自分らしく
静かな夜になった。
昼間に遊び疲れたのかアウラ達は早く眠りについた。まるで遠足にでもやって来たように彼女達は楽しそうだった。明日のハルピュアの討伐を考えればそんな時間があってもいいとヒロは感じていた。
簡単な作戦会議を終えた後、皆が寝静まった頃を確認してヒロは一人オアシスにある湖に水浴びにやって来た。
衣服を脱ぎ捨て全裸で水の中に浸かる。昼間にかいた汗が洗い流されて気持ちがいい。
目を瞑り瞑想のような状態に入った。
「大変よ!ヒロ○!あなたのお父様が事故で危篤って警察から連絡が!!」
「えっ!」
「社長が亡くなられたら、会社はどうなるんだ……」
「そりゃ、株式は全て社長が持っていたから、一時的にも一人娘の……」
「でも、莫大な遺産を相続するんだよな、きっと……」
「ああ、それでかなり親族でギクシャクしてるみたいだぜ」
「あと、それを狙ってか求婚する男がやたらめったら来てるそうだ」
「やだねぇ、俺も立候補しようかな?お嬢さんって、滅茶苦茶綺麗だったよな」
「ああ、芸能界からもひっきりなしにオファーが来てたからな。まあ、お前なんて相手にされないさ」
「お前もな……」男達の笑い声がヒロの頭の中を響きわたる。
「こんな時間に一人で水浴びですか?」
「だ、誰だ!!」ヒロは胸を隠しながら身構える。
「いやいや、驚かせてすまない」それはオリオンだった。「覗くつもりは無かったのですが、つい……」
「……」ヒロは顔を真っ赤にして水中に体を沈めた。
「どうして、皆に偽るのですか?あなたはあなたとして生きればいいのに」
「俺は、ずっと男として生きてきました。いや、正直いうとカルディアと修行を始める頃までは、自分の性など考えた事がなかった。男と女が別々にあるなんて知らなかったんです」ヒロは両胸を押さえながら岩の影に隠れる。
「君の師匠のネーレウスさんは、そういうことは教えてくれなかったんですか?」オリオンは空を見上げている。
「ずっと俺と爺だけの生活だったから、そういうことは知らなくても済んだ。きっと必要ないと爺も思っていたんだと思います」
「そうなのでしょうか?」
「えっ!?」
「そのように男の視線から胸を隠すという事は、君には恥ずかしいという気持ちが芽生え始めているのでしょう。あの収穫祭の君は綺麗だった。僕が心を奪われてしまうほど……。それで、惚けてしまった僕は失態して君をディアナに連れ去られてしまったのだが……」
「えっ……」
「君が居なくなった夜は、悔しいというより胸が締め付けられるほど悲しかったよ」オリオンはそう言い残すと夜営の場所へ戻っていった。それ以上語ることが辛いかのようであった。
「な、なに、なんなのだ……一体……」ヒロには、今のオリオンとの会話を冷静に分析する事が出来なかった。
オリオンは自分を女として見ている。
馬鹿な、自分は男なのだ。生まれた時から、死ぬまで、そうこれからもずっと……。
あの三面鏡の中に映った唇に紅を引いた女の姿、収穫祭でオリオンと踊った記憶が蘇った。オリオンの眩しい笑顔。あの時のときめきが再びヒロの心を締め付ける。
その反面先ほど、オリオンに声をかけられた時に、戦闘体制に入るのではなく、まず胸を隠してしまった自分の行動に少しの嫌悪感も抱いてしまう。ここ最近、胸が大きくなり布で締め付けるのもかなり辛くなっていた。
「まさか、俺はオリオンの事を……」それは始めてヒロが覚えた感覚であった。その思いを洗い流すかのように、ヒロは冷水で何度も顔を洗った。




