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10 勇者選定儀式


 そして、ついに勇者の選定儀式が行われることになった。


 女神リゼルによる聖剣ファリアレイダの使い手を選ぶ儀式である。


 これに選ばれた者は『勇者』と呼ばれ、魔王に対して絶大な力を得られるという。


 いわば――【魔王特攻】。


 勇者が誕生すれば、世界の敵である魔王ヴィラルヅォードに対する人類の切り札になるはずだ。


「当然、あたしが選ばれるはず――」


 ティアナはその日の朝から意気込んでいた。


 現在、世界最強の騎士は自分だという自負があった。


 勇者は伝統的に剣士が選ばれるらしいから、ティアナが今回の勇者となる可能性は十分にある。


 むしろ、彼女しかいない――と周りも見ているようだ。


「ふふふ、あたしが勇者かぁ」

「いよいよだな、ティアナ」


 とシオンが話しかけてきた。


「ここだけの話、あたしが選ばれると思うの。シオンも楽しみにしててね」


 言いながら、反射的に視線をそらしてしまう。


 この間の、シオンとのキス未遂事件を思い出したのだ。


(やだ……ちょっと気まずいな)


 衝動的だったとはいえ、ティアナの方からシオンにキスを迫り、彼はそれを避けるように逃げて行ったのだから。


(ああ、もう。シオンも素直にキスを受けてくれればよかったのに。あたし、恥かいちゃった……)


 思い出すと、だんだん腹が立ってきた。




 そして――いよいよ儀式が始まる。




「今より――女神リゼルの神託の元、新たなる勇者を選定する儀式を始めます」


 朗々と告げたのは女神の大神官だ。


 祭壇の前で一心に祈りを捧げ始める。


 祭壇にくべられた炎が、


 ごおおおおおおおおおおっ……!


 と、風もないのに激しく揺らめいた。


 空は一面の曇天で、その雲間から光が差し込んだ。


 まさに女神の意志を指し示すような光はまっすぐに降りてきて、一人の人物を照らし出す。


 その者とは――、


「シオン!?」


 ティアナは思わず叫んでいた。


「俺が……勇者……!?」


 彼は呆然とした顔だった。


 光が降り注いだ先で、一本の剣が出現する。


 聖剣ファリアレイダ。


 通常武器では効果が著しく減衰する、強大な魔法結界に守られた魔王に対し、唯一といっていい莫大なダメージを与えられる剣。


 魔王を倒すための切り札。


 それが、シオンの元へ――。

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