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合流

「おっ、色男!兄ちゃん!可愛い娘達を連れて歩いているな!」町の男達の視線がヒロ達に注がれている。ヒロは改めて自分達を客観的に分析してみる事にした。


 自分は、闇夜に判別しにくい濃い紫の暗殺着コスチュームに、更に昼間も目立たないようにとネーレイウスが使用していたポンチョを頭からかぶり、暗殺者として気をつけていたつもりであった。

 それに対して、アウラ、カカ、イオは、それぞれの髪の色に合わせた色の服。そして一様に太ももがあらわになった短い丈の腰布、膝下までの履物。本来目立ってはいけない筈のヒロにとっては厄介な代物である。


「うーん……」ヒロは言いながら振り返るとアウラの黄色い髪に手を串のように差し込んだ。サラサラとした心地の良い髪質であった。


「きゃ!ヒロ様、どうしたんだっちゃ?」アウラは顔を真っ赤に染めている。唐突に、髪を触られて驚いたようであった。


「三人とも、綺麗な髪をしているが……、俺の仕事はあまり目立ってはいけないんだよ」ヒロは少し試案してから何かを閃いたように三人を集落の店に連れていった。


「どうしようかな……」ヒロは色々物色して、せめて服のヒロが目立たぬように三人に少し地味な色のマントを買い与えた。もしもの時に顔や髪の色を隠せるようにフードの付いたものであった。そのマントを羽織ると着ていた服の色が見えなくなり幾ばくかはマシに見えた。ただ、それでも他の者より目立つ事は仕方ないとヒロは諦める事にした。


「有難うございますちゃ!」「嬉しいいですの!」「いかすダニ……」三人は物を買ってもらった経験が無かったようで、三者三様にとても喜んでいた。なぜか、その様子を見てヒロの心も少し癒されるような気がした。


「それでは、出発するか。次のブランドーって町で俺の仕事が待っているんだ」ヒロはその町に標的であるオリオン王子が滞在している情報をすでに得ている。オリオン王子は数日滞在のうちに次の町へ移動を開始するとの事であった。そしてブランドーの町を彼が一人で出た後、事前に合流する別のアサシンと一緒に襲撃するという作戦であった。


 ブランドーの町までは、普通に歩いて一日半は掛かる計算であった。やむえず途中で野営をしなければいけないのだが、食料を買うお金も底を尽きつつあった。それは、アウラ達を開放する為に使ったのと、彼女達のマントを購入した事に起因するものであった。

 それを彼女達に愚痴ったところで、どうにもならない事は、ヒロにも解かっていた。


「そろそろお腹が空いたダニよ……」イオがお腹を擦りながら駄々をこねる。それに反応するなのように彼女のお腹が鳴った。

 たしかに朝、村を出てから何も口にしてなかった。


「そうだな……」ヒロは辺りを見回した。

 遠くから川のせせらぎのような音がする。


「何か食べられる物があるかもしれない」ブランドーの町へと続く街道から反れて、ヒロ達は雑木林の中を歩いていく。目の前に大きな川が現れた。身を乗り出して覗き込むと、その水は澄んでいて大きな魚が意気揚々に泳いでいる。「この魚を捕まえて焼いて食べるか?」ヒロが背中の刀を取り出す。


「アウラ達も捕まえるだっちゃ!」「おう!!」アウラの掛け声にカカとイオも応答した。そして三人は仔犬の姿に戻ると、川の中に飛び込んでいった。

 ヒロは刀を構えると呼吸を整えて、泳ぎを止めている魚目掛けて真っ直ぐに一撃を放った。その刀を引き戻して高々に持ち上げるとその先には、大きな魚が突き刺さっている。


「アウラ、カカ、イオ、そっちは……」仔犬達のほうを見るとすでに山盛りの魚を確保していた。「お前達凄いな!でも、もういいぞ!無駄に殺生をしてはいけないぞ!」ヒロはもう一度自分が捕らえた魚を見て苦笑いした。


 近くに落ちていた木を拾い集め火を起こして、ヒロは皆で捕まえた魚を刀で素早く調理して焼いた。

 イオは生のままでも良いと言ったが、焼くと更に美味しくなるぞと諭して、待たせることに成功した。


「ヒロ様の言う通り、焼いて食べるとすごく美味しいダニ!!」イオは焼き魚が気に入ったようで一心不乱の状態で食べ続けていた。無駄な殺生と先ほど言ったが、無駄ではなかったとヒロは一人笑っていた。


 少し日が落ち、食欲も満たされ少し眠ってきたので、結局その場所で野営をする事になった。

 静かに目を閉じると川の音で心が休まり、まるで子守唄でも聞いているような心地良さであった。

 先ほど魚を焼いた焚火をそのまま残して、それを囲むようにヒロ達は眠っていた。

 急にカカがむくりと起きて、一人草むらに行こうとする。


「カカ、どうしたっちゃ?」アウラが声を掛ける。


「おしっこに行ってくるなの」カカはまなこを擦りながら草むらに消えた。

 

「あまり遠くにいっては駄目だっちゃ」アウラは瞼を擦ると、もう一度眠りについた。


 カカは、少し離れた草むらの中で用を足そうとしゃがみ込む。すると目の前にけものが唸るような声がした。ふと顔を上げると大きな狼の顔が目の前に現れた。


「ひ、ひー!!」カカは声にならないような悲鳴を上げて草むらを飛び出してきた。


「どうした!?」ヒロは飛び起きると刀を鞘から抜いて目の前に固定した。それはどんな攻撃が来ても対処出来るように万全も防御に構えだった。

 草むらの中から足音が聞こえる。

 

 ザク!ザク!


 それは、人の足音では無かった。

 アウラとイオもヒロを守るかのように身構えて、小さな唸り声をあげる。姿は人の者であるが、目とその口元は獣のように鋭くなっている。


 ザク!ザク!


 草むらの中から、ゆっくりと狼が姿を見せた。


「お、お前は!?ルイ!!ルイじゃないか!」見覚えのある狼の姿にヒロの緊張が緩和される。


「ヒロ!その声はヒロなの!?」聞き覚えのある声が聞こえる。それは故郷の村で別れた筈のカルディアの声であった。


「カルディア!?アウラ!イオ!大丈夫だ!あれは俺の知り合いだ!」言いながらヒロは刀を鞘に納めた。アウラとイオも虚勢をそがれてキョトンとしている。


「ヒロ!本当にヒロなの!?会いたかった!!ヒロ!!」カルディアは大粒の涙を流しながら、ヒロの体に抱きついた。それが気に入らないのかアウラは鋭い視線をカルディアに浴びせた。


「カルディア!一体どうしたんだ?どうしてこんな所にお前がいるんだ!?」ヒロはカルディアの両肩を掴むと自分の身体から引き離すようにした。


「そ、それは……」何か言葉に詰まっている様子であった。


「まさか!合流するアサシンって、お前の事だったのか!?」ヒロは驚きのあまり目を見開いた。


「えっ……、あっ、そう、それ!私がヒロと合流する事になったのよ!まいったな!こりゃまいったなって!」なぜか彼女が誤魔化すように笑った。その挙動不審な態度が疑わしかった。


「どうして、半人前のお前を……」ヒロは頭を抱えるように右手を顔にかざした。


「何!?酷い!剣術と術式は私の方が上よ!半人前なんて失礼しちゃうわ!」腕組をしてカルディアは怒りを露わにした。


「あの……、ヒロ様。この人は誰だっちゃ?」アウラは、突然の出来事に会話へ入るタイミングが見つからなかったようだ。


「ああ、すまん!これはカルディア。俺の幼馴染だ」アウラ達にカルディアを紹介する。「そしてこの達が、アウラ、カカ、イオ。俺の使い魔だ」


「ちょ、ちょっとなに、あんたこんな幼い女の子達を使い魔って、頭おかしくなったの!?ま、まさか、ロリータコンプレックス!!」カルディアは軽蔑に近い眼差しをヒロに突き刺した。


「ロ、ロリータって、違うわい!これはアウラ達の仮の姿だ!」ヒロの言葉を合図にするように、アウラ達は可愛い仔犬の姿に変身した。


「えっ、なに、この子達!可愛いい!!」カルディアの顔が乙女の顔に変わっていた。


「これが、本当の姿だ」いや考えてみればどちらが本当の姿のなのかは、正直言うと解からなかった。


「でも人に変身できる使い魔なんて聞いた事がないわ」カルディアが手を出すとカカとイオは尻尾を振りながら舐めた。アウラは仔犬の姿になってもカルディアにソッポを向けたままであった。


 グ~!


 お腹の鳴る音がする。どうやらカルディアのお腹が鳴ったらしい。カルディアは顔を赤くして横を向いた。さすがに男子にお腹の鳴る音を聞かれることは抵抗があるのであろう。


「腹が減っているなら、さっき捕まえた魚が少し残っているから食べるか?」朝に食べる用に残していた焼き魚を差し出した。


「えっ、いいの?」言いながら受け取った。


「ああ、明日の朝もう一度捕まえるさ。ルイ!お前も食べろ」ヒロはそういうとカルディアの使い魔である狼のルイにも魚を与えた。彼もお腹が空いていたのだろう。美味しそうにそれを食べた。


「これ、美味しいい!」カルディアは嬉しそうな顔で微笑んだ。


「それはヒロ様と、イオ達が捕まえたダニ!」イオは得意満面な顔をして自慢した。


「有難うね、イオちゃん。それにカカちゃんとアウラちゃんも」カルディアは優しい顔をしてお礼を言った。


「ふん!」アウラは相変わらずカルディアからソッポを向けたままであった。





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