剣精
カルディアは使い魔、白銀の狼ルイの背中に股がり街の外を探索し始めた。
腕はまだ完治してはいなかったがいつまでも肩から吊り下げた状態では、活動が制限されるので自分でそれを取り放り投げた。若干の痛みはまだあるがあの時イオの力が無ければ失っていた右腕であった。
「ヒロ……」カルディアはヒロとの出会いを思いだしていた。
十位の頃、カルディアは剣術、格闘術に優れていて同じ歳の子供達では敵知らずであった。剣術に関しては二つ三つ上の者など軽く捻ってしまう位だった。
ある日、剣術の訓練をサボり行った事のない山の中を一人で探索していた。
「わぁ、綺麗な川だわ!」山の中を流れる少し大きな川を見つけてカルディアはテンションをあげる。
「わあ、魚が一杯いるわ」訓練に明け暮れる毎日でこんなに伸び伸びと自然を満喫することなど無かったような気がする。
「きゃあ!!」不意に足元の岩が崩れて体ごと川の中に真っ逆さまに落ちそうになった。彼女は恐ろしさのあまり目を瞑った。
「大丈夫か!?」何者かに腕を捕まれ宙吊りになっているような状態になった。
「え、ええ」掴んでいる者を確認する。それはカルディアが見た事のない綺麗な顔をした男の子だった。
「引っ張るぞ!」そう言うと男の子はカルディアの体はを両手をつかって元の場所まで引き上げた。どうやら片足を少し太めの樹木に引っ掻けて体を固定していたようだ。咄嗟の判断にカルディアは感心した。
「ありがとう……」カルディアは少し顔を赤くしてお礼を言う。
「お前、馬鹿なのか!あんなに乗り出したら川の中に落ちて当たり前だろう!」男の子は完全に上から目線で怒鳴りつける。
「な、なによ!そんな事言われなくても解っているわよ!!偉そうに!!」先ほどまでの感謝の気持ちは完全に吹き飛んでいた。
「とにかく、ここはお前みたいなガキの来るところじゃねえ!二度と来るなよ!」男の子は捨て台詞を吐いて立ち去ろうとする。
「ちょ、ちょと待ちなさいよ!あなた私が誰か解って言っているの!?」
「知るわけねぇだろ!お前みたいなガキ!!」男の子はもう一度吐き捨てる。
「カチーン、頭に来た!!勝負しなさい!勝負よ!!」そう言うとカルディアは腰に据えていた木刀を引き抜いた。
「はあ……、変な奴だな……」男の子は近くにあった少し太めの木の枝を手にした。
「な、なによ!それ、馬鹿にしてるの!?」
「だって、お前みたいに四六時中木刀持って歩いてねえんだもん。俺、家の仕事があるからさ」そういうと彼は真っ直ぐに木の枝を構えた。
「泣いても知んないからね!」カルディアは飛び込んでいく。その太刀筋を男の子は見切ったようにかわす。「えっ!私の一刀目がかわされた!?」里では剣精の生まれ変わりと噂されるカルディアの剣を男の子は簡単にいなした。
「お前、強いな!」男の子も感心しているようだ。しかし彼の動きは少し出鱈目でおおよそ里でカルディア達が学んでいる技とは違うもののようだった。
何度か立ち会いをして五回に一回は男の子に負けた。ただ、誰にも負けた事のなかったカルディアにとってそれは十分に屈辱的であった。
「私はカルディア!!貴方も名乗りなさい!」
「俺の名前は……、ヒロだ!!」それが二人の最初の出会いであった。
その後、カルディアはヒロの師匠であるネーレウスに何度も頼み込んで、無理やりに弟子にしてもらった。ネーレウスとはアサシンの間ではもはや伝説に近いものになっていて、彼に享受してもらいたい者は山ほどいるが、決して弟子を取らない事で有名だと後で知った。ゆえに、一部の特別な訓練を除きカルディアがネーレウスの指導を受ける事が許可されたのだ。
そして、ネーレウスの指導の元、カルディアの剣技は更に研ぎ澄まされて、里の若い者では彼女に勝てる者はいなくなった。
いつしか彼女は本当に剣精の名で呼ばれるようになったのだ。
「ヒロ、無事でいてね……」ルイの背に乗ったカルディアは目を閉じて祈るように呟いた。




