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11 誕生、勇者シオン1

 声がない。


 誰も、驚きの声を上げることさえできない。


 それくらい意外な出来事だった。


 意外過ぎる、出来事だった。


「は、はあ?」


 ティアナは思わず声を上げてしまった。


「俺が聖剣を――」


 シオンは呆然とした顔で剣を見詰めている。


 白銀に輝く美しい剣だ。


「な、なんで、あなたが選ばれたのよ……あなたが勇者だっていうの……!?」


 ティアナは表情をこわばらせ、シオンに詰め寄った。


「このあたしが選ばれなかったのに! なんであなたが聖剣を手にしてるのよ! 下級騎士ごときがぁっ!」


 思わず怒鳴ってしまった。


 自分でも無様だと思ったが、感情を抑えられない。


 先日、シオンにキスを拒まれたことが脳裏をよぎり、ますます腹が立った。


「よこしなさい! それはあたしのよ!」


 と、聖剣を横から分捕ろうとする。


 だが、その瞬間、


「ぐっ、ぎゃぁぁぁぁぁぁあああああああっ!?」


 全身をすさまじい雷撃で貫かれた。


「ううう……」


 ティアナはその場に崩れ落ちた。


「はあ、はあ、はあ……」


 体を見下ろすが、火傷一つない。


 先ほどの雷撃は幻覚――ではない。


 おそらく所有者以外が聖剣に触れると、ああなるのだ。


 ということは、やはり聖剣を平然と手にしているシオンは、所有者として選ばれた、ということだろうか。


「おいおい、どういうことだ!」

「そいつは下級騎士だろ!」

「聖剣を手にできるはずがない!」


 他の英雄たちが詰め寄った。


 中には不満げなイングリットやユーフェミアの姿もある。


「よこせ!」


 我慢の限界を迎えたのか、英雄たちの一人がシオンに跳びかかる。

 が、


「――聖剣スキル」


 シオンが静かに告げ、


「【戦刃斬(リゼルブレード)】」


 どんっ!


 一撃で、その英雄は吹き飛ばされた。


「すまない。身を守るために、一撃だけ加えさせてもらった」


 シオンが淡々と言った。


「峰打ちだし、命には別条がない程度の力加減にしてある」

「なっ……」


 ティアナは息を飲んだ。


 シオンの戦闘能力が、明らかに今までと違う。


 本当に――。


 勇者として選ばれ、覚醒したというのだろうか。

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