曲芸
「はい!寄ってらっしゃい見てらっしゃい!古今東西、滅多にお目にかかることの出来ない代物だっちゃ!」アウラの綺麗な声が響きわたる。
仔犬の姿をしたカカとイオが逆立ちをしたり、宙返りをする。
「可愛い!」初めに集まって来たのは子供達であった。それに釣られて大人達も集まり、段々と人だかりが凄くなり、彼女達は大きな歓声を浴びていた。
「では、心ばかりで結構ですので、こちらに投げ銭をお願いしますだっちゃ」アウラが可愛くおねだりでもするように言うと、用意した箱の中に我も我もとお金を投げ入れた。
「ヒロ様、結構な額になりましたちゃ」アウラがお金の入った箱をヒロの前に差し出した。その中は小銭だらけではあったがアウラのいう通り結構な額が入っているようであった。
「凄いな!……でも、嬉しいけれどこれだとお前達を使って金儲けをしようとしていた、あの男と同じじゃないか?」ヒロは先日、アウラ達を見世物にしていた男の事を思い出した。
「いいえ、あれは無理矢理やらされてましたちゃ。今はヒロ様の為に、カカとイオも嬉しそうだっちゃよ」カカとイオは尻尾を振っていた。彼らはヒロの役に立つことが嬉しいようである。
「ありがとう。このお金は大切に使わせてもらうよ」ヒロはアウラ達の頭を順番に優しく撫でてやった。
「ねぇ、ブランドーって街まであとどれくらいなの?」カルディアは歩くのに疲れたように聞いてくる。
「そうだな、あと半日も歩けば到着するよ。俺は子供の頃に爺と一度来たことがあるから、だいたいの道は把握しているんだ」
「だいたいね……、ねえ、お腹空かない?」カルディアは大きくため息はついた。
「お前の腹はすぐに空っぽになるんだな……」
「なによ!いいじゃない!減るんだから仕方がないでしょ」少し脹れっ面になった。
「カルディア様、よろしければこれをどうぞダニ」イオが懐から黒い干物のような物を取り出した。
「あ、ありがとう……イオちゃん。苦い……、なにこれ?まあ、食べられない事はないけれど……」イオから手渡された干物を口に咥えてからカルディアは顔をしかめた。
「前に捕まえたネズミを燻したダニよ。美味美味」イオはもう一つあった干物を口のなかに投げ入れた。
「ネ、ネズミ……、ゲエ……」カルディアは口を押さえながら草むらに飛び込んで激しくえずくような声を出した。
ヒロ達はカルディアのその様子を見て大声で笑った。それで歩いてきた疲れも緩和されたような気がした。
「ブランドーに着いたら美味しいものを食べような。お前達が頑張って稼いでくれたお金で」ヒロはアウラ達に微笑みを投げた。彼女達は嬉しそうにはにかんだ。