50年後の真実
「ご乗車ありがとうございました。終点、上里です」
駅のホームに降り立つと、モワっとした暑さと蝉時雨が身体を包む。立ちどころに全身から汗が
ブワっと吹き出してきた。
「うわっ、あっちぃ」
ホームに降り立った3人の少年、そのうちの1人で、日焼けした色黒の少年が思わず声をついた。
「これは気温28、もっといってるかな」
3人の中で色白の痩せ型の少年もハンカチで顔を吹きながら応える。
「早く行こうよ、電車の中でジュース全部飲んじゃって喉乾いちゃった」
さらにその中で大柄な少年がボヤく。
「清治は飲むの早えんだよ。もっとペース考えろよ」
パシンと清治の背中を叩き、色黒の少年隆行は改札へ歩き出した。
「行こう、巧ちゃん」
清治に促されて痩せ型の少年、巧も歩き出した。
3人がやってきた上里村は、ダム湖を見下ろす小さな街で人口は600人ほど。かつては林業で栄え、最盛期は5000人がこの村で暮らしていたという。しかし、林業の衰退でじょじょに人々は街から離れていき、今は半分以下にまで減ってしまっている。
清治の祖母花子はこの上里村の出身であり、彼の母親も就職で上京するまで暮らしていた。物心ついた時から清治は家族でお盆に帰省していたのだが、今年は両親の仕事が忙しく清治だけで行くことになったのだが…
「せっかくなら、清治くんのお友達も誘ったら?」
と提案したのは花子。1人で来るよりそっちのほうが楽しいでしょ、と。
清治が誘ったのが普段から仲の良い隆行と巧の2人。2人の親も賛成し今回の旅行と相成った。
「確か駅でおばあちゃんが待ってるって言ってたけど…」清治が構内を見渡していると「おーい」と呼ぶ声がした。
「お前さんが総太の孫の清治か!いやはや、総太にそっくりだ」
「よく来たね清治、この人は剣太、総太お兄ちゃんの同級生だったのよ」
「早く車乗りな、クーラー効かせてあるぞ」
車の中では剣太と花子の思い出話に花が咲いた。
「あいつは虫とか魚がいる場所を見つけるのが上手くってな。総太が『ここにいる』って言うとホントにいるんだよ。俺も友達もいつもビックリしてたなぁ」
「お兄ちゃんが『雨降るから早く帰ろう』って言ったら本当に降ってきたことあったわ」
そんなこともあったか、と運転席の剣太と助手席の花子は二人で盛り上がっていた。
「でもおばあちゃん、総太お兄ちゃんって村のダム湖で遺体で見つかったって前話してたよね…?」
清治の言葉に2人の顔が曇った。
「今年は2008年か。もう50年経ったんだな」
赤信号を見ながら剣太がふと遠い目をした。
「孫が生まれても、私の中ではお兄ちゃんはあの頃のままよ」
「そういやあの日も、あんな入道雲が出てたっけな…」
車の外には大きな入道雲がそびえるようだった。