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オリオン

「遠慮せずに食べてくれたまえ」オリオンは上品な仕草でナフキンを自分の膝の上に置いた。

 イオは見たことの無い豪華な料理に目を輝かせている。その他の一同は少し顔を強張らしている。


「君達はどちらから来られたのですか?」オリオンが口を開く。ヒロ達の身なりからこの街の住人でない事を察したのであろう。


「えっ、ああ、東の……ほうの、小さな村からです」ヒロは少し小さな声で答えた。


「ねぇ、全部食べていいダニ?いいダニか!!」イオがヨダレをたらしそうな勢いでテーブルの上の料理を一新に見つめている。


「あ、ああ……」ヒロは空返答をした。イオの声はヒロの耳には入っていないようであった。


「頂きますダニ!!」イオはまるでお預けで待たされていた犬が目の前の食べ物に飛びつくように無心に食べた。


「皆さんもお召し上がりください」オリオンはイオの様子を見て微笑むと、ヒロ達にも食事をするように即した。


「有り難うございます……。それでは、頂きます」ヒロ達も料理を口にした。


「あっ、美味しい……」カルディアが肉を一口食べてから目を見開いて感想を述べた。


「良かった」オリオンはまた爽やかな笑顔で微笑んだ。


「でも、どうして見ず知らずの俺達にこんな豪華な食事を……」ふと見るとアウラとカカも一心不乱に食事を進めていた。「お、おいお前達!!」 


「あはは、足りなければ追加しましょう。いや、失礼ですが君達に、いや君に興味があったというか、一緒に話をしてみたいと思ったのです」両手の肘をテーブルに突き手のひらを組むとその上に頭を乗せた。


「俺……、ですか。俺は普通ですけど……」ヒロは誤魔化すように肉片を口に入れた。その途端、味わった事のない食感と味が口の中一杯に広がった。先ほどのカルディアと同じように大きく目を見開いた。


「気に入って頂いたようですね」オリオンは嬉しそうであった。「どうしても僕の事を貴族として、皆距離を取るので言葉通り腹を割って話をする相手がいないのです。初対面ですが君とは遠慮無しに話せるような気がしたんです」オリオンは真っ直ぐにヒロの目を見つめた。


「俺は、そんな無礼な態度でしたか……?」ヒロはなんだかオリオンの視線が痛いような感じがして目を反らした。


「いいえ、失礼しました。そういう意味ではありませんよ」オリオンは、また爽やかな笑顔を見せた。


「あの……、本当にお代わりしてもいいダニか?」イオがちょっとだけ遠慮気味の顔で聞いた。


「イオ!」アウラが少したしなめるように言う。しかし、アウラの前の食事もすでに無くなっている状態であった。


「あははは、結構ですよ」オリオンはそう言うと、料理をさらに追加させた。


「あの……、王子様はどうしてこの街においでなのですか?」カルディアが恐る恐る聞く。


「ああ、オリオンと呼んで頂いて結構ですよ。恥ずかしい話ですが、国で結婚の話が出たのですが、愛していない人と結婚するのに抵抗がありまして、まあ……、花嫁探しですよ」珍しくオリオンが少し恥ずかそうな顔をした。ヒロにとってはその回答は意外であった。

 話してみてその人柄にも正直驚いていた。貴族の王子と聞いていたので、もっと傲慢な男を連想していた。しかし、こうして話しているオリオンはとても紳士であり好感がもてる男であった。自分はこの男の暗殺を任務としてこの場所にいる。あまり情が出来ると支障が出てしまう。


「オリオンはどんな女が好きなんダニ?」イオが言われるまま馴れ馴れしい口調で聞いた。


「こらイオ!!」アウラがキツイ口調で叱った。


「いいえ、いいのですよ。オリオンと呼んで頂いたほうが僕は嬉しい。そうですね、カルディアさん……、でしたね。あなたのような勇ましい感じの女性は好みです。一緒に狩りとか付き合って頂けそうですし」オリオンは悪戯な微笑みを投げかける。きっとこの笑顔に沢山の女性達が虜になっているのだろうとカルディアは感じていた。


「えっ?!」カルディアは真っ赤な顔をして上目遣いでヒロの反応を確認した。少しは焼き餅でも焼いてくれているのではと期待した。しかし、ヒロは真剣な顔をしていてそれどころではない様子であった。


「オリオン様、あなたは一人で旅をされているようですが、あなたに何かあったらどうするおつもりなんですか?お国の一大事になるのではないですか?!」ヒロは、なぜか呑気に一人で漫遊しているこの男に少し怒りを感じていた。


「ああ、それは大丈夫です。僕には弟が一人いるのです。僕に何かあれば彼がなんとかしてくれます。それに……、大きな声では言えませんが、僕は国政に興味はないんですよ」ヒロの態度を受け流すかのようにオリオンは答えた。


「じゃあ、オリオン様は一体なにがしたいのですか?」カルディアが聞く。


「そうですね。僕は王として国を統治するよりは、国民の中で皆と一緒にこの国を変えていきたい。出来れば一部の貴族が繁栄する世界ではなく、国民の一人一人が幸せになれる。そんな国にしたいんだ」オリオンは夢を語る。その言葉を聞いてヒロはショックを受けた。貴族や王族の人間は皆、国民は自分達の贅沢の為に富を摂取する為の道具位にしか見ていないのだろうと思っていた。ましてや、ヒロ達のように生産をしない人間などゴミのようにしか見ていないのであろうと。しかし、目の前にいる男は貴族の仕組みを破壊して皆が幸せになれる世界を作ろうとしている。いや、行動に起こしていないとしても、口にしている。それだけでも驚きであった。


「そんな事が本当に出来ると思っておいでなんですか?」彼の言っていることは夢物語のように聞こえた。


「そうだね。行動をしなければ絵に書いた餅だ」そう言うとオリオンは初めて真剣な顔を見せた。


 ヒロはオリオンの真っ直ぐ自分を見つめるその瞳を見て、何か胸の辺りをぎゅっと締め付けられたような気がした。



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