褒美と怒り
そんなこんなで街までの移動手段を手に入れたラー達は事件にも事故にも合わず滞りなく街まで着いたのだった。
ラー達は到着後騎士団長のガディスとダリアと共に領主の屋敷へと訪れて居たのである。
『応接室』
「こちらでお待ちください。」
ラー達はメイドに案内された部屋へと入りソファーへと腰を下ろす。
「なぁーシロ。これどういう状況?もしかして騎士団に入れ!とか言うやつじゃないよな?」
ラーが不安そうに言うとシロは「いいえ。これはお礼がどうとかって言う話し合いだと思います。」と単調に答えた。未だにさっき事を気にしてるのか?とラーが考えながら待っているとドアを叩く音がし、領主が入ってくる。
「失礼するよ。あぁ〜君たちが私の娘を守ってくれたのだな。ありがとう。本当にありがとう。」
領主は部屋に入って早々にそう口にした。
領主は一息入れると椅子に座り話し出す。
「私はこの街の領主ロイス・グーリッヒです。以後お見知り置きを。さて話を進めましてこの度は本当にありがとうございました。」
ロイスは、そう言って頭を深く下げた。話を聞くに今回襲ってきた女は指名手配中でかなり強敵とされていたらしい。王都から帰る途中だったダリアを狙ったのはこの街にある炎を司る宝玉の在処を洗脳を使い聞き出すためだったらしい。
意図せずこの街の宝と領主の一人娘を助け騎士団長まで助けたラーはロイスにとってはまさに英雄に見えたのかもしれない。
ロイスはあらかた話を終えると礼はどうするかを話し出す。
「ラー様が欲しいものできる限り準備致しましょう。」
ロイスはラーに向かってそう言う。
(うーん。この時ってなんて言うのが正解なのだろうか?巨万の富?それとも土地?はたまた娘さんを下さい?)
ラーは少し悩んだ後にハッと大事なことを思い出す。
「ひとつ聞きたいことがある。この街に洗脳系の魔法やスキルを無効化できるアイテムはあるか?」
「うーん。そうですね。洗脳系と言いますと今回襲ってきた者が使ったものと同じものを防ぐアイテムですか。。」
ロイスは少し悩んで答えを出す。
「…申し訳ありませんがこの街には洗脳系の魔法などを防ぐアイテムはありません。」
「そうか。」
ラーが少し残念そうな顔をするとロイスは申し訳ない。と謝る。
「わかった。じゃあ俺から求めるものは洗脳系の魔法やスキルを防ぐアイテムの情報だ。」
「情報ですか?」
「あー。そうだ。どんな些細なことでも良い。情報が入ったら直ぐに教えて欲しい。」
「そんな事でよろしいのですか?」
「あぁ〜そんな事が良いんだよ。今は特にな……」
「えぇ〜わかりました。では情報が入り次第即座に御報告させていただきます。」
そう言ってロイスとラーは強く握手した。
ラーは屋敷を後にし街中を歩いている。シロは横でなにかすごく真剣な顔で頭を悩ませるラーを見つめていた。
(そう。今1番に必要なのは金でも土地でも地位でも無い。シロは俺が召喚した奴だ。もし洗脳系で操れてしまうのであれば大問題になりかねない。今後も安易に召喚が出来なくなるし強いモンスターを召喚しても操られては意味が無い。安心して後ろを守らせることが出来なくなるからだ。いち早く何がなんでも手を打たなければ。。。)
そう悩みながら身分証を作る為に冒険者ギルドへと歩みを進める。ちょうどギルドの前に到着すると不意に勢いよく扉が開かれる。ラーの顔にクリティカルヒットした扉の向こうには一人の少女が立っていた。
「あっあの!!ごめんなさいなのです!!」
少女は慌ててラーに頭を下げると足早にどこかへと行ってしまった。
「ラー様大丈夫ですか?」
シロが少し心配そうにラーに聞くと無論大丈夫だとラーは目で合図する。ラーは気を取り直してギルド内に入る。するとギルド内で騒いでいた冒険者たちが一斉に黙り込むと男達はラーを睨みつける。
「おい見ろよ、あの男白金のフルプレート装備だぜ。」
「それに女と同伴だぜ」
「どっかのボンボンだろ。くそがああいうタイプは即刻モンスターの餌になりゃいいんだ」
「なー、最近モンスターが頻繁に村や街付近に出るみたいだぜ。なんたって境界線の近くに奴が出たんだってよ」
「ほー。ならそいつにこのフルプレート野郎殺させようぜ」
「だな」
「おい。シロ。お前すごく睨まれてるし馬頭食らってるぞ。なにかしたのか?ダメだぞ!悪いことしちゃ!」
ラーはシロをちゃかすように言うとシロは少しイラッとした顔で文句を言おうとするが、シロよりも先に奥に座っていたグループの一人の男が酒がまだ半分は入っているだろうか。瓶を勢いよくラーに向けて投げつける。
パリン。と音を立ててその瓶はラーの足元で割れる。その様子を見たシロはおもむろに酒の瓶を投げた男に近寄ると言葉を発する。
「謝罪してください。当たらなかったのでよかったですが危険な行為です。」
シロは手を力ずよく握りしめ怒りを抑えながら男の前でそう言う。しかし男たちは嘲笑を浮かべると目の前に立つシロに対し舌なめずりをしながら言う。
「謝ってほしいのか?なら俺たちを喜ばせてくれよ。その身体でな。。ほら、ほら!ほら!!」
男たちはシロとラーを煽るようにして言う。周りにいた冒険者たちもその光景を見ると笑みを浮かべながらこちらを見ている。しかしシロはそんなことはお構いなしにさっきよりも手に力を込めると言葉を発する。
「あなた方が何を言ってるのか理解できません。まあ理解する必要もないんですが。とりあえず謝ってもらっていいですか。」
「あーー!!もう!!うっせぇーな。同じことを何回も言いやがって鬱陶しーんだよ。理解できねえならその頭にわからせてやるよ!!」
ついにいらだちを隠せなくなった男はシロに向け酒瓶を振り上げるとそのまま力一杯振り下ろす。
『Teleport(瞬間移動)』
その言葉とともにシロの前にラーが現れる。ラーは酒瓶を右手で受けると瓶の破片は周りに飛び散り、中に入っていた酒は鎧を濡らす。滴り落ちる酒を見てラーの怒りがマックスになる。
その怒りは、鎧を汚されたことへの怒りか。それは否である。
「こりゃ、酔っていましたじゃすまいぞ。今の威力は装備もガードもしていない女の子が受けて無事ではいられなかっただろう。それも俺の仲間に対する攻撃だ。お前らどうしてくれようか。」
ラーは単調に言葉を並べるがその怒りは目がそしてオーラが怒りの度合いを物語っていた。ラーは拳を強く握りしめると男の顔めがけて殴りつける。男は、殴られると思っていなかったのかはたまた自分より格下だと侮ったからかガードをせずにその身で受けたことで勢いよく飛んでいき壁に激突すると気絶してしまった。
「この程度で済んだのだ。本当は殺してやりたいぐらいだが今日はまだその時ではないか。」
ラーはそういうと周りを見渡す。周りの冒険者たちに笑みを浮かべている者はもういなかった。
(というか、なんだろう?恐れられている?ような気がする。)
「おいおい、シロが冷淡な物言いをするから皆怯えてるぞ。」
ラーがそんな軽口を言うとシロはあきれた感じでため息を吐く。
そして二人は、さっそくギルドの受付に向かったのであった。