02 情報量多すぎ!
獣耳マッチョ男性の顔の横には、こう記されていた。
獣人族 獅子タイプ
レオーネハルト
この人の名前だろうか。
いやでもなんで宙に文字が浮いているんだろう。
私はゴシゴシと目元をこすって、もう一度見てみた。
けれども、文字は消えることなく、逆に増える。
獣人族 獅子タイプ
レオーネハルト
レベル30
レベルって、ゲームか。心の中でツッコミを入れる。
そんな私の視線を追って、不思議そうに顔を背けた獣耳マッチョ男性。
ふっと浮かんでいた文字は消えた。幻覚かな。
「レオーネ! よくやった! こっちに連れてこい!」
上から声が落ちてきたかと思えば、あの金髪青仮面の声だ。
結局、捕まったのか、私!
レオーネと呼ばれた獣耳マッチョ男性は、無言のまま階段を上がった。私を抱えて。
上に戻ってしまった私が目にした光景は、壁がすっかり崩壊してしまった廊下だった。さっきの爆発で壁が丸ごと壊されたのだろうか。なんとも風通りがよくなってしまい、強めの風が私にぶち当たる。黒い髪を押さえて気付く。頭の上に何か乗っている。触ってみれば植物のような感触。なんだこれ。
頭から外して確認しようとしたけれど、影が降ってきたから意識が逸れる。
船だ。大きな船が、空いた穴から覗くように浮いていた。
大砲らしき口が、何個かこっちを向いている。さながら海賊船。映画で観たことある。
多分、いや絶対にこの宙に浮いた海賊船が、さっきの爆発を引き起こしたに違いない。
たらり、とロープがいくつか垂れ下がってきたかと思えば、そこにいた人々はそれを掴み、よじ上り始めた。
なんだ。この人達の船か。じゃあ私も連れて行かれるのかな。
そう思っていたら、私を抱えた男性が、しゃがんだ。私を下ろしてくれるのかと思ったけれど、そうではなかった。
ドッと床を蹴り上げて、ジャンプしたのだ。軽く五メートルは飛んだんじゃないだろうか。驚きのあまり目を真ん丸に見開いたまま、男性にしがみ付いた私。無事、船に乗り込んだ。でも心臓は無事じゃなくて、ドドドッと短く跳ね回っている。ジェットコースター好きだけれど、これは、かなり、怖かった。
「まずいっス!! やつら、召喚獣を出してきました!!」
誰かが叫ぶと、一斉にかなり広い船の上にいた人々が、端へと駆け寄る。
召喚獣。またもやゲームっぽいな。
ナイフの柄を握り締めたまま、私は男性の腕の中で固まっていた。
今更ナイフの存在に気付いたかのように、男性は私からナイフを奪うとぽいっと船の外に捨てる。
恥ずかしい格好で、丸腰になった。
「んにゃぁああ~!!!」
思わず耳を塞ぎたくなる大きすぎる鳴き声が響く。
男性も頭の上の耳を押さえたものだから、私は解放されて一人で立つ。
まるで怪獣みたいな声だった。一体どんな召喚獣が鳴いているのかと思い、私も人々が見ている方に行ってみる。
猫型の怪物がいる、という認識をした。黒猫っぽいが全体的に丸みを帯びている体型。背中には、蝙蝠のような翼が生えているが、飛ぶには小さすぎる。そんな猫型の怪物は城を壊しながら、そこに立っていた。でかい。城も怪物も。でかい。
口をあんぐりと開けていたら、また文字が浮かんだ。
召喚獣 巨大猫型
ミチ
レベル15
500000/500000
レベルの下に数字。50万? まさかこれって……体力ことHP?
強くない? 強すぎない? もはやレイドバトルの敵じゃん。
「一斉に魔法攻撃しろ!!」
金髪青仮面が叫んだ。
そして何やら呪文らしきものを唱え始めた。一同、全員だ。
「お力を貸してください! 巫女姫様!」
一人の少女が私に話しかけてきたから、ギョッとしてしまう。
巫女姫様って私だよね? え? 私に怪物退治しろっていうの?
「王冠を、お貸しください」
手を差し出した少女は、赤みの強い桃色の髪の毛先をくるんと撥ねさせた可愛い系。
王冠と言われて、頭の上の被り物を思い出す。これを貸せばいいの?
「はい」
「ありがとうございます、お力を貸していただきます!」
植物で出来た王冠みたい。白い花が一つ差し込まれた王冠を、両手で受け取った少女は自分の頭にそれを乗せた。
これで力を貸したことになるの? はてなマークが並んでしまう。
そうこうしている間に、魔法攻撃が始まった。
炎を纏った砲撃や、氷の塊や、電撃が、ミチという名の召喚獣に当たる。
そうすれば、数字が浮き出た。50や40や35という数字。
え、もしかして、これってダメージ数?
弱っ! 魔法攻撃、弱い!
「んにゃぁああ!!!」
痛くもかゆくもないと言わんばかりに、魔法攻撃を受けながら鳴く召喚獣。
手招きするように猫パンチするが、宙を浮いている船には届かない。あ、城の方が壊れていっている。
誰かがびりびりしている魔法の矢を放つけれど、5とか3しかダメージを与えられていない。
弱すぎる! これじゃあ、城が崩壊する方が早い!
まだ1000すら、削れてないじゃないか!!
499000もあるよ!? 陽が暮れて明日になる!!
「くっ! 効いてないのか!?」
「攻撃を続けろ!!」
仮面達がそう声を上げつつも、攻撃を続けた。
「雷属性は効かない!!」
私はそう声を上げる。魔法攻撃が一旦止んで、私に注目が集まってしまった。
し、しまった……つい言ってしまったぁ。
発言してもよかったのだろうか。でも無駄撃ちしててもしょうがないし。
「今のところ効果的なのは、火属性の魔法!」
「……よし! 皆聞いたな!? 火属性魔法で攻めろ!!」
金髪青仮面が、私の助言を聞き入れて、そう指示を変更した。
火攻め魔法攻撃となると、50超えのダメージ数が次々と浮かんだ。
けれども一番効果的でも、100行くか行かないかくらいだった。
こちらは攻撃を受けていないとは言え、魔法を無限に撃ち続けることは出来ないだろうし、このままでは詰んでしまう。
何かあの怪獣こと召喚獣を倒す裏技的なものはないかと凝視していたら。
視界の隅に、別の数値が浮かんだ。ちょうど右端だ。
90000/90000
300000/300000
下に表記された300000が、900減った。
それに私の足元に、淡い光りが浮かび上がっている。
なんとなく見てみた王冠を貸した少女を見れば、同じ淡い光りが集まっていた。
「大魔法を放つぞ!! 何かに捕まっていろ!!」
誰かの声で攻撃はまた止み、各々船にしがみ付く。そして少女に注目した。
え、大魔法って何? まさか、私の力を貸してって……こういうこと!?
私の魔力を使って、代わりに大魔法を発動!?
つまり、この右端の数字は、私のものなの!?
「”ーー全ての火の子よ集え、燃えよ燃え上がれ、輝き赤き炎よ。紅蓮の炎、燃やし尽くせーー”!!」
可愛い系の少女なのに、とても凶悪な笑みを浮かべて、呪文を唱え上げた。
そうすれば、炎の柱があの召喚獣を燃やす。その熱風がこっちまできて、しがみ付いてなければ転んでいたところだ。船も大きく揺れた。
ダメージ数は、10000超え。しかも一回ではなく、複数回、ダメージを与えたのだ。
440867まで減らせたが、まだまだ。これを連発できるか。
「ん?」
召喚獣 巨大猫型
ミチ
レベル15
440867/500000
弱点 光属性
弱点がご丁寧に表示されていた。どういうことだ。
しかし弱点なんだから、そこを突くべきだろう。
「光属性の大魔法を使える!?」
「光属性? 喜んで!!」
二ッと口角を上げて、少女は頷いた。
「弱点は光属性!」
私は他の人達に教えたが、困惑した顔をされてしまう。
え、調子に乗りすぎた?
「出来る者だけでいい!! 光属性の攻撃をしろ!!」
金髪青仮面が言った。
そうか、光属性攻撃が出来ないから困惑したのか。
「”ーー母なる聖なる光、我の道を照らしたまえ。閃光の柱ーー”!!!」
少女が叫ぶように唱えたと同時に、他の人達も光属性の魔法を放った。
光の柱がカッと現れ、周りが暗くさえ見えてしまう。
そんな光の中でダメージを食らう召喚獣。500000と数字が浮かび、その他にも2000超えの数字が浮かんでは消えた。
大魔法の中の大魔法だったのか。一撃で終わりじゃん。効果覿面にもほどがある。
「ん、にゃぁああぁ……!」
光がなくなっていくと、その黒猫のような輪郭も、消えていく。
消滅だ。召喚されたから、どこかに戻ったのだろうか。
「……わ」
295100になっている。すごい減った。と思う。
大魔法って、すごい魔力使うのか。下の300000って魔力ことMPだよね。
……私も私で、とんでもなくない? HPも、多すぎる。
巫女姫って何。なんなの。
「巫女姫様。お力を貸してくださり、ありがとうございました」
少女が白い花が差した植物の王冠が返された。
受け取ったはいいけれど、これ被った方がいいのだろうか。
なんだろう、これ。私の魔力を貸すような王冠だ。ちゃんと身に付けた方がいいか。
ポンと頭に乗せてみた。これはこれで、恥ずかしいような。いい加減、着替えたい。
「えっ」
声を溢してしまう。
今まで魔法攻撃をしていた人々が、仮面の人達が、片膝をついていた。
跪いている。私に向かって。
「「「巫女姫様っ!」」」
頭を下げて、巫女姫様と呼ぶ。
崇めているみたい。
えっと、うんと、これはどうすればいいの?
大勢に跪かれて、私はどうしたらいいのやら。
「あのぉ……えっと……ここ、どこ? 巫女姫って何?」
恐る恐ると尋ねてみた。
「自分の状況がご理解出来ないのですか。ではオレが説明します」
金髪青仮面が立ち上がった。そして目を隠した青い仮面を外す。
さらさらした金髪の下には、同じく金髪の睫毛の長い瞳は青。
やっぱり、イケメンだ。でも思ったより歳は近そう。
人族 王族 第二王子
レインダン・テンペス・ソニック
目を真っ直ぐに見ていたら、彼の顔の横に文字が浮かんだ。
人族ってことは、この人は人間か。
王族で第二王子。……第二王子!?
私はほぼ半壊している城と金髪青瞳少年を交互に見た。
言われてみれば、王子っぽい容姿だけれど!
「どうかなさいましたか?」
私が首を振っている様子が不思議で堪らなそうに小首を傾げる第二王子。
「ああ、見えているのですか……やはり伝承は本当だったのか」
ぼそっと呟くと納得したように頷いた。
「ならば、鏡を見た方が早いかと思います」
「か、鏡?」
自分の顔を見ろってこと?
「誰か、鏡を」
「あたしが出すよ! はい、巫女姫様!」
あの桃色髪の少女が返事をすると、私に手鏡を渡してくれた。
鏡に映るのは、顎まで届く前髪を左右にまとめた黒髪とブラウンの瞳の私。
ハーフだから、日本人とは言い難い顔立ちをしている。目鼻立ちがはっきりした顔。
よく美人と言われる方だ。
そんな自分をじっと見ていたら、文字が浮かんだ。
巫女姫
エレナ
巫女姫とカタカナでエレナと書かれただけ。
私の種族名が巫女姫なの? ん!?
むむむっと凝視していたら、文字が増えた。
巫女姫
エレナ
レベル50
あ、レベルが出たけれど、やっぱり強いな。
さっきの獣耳マッチョ男性がレベル30なら、私はどんな怪力を発揮するんだろう。
いや、そういう強さが表記されてないから、わからないか。
そう思えば、また文字が増える。
巫女姫
エレナ
レベル50
身長163センチ 体重52キロ
90000/90000
440869/300000
強さ
攻撃力 60 魔法攻撃力 ∞
守備力 3000
力 50
素早さ 40
巫女姫であるエレナは、地球から異世界転移をした。
巫女姫とは、見えないものが見える目を持ち、偉大な魔力を持つ者。
あらゆる数値や情報を見ることが出来き、大魔法も容易く発動出来る魔力を所有している。
頭に被るのは、千年花王冠。魔力補助装置の役割を持ち、他者が被るとエレナの魔力を使用することも可能である。ただし許可がなければ使用は不可能。
どんな攻撃にも魔法にも、守備力の高さでほぼ無傷で済む。これは一度首を撥ねられたために、守備力を高めたことが理由である。今現在、ほぼ不死身と言える。
そこまで読んで、私は一先ず止めた。
いきなり情報量多すぎっ!!!
異世界転移って、アニメとかで観たことあるやつだ!!!
私、ただの高校生なんだけどーっ!!! なんでほぼ不死身化してるのーっ!!?
20200624