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使い魔

ヒロが宿泊していた物置の戸の隙間から朝日の光が差し込んできた。その光が丁度ヒロの顔に直撃する形となっていた。


「う、ううん」眠い目を右手で擦りながら体を起こした。ヒロは基本的に朝は弱いほうであった。ただ、訓練の過程で殺気を感じた時にはすぐに目を覚ますように教えられていた。そして、どんな場所でも、どんな短い時間でも熟睡できるように体へ叩き込まれている。


「おはようございます!ご主人様」可愛らしい女の子の声がする。まるで音楽のように癒されるトーンであった。


「ああ、おはよう・・・・・・、えっ!」ヒロは驚いて飛び起きてから、少し後ずさりする。

 目の前にはそれぞれ黄色と赤色の髪をした少女が微笑みながら二人座っている。そして、ヒロの傍らには青い髪の幼い少女が丸くなって眠っている。


「昨日は、私達を助けてくださってありがとうございましたっちゃ」黄色の髪の少女が頭を下げ、それに合わせるように赤色の髪の少女も同じように頭を下げた。もう一人の青色の髪の少女は相変わらず安らかな顔で眠っている。


「昨日?!……だって?」ヒロは昨日の記憶を辿っていくが、彼女達と会話を交わした記憶は無かった。しばらく思案した後、ふと彼女達の髪の色を見て思い当たる節があった。


「もしかして、あの仔犬……なのか!?」ヒロの思惑通り、彼女達は昨日助けた仔犬が変身した姿であった。それぞれ、黄色の髪の少女がアウラ、赤色の髪がカカ、そして青色の髪の少女がイオという名前だそうである。

 彼女達は母親と一緒に幸せに暮らしていた。

 しかし、その平和な日々は続かなかった。

 ある日、突然狩りに来た人間達によって彼女達の目の前で母親は殺害された。

 彼女達は三匹で協力して命からがら逃げだし、この集落の近くに隠れていた時に、昨日の男に捕まってしまい見世物のような扱いをうけていたのだ。 

 何度か逃げ出そうと試みてみたのだが、昨晩ヒロが外した首輪に、魔封じの呪いがかけられていて本来の彼女達の力を使う事が出来ずにいたのであった。


「昨日は助けて頂いたうえに、美味しい食事まで頂いて……、そしてあんなに親切にして頂いたのは生まれて初めてでしたっちゃ」アウラは嬉しそうに礼を言う。隣でカカが同調するように何度も頷いている。イオはまだ眠ったままであった。


「そうか、それは良かったね。もうお前達は自由なのだから、これからはお前達の好きなように生きるといいよ」昨日は、仔犬を放置するようで可哀想な気持ちになったが、こうして人間の姿に変化へんげする事ができるのであれば何とか生きていくことも出来るであろうと少しだけヒロは安心した。


「いいえ、出来れば私達はご主人様のしもべとして、この身をささげたいと思うのですっちゃ」アウラは自分の胸元で両手を握りしめて、恥ずかしそうに呟いた。その隣でカカが激しく同意どうい意思いしを示すかのように頷いている。イオは相変わらずずっと眠っている。


「いや、そんな……、たったあれだけの事で……、そこまで大袈裟な……」ヒロは恐縮するかのように両腕を振って辞退の気持ちを表した。


「いいえ、私達は母を亡くしてから誰にも助けられることも無く人間を恨んで生きてきましたっちゃ。でも、ご主人様の温かさに触れて私達はこの身を一生あなた様に捧げると、昨日の夜、三匹で誓いを立てたのですっちゃ」アウラは瞳に薄っすらと涙を浮かべて懇願するように上目使いでヒロの顔を見上げた。

 それに合わせるかのように、カカもヒロの顔を見上げる。イオはまだ眠っているようである。


「でも……、そんな、一生だなんて……」ヒロはその一途に見つめる瞳を見ているのが恥ずかしくなって、目を横に背けながら顔を赤らめた。


「昔から犬は三日飼えば三年恩を忘れないと言いますが、昨日のご主人様から頂いたお情けは私達にとってはそれ以上の恩義でしたっちゃ。この想いを受け入れてくれないのであれば……、私達は……」アウラはもう号泣しそうな顔をしている。


「わ、解かった!解かったよ……。それでは俺には丁度、使い魔がいないからお前達が俺の使い魔になっておくれ」ヒロは言いながら人差し指で頬を掻いた。


「有難うございます!ご主人様!」アウラとカカは嬉しそうに歓声を上げた。その隣でイオがやっと目を覚ましたようであった。大きく伸びをしてから「あっ、ご主人様ダニ」彼女の寝起きの第一声がこれであった。イオはヒロの腕に絡みつくように抱き着いた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。その、なんだ、ご主人様という呼び方は止めてくれ。俺は出来ればお前達と主従関係では無くて……、対等として接してくれないか?その方が……、俺は嬉しい」ヒロは少し恥ずかしそうな表情をアウラ達に見せた。


「それでは、ご主人様の事をどのようにお呼びすれば良いか教えてくださいっちゃ」彼女達は困惑の表情を見せる。


「そうだな……、俺の事はヒロでいいよ。アウラ、カカ、それとイオ」ヒロのその言葉を聞いて、三人の顔がバラのつぼみが開いたように輝いた。

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