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50話 side 白雪澄乃

「あ、お兄ちゃん。あたしに用って、なんですか?」


 昼休み、お兄ちゃんに用があるって言われたあたしは廊下の踊り場にやってきた。


 場所はどこでもいいって言われたから、あたしの指定だ。


「お前か?お前がやったのか?」


「え?何のことですか?」


 あのいつも他人を見下して自信満々のお兄ちゃんが、あたしに対して怒ってる。


 いや、焦ってるって言った方が正しいかもしれない。


「噂だよ!あの噂、お前しか知らない事だろうが!ばらしたな!」


「お兄ちゃんひどい……。あたしが、お兄ちゃんとの約束破るって思ってたの?あたし、お兄ちゃんの妹だよ?一番側に居られなくても、ずっとずっとあたしはお兄ちゃんの妹だって思ってたんだよ?それなのに……あたしのこと、疑うの?」


「いや、そうだったな。すまん。もう、俺一人になってたから、不安で……」


 事前に用意していたセリフは完璧だったみたいで、お兄ちゃんはすっと静かになった。


 本当に、みんなあたしの思い通りになっちゃうんだな。


 ひなも、お兄ちゃんも。


 でもそれはあたしが、大切な運命の人を幸せにできる力のある特別な人間だからだよね。


 じゃあ、この後も用意していたセリフを続ければ、きっと予想通りになるはず。


「一人に、なっちゃったの? え、あれだけたくさんいたのに……誰も、あの噂が嘘だって信じてくれなかったの?」


 お兄ちゃんは、無言で小さくうなずいた。


 お兄ちゃんのこの学校で先輩後輩同級生含めて30人近くいた女子は、もう誰もお兄ちゃんの側にはいない。


 それが本当だってことを、あたしはそれで実感できた。


「な、なぁ、澄乃!また、やり直せないか?今度は、今度こそはお前を一番に大切にする!だから、お願いだ!俺を一人にしないでくれ!」


 縋りつくようにあたしに近づいてきた兄ちゃんの顔は、すっごくぐちゃぐちゃでいつもの力強さと誰もが負けちゃう覇気は微塵もどこにもなかった。


 完璧だ。


 ここで、ちょんってしてあげればもう完璧。


 もう、心の中から湧いてくる感情をあたしは抑える事なんてできない。


 だから、この言葉が本当に感情を乗せて言うことができた。


「あはっ!お兄ちゃん、あたしのところに戻ってくれたんだ!嬉しい!」


「澄乃!そうだよな!お前は俺の妹だも――」


「……なんて、言うと思った? あなたはね、もう誰でもない。ただの……あ、ごめん、もう持ち合わせる言葉もないくらいどうでもいい人。でも、今の姿すっごくお似合いですよ。これを見たら、きっとたくさん居た女の子も戻ってきますよ、その惨めな姿を見て『ああ、なんて惨めでかわいそうな人』って」


 あたしの言葉を聞くたびに、目の前の顔が変わっていく。


 最後に頼って、絶対に裏切られないって思っていた存在に、裏切られた気分なんて知りたくもないしどうでもいい。


 今あたしにあるのは、人間の心を一発で粉微塵にした快楽だけ。


「あはは!どうですか?今、どんな気分ですか?あははははは! 無知でのろまで役立たずと言いい続けて、命令のままにお金を渡すことでしかあなたの側では存在できなかった妹に、あの時のように堂々と教えてみてくださいよ! 今のお兄ちゃんの気持ちを! ほら、どうなんですか? ねぇ、教えてくださいよ! あははははっ!」


 たまらない。


 心の中で湧き上がってくる笑いが、止まらない。


 人の心をあたしの思うままにするって、最高に気持ちがいい。


 あたしはそれができるし、許される特別な人間。


 ひなの心を幸せのために壊した時とは違う快感が、あたしを満たしてく。


 自分が絶対的強者だって思っていた人間を、最下層に見られていたあたしが壊したんだっていうのは最高の気分だった。


 そして、あたしの中の絶対だったはずの存在が、今はもう何の魅力も感じなくなっていく。


「もうね、あたしは本当の運命の人の特別になれたから、もう用無しなの」


 あたしは床に崩れ落ちたお兄ちゃんだった何かの、頭を踏みつけたことにすら気が付かなかった。


「でもあたしは優しいから、これからはあの時以上のもっと楽しく過ごせる世界を用意してあげたよ。あたしの運命の人が望んだ、楽しい楽しい世界だから精一杯楽しんでね。じゃあね、()()()()()


 餞別代りの言葉を投げつけたあたしは、職員室に向かう。


 あとは、今日のために用意しておいた最後の手を打つだけ。


 こいつを壊すなら、心だけじゃなくて将来も今、置かれている環境も全てを徹底的に壊さないといけない。


 それが、ひなの望みだから当然だ。


 それにこの名前すら見つからないほどの物体が、あたしの作るひなのための『シアワセのセカイ』に、絶対に触れることも見ることもできないようにしてあげないと。


 もちろん、あたしの創った新しいひなのために、ね。

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