黙れと言っている!」
メリーアンの視線にはもはや怒気ではなく殺意がこもっていた。
「このことをさっそく連合国会議で発表します。あなたたちは魔王退治の英雄などではない。勇者殺しの大罪人よ!」
「……ですが魔王を倒したのは、あたしたちです。姫」
ティアナが姫をにらみつけた。
もはやシオンを殺したことは隠せない。
だが、自分たちに罪が及ぶ状況は絶対に避けなければならない。
ここは『ティアナたちが魔王を倒して世界を救った』という功績を前面に押し出すことだ。
「魔王を倒した? 残念ながら、魔王は生きていますよ?」
「えっ」
メリーアンの言葉にティアナは絶句した。
「昨日、魔王国付近に放っている我が国の斥候が報告してきたのです。魔王のものと思われる固有の魔力波形が感知された、と」
では、やはり――。
昨日カトレアが危惧していたとおり、魔王ヴィラルヅォードは生きていたのだ。
まだ戦いは終わっていない。
世界はまだ――勇者の力を必要としている。
なのに、自分たちが勇者シオンを殺してしまった。
自爆に見せかけて、殺してしまった。
「じ、じゃあ、あたしたちがやったことは無駄に終わった……!?」
「これで分かったでしょう? お前たちは勇者を殺した。魔王軍との戦いに大きな痛手をこうむった。人類全体の損失です」
「ぐうっ……」
ティアナは二の句が継げなかった。
まずい。
まずいまずいまずいまずい……。
心の中が焦りで満たされる。
「ですが、それを知っているのは姫様一人――」
ティアナはふいに表情を変えた。
心の奥にドス黒い感情が芽生えていくのを感じる。
殺意、だった。
しゃきん、と鍔鳴りの音とともに、ティアナは剣を抜いた。
「ち、ちょっと、ティアナさん! 何をするつもりですの!?」
「や、やりすぎだよ、ティアナ!」
「それはまずい……」
と、仲間たちが制止しようとする。
「ここまで来たら――やるしかないだろ!」
ティアナが叫んだ。
「姫に糾弾されたら、あたしたちは全員が大罪人だ。ここでこいつを殺す!」
「ひ、ひいっ……」
メリーアンが後ずさった。
「逃がさない」
ティアナは剣を手に近づいていく。
「くっ……! 【竜召喚】!」
メリーアンが叫んだ。
右手の指輪がまばゆ光を放つ。
「あの指輪――ドラゴンを召喚する魔導具か!?」
さすがに王族だけあって、レアな護身用魔導具を持っているようだ。
ごばあっ!
背後の壁が崩れ、その向こうからメリーアンを守るように巨大な竜が三体現れる。
「【エクスファイア】」
ユーフェミアが上位火炎呪文を放ち、竜を一体撃ち抜いた。
残り二体――。
「わ、私を乗せて飛びなさい!」
メリーアンはそのうちの一体に跨った。
竜が翼を広げて飛び上がる。
「逃がさない!」
イングリットが素早く弓を取り出し、数十の矢をまとめて放った。
左右の翼を射抜かれ、落下していく竜。
「【エクスバインド】!」
さらにカトレアが上位拘束呪文を唱えて、メリーアンを縛り上げる。
「ここまでよ」
ティアナが剣を振りかぶった。
周囲に、血の臭いが立ち込めている。
「ふうっ、なんとか口封じできたわね」
一刀のもとに斬り捨て、物言わぬ死体となった姫を見下ろし、ティアナがつぶやく。
他の三人は青ざめた顔だった。
「どうしたの?」
「『どうしたの?』じゃありませんわ! わたくしたち、王女殺しという罪を犯したんですよ!」
「今さらでしょ。あたしたちはすでに勇者殺しという世界的な犯罪に手を染めているんだから」
ティアナはふんと鼻を鳴らした。
「今さら王女殺しくらいが何? 毒食わば皿までよ」
このとき、彼女は気づいていなかった。
すでに――彼女たちには未来など訪れないのだということを。
破滅への道のりが、ただ続いているのだということを――。