旅の始まりとお約束
「ウソだろ!こんな事ってありかよ!」
ラー油王子は1人ボソボソと喋る。それを見たシロは静かな口調で話しかける。
「ラー油王子様どうかされましたか?」
ラー油王子は一呼吸置くとシロに言った。
「良いか。シロ!よく聞くんだぞ。今度から俺の事はラー油王子じゃなくてラーと呼べ!良いな。ラーだぞ!!」
「わかりました。ラー油……ラー様。」
シロの間違えに不安になりつつもひとまず安心する。
(おかしいだろ!普通異世界転生なんかが起きる時は名前の変更くらいさせろよ!なんだよ!ラー油王子様って!俺はラー油王国の王子様ってか!!)
ラーは1人頭の中で発狂しながら少し落ち着くとシロのステータスに目をやる。
シロのレベルは150。SSRのランクにしては少し低い。しかしシロには知識量が異常な数値をたたき出していた。
(そうか。シロは戦闘向きと言うより戦術を考えたりするのが得意なタイプか。まぁメッセージにも書いてあったか。この世界、エクアドナを知るためにって。)
「なぁシロ。ひとつ聞いてもいいか?」
ラーはシロに尋ねるとシロは首を縦に振り頷いた。
「えっと。まず今の状況を聞きたいんだけど。」
「はい。現在ラー様は元いた世界よりこの地に転移成されました。現在ラー様が居られる場所は人間の国エクアドナの南に位置する森林地帯です。」
「ふむふむ。では帰る方法はあるのか?」
「ラー様が元の世界に帰ることは不可能です。この世界に来る時ラー様は死ぬ事を許可されました。その瞬間ラー様の脳は焼き切られ元の世界ではラー様はすでに死んでいるのです。なので元の世界に帰ることは不可能です。」
(そうなのか。)
シロに俺が元の世界で死んだと聞かされたが何故か何も感じず動揺もしなかった。それだけ元の世界に未練などなかったってことか。それよりも今、すごくワクワクしているのが勝っていた。それもそのはず元いた世界では騙され地に落ち、することも無くnewsにのめり込んでいた生活だったからだ。だから何も感じず逆に前を向いて進める気がした。
「わかった!ありがとう。それともう1つ第100階層の深層ボスは倒せたのか?」
「いいえ。千神ゼグルスはこの世界のどこかで生きています。」
えっ。
シロの言葉を疑った。実際ラーのスキルで倒せない敵は少ない。しかししっかりとした手応えはあった。
「倒しきれていない。。か。なら当分は千神の討伐が俺たちのミッションだな!」
少し動揺しつつもラーは気持ちを切り替える
「了解しました。私はラー様の側に仕えあなたの頭脳として御身の身代わりとなりついて行きましょう。」
(うーん。身代わりにはなって欲しくないが今はツッコまなくていいか。)
そうしてラーとシロの新しい人生。また新しい旅が始まった。
『エクアドナ--南に位置する森林地帯』
「うぉぉお!」
ガキン!ガン!ガキン
剣と剣が弾き合う音に男の雄叫びが森にびびく。
一方その頃
ラー達はラー油王子と言う名前の問題を解決して近くにあると思われる街へと向かっていた。
「やっぱりこう言う異世界ものは最初は街に行かないとだよな!そのあとはギルドと……あ~戦闘もあるかもな!!」
ラーがそう言うとシロは小さく頷いた。
(そう言えばSSRの召喚からデバフ効果がある何かが発動するんだったよな。うーん。今の所シロのデバフ効果が発動してる感じはしないな。てかこのシロの上にある出したり消したりできるメーターはなんだ??)
そんな事をラーが考えていると近くの街道から剣と剣がぶつかり合う音が聞こえた。
「誰かが戦ってるみたいだな。様子を見に行こう。この世界で初の人間かもしれない。」
ラーはそう言うとシロと共に音のする方へ足を進めた。すこし歩いたところでその戦いは繰り広げられていた。
豪華に飾られた馬車の方に女が1人とその横に護衛役と思われるフルプレートの騎士が数名いた。その前には女性1人と屈強な男が1人立っていた。屈強そうな男は騎士の攻撃を弾くと追撃はせず1度後ろへとさがる。女性を守っているようだ。
「なぁシロ。これはどっちの味方をすれば良いかわかるか?」
ラーは近くの茂みに隠れながらシロに問いかける
「はい。この場合は騎士の味方をした方が良いと思われます。あの騎士はエクアドナの騎士です。敵対するのはあまり好ましくありません。」
「ふーん。そうか。」
ラーは少し残念そうに言う。
「じゃあシロ、あの屈強そうな男と女性はなにものだとおもう?」
「ただの盗賊かと。男の方は鎧を着用しておらず大剣のみをもっております。女性の方はあまり動こうとはしないところから上位魔法の詠唱を行なっている可能性がございます。」
「ふむふむ。シロにはそう見えているのか。」
その言葉にシロは首を傾げる。
「私の推理は間違っているのでしょうか?」
シロは首を傾げながらラーに質問をする。
「シロは頭が良すぎるが故に深く物事を考える。また実戦経験もないからわからないのもしょうがない。データだけで戦ってはいけない。俺の元居た世界ではこんな言葉があってもしも運転ってのがあるんだ。例えばもしもあの騎士のほうが敵かもしれない。もしもあの周りに大きな落とし穴があり助けに行ったら落ちてしまうとかな。」
「しかし、そんなことを考えていては、きりがありません。」
「まぁそうだが、こんぐらい柔軟に考えろってことだ。今回はシロの答えはハズレだな。」
「むむむむ。」
シロがまた頭を悩ませながら答えを導き出そうとする。しかしシロが答えを出すより先にラーは答え合わせをした。
「答え合わせといこう。」
ラーはそう言うと戦いの起こっている街道に出て両者の真ん中へとたつ。
「えっと。これはどう言う状況で?」
ラーの問に素早く答えたのは騎士の中央に立つ女だった。
「助けて下さいませ。そこの者達は私を狙う盗賊団の手先なのです!」
その言葉を聞いてシロはやっぱり私の答えが合ってたじゃんと言いたげな顔でラーを見つめる。そんな顔を見たラーはフッと笑い話を進める。
「そうか。君は命を狙われているのか。そして君達は命を狙っているのか。」
ラーは両者にそう言うと背中に背負う大剣の柄を握る。
少しの沈黙とともに勢いよく剣を振りかざす。
「ダリア様。ありゃバケモンですぜ。俺が本気で戦っても勝てるかどうか。。なので奴が来るのと同時にダリア様は逃げてくだせぇ。」
屈強な男は女性にそう言う。
「お話は終わったか?」
ラーが聞くと男は話し出す。
「あんちゃんすまねぇが最後に聞いてくれ。俺たちゃ敵ではなねぇ。本当だ!俺もあんたも戦う必要なんてねぇんだ!」
「そうか。だが俺の意見は変わらない。取り敢えずこれを2人とも持ってろ。痛みを感じなくさせる道具だ!」
そう言ってラーは2つのアイテムを渡すと大剣を収める。
それを受け取った女性は歯を食いしばる。男は大剣を強く握りしめた。
二人は死を悟ったが次の瞬間目の前の男が呪文を唱え始めた。
『Moment of sleep』
ラーが魔法を唱えた瞬間周りは白い煙に覆われ騎士たちはバタバタと倒れていく。そして騎士達の真ん中にいた女も眠りに着いた。
しかしラーの目の前に居る2人は白い煙を吸ったにもかかわらず何も異常は起こらない。2人がキョトンとなっているのを横目にラーは近くに居たシロに話しかける。
「答え合わせといこう。」
ラーはそう言うと騎士たちの方を指さし話し出す。
「今回の問題は簡単だよ。良いかシロ、そこの真ん中で寝てるやつはスキル『惑わす者』を使用していた。」
「スキル『惑わす者』ですか?」
「そうだ。『惑わす者』は言わゆる洗脳系の魔法のようなものだ。使用者の約100メートル内に入るとその効果が発動する。まぁ俺には効かないがシロには効いていたみたいだな。」
「そうだったんですね。少し悔しいです。」
(そう。シロには効いていた。それはこの世界のスキルだからかはたまたそう言うアイテムを使っていたのか。どちらにしろこれは早急に対策を練らなければならない。洗脳系の魔法やスキルが召喚した者に影響をおよぼすか……)
「ラー様?ラー様?」
考え込んで周りが見えていなかったラーにシロは何度も名前を呼びかける。ハッとして我に返ったラーはシロに返事をする。
「ラー様こちらの御二方がお話があると。」
「あっ。あ〜どうしたんですか?」
ラーがそう聞くと屈強な男が話し出す。
「まず初めに俺達を救ってくれてありがとう。それにこの魔道具を貸して頂いたことも重ねてお礼を。」
「あ〜礼はいらないよ。それにあんた余裕で勝ててただろ。手を抜いてたのがバレバレだぜ。」
「はい。手を抜いていたのは否めません。あの騎士たちは私の部下なので殺すわけにはいかず。ですが貴殿は殺さずにいてくれたありがとう。」
「あ〜なんだ。礼はいいって。なんかすげぇむず痒いからな。じゃあ俺達はここで。」
そう言ってラーはその場を後にしようとすると急に手に熱を感じた。手の方に目をやるとラーの手は両手でぎっしりと握られていた。
「あの!!……本当にありがとうございました。」
そう言う彼女は屈強な男の後ろにいた女性だ。うるうるとした透き通った目とたわわな胸につい魅入られてしまう。
すると後ろからものすごい殺気を感じた。慌ててラーが振り向くとそこにはシロが拳を強く握りこちらを見ている。そして何かボソボソと呟いていた。
「私のラー様を。私だけのラー様を。未だ私も触ったことの無い手をあーも容易く触れるなど万死に値するのです。ふざけています!ふざけすぎています!!なんて女なのですか。全く。ほんとに全くなのです!!!」
(あ〜これあれだ。こいつメンヘラだ。。顔に似合わずメンヘラとはな。これがこいつのデバフ効果ってやつか。)
シロの頭上に謎のメーターを出すと四分の一が埋まっていた。
シロがそんなイライラの中屈強な男は名乗り出す。
「俺の名前はガディス。この先にある街の騎士団長を務めいる。そして…」
「はい。わたくしはこの先のグーリッヒ領、領主の娘、ダリア・グーリッヒと申します。」
そう名乗る彼女は気品溢れる美しい女性だった。
「俺は、ラーって言いますこっちは相棒のシロです。」
ラーが自己紹介するとガディスはもう一回お礼を言って今回の件について話し出した。
「この女は、最近ここらの街道で商人などを洗脳して金品を盗んでいましてねぇ。今回はたまたまダリア様の護衛途中に出くわしてしまって…」
「それは、災難だったですね」
ラーとガディスが話し終えて少しした頃、目を覚ました騎士達は女の使ったスキル「惑わす者」から解放され正気に戻るとラーやシロ、ダリアやガディスに謝ると目を隠しロープで縛って置いた女を連れて街まで移動し始めた。
その様子をぼーっと見ていたラー達にガディスが馬車でグーリッヒ領まで乗せてくれると言うので有難く了承した。やっと一息付けると未だにイライラしてぶつくさ言っているシロを横目にラーはひと時の眠りにつくのであった。