33話
間森さんはこのことを事前に決めていたように、てきぱきといろいろなことを目の前でこなし始めた。
ぽかんとするあたしは、すっかり置いていかれていた。
ちょうど休み時間になっていたあたしの友達に連絡を取って、あたしの無事と今日は相当悪そうだから落ち着くまで一緒に居て家に送り届けることを伝えていた。
当然、先生たちへの報告は上手く誤魔化してくれるようにも頼んでいた。
白雪さんは今ではクラスではすっかり溶け込んでいるし、あたしと同じくらい信頼されてる。
特に、成績優秀で教師受けは最高って感じなので大丈夫かもしれない。
「これで、よしっと。これで間森さんは、自由の身です」
他にも何個か電話ししてみたいだけど、全ての連絡を終えたみたい。
スマホをしまって、一息ついてあたしの隣に並んだ。
「ごめん……」
「謝らないでください。本当に、大丈夫ですから」
「白雪さんまで巻き込んだんだよ?気にするよ」
あたしは飛び出してしまったから怒られてもいいけれど、白雪さんはそれを追いかけた。
もしあたしのせいで白雪さんも一緒に怒られることになったら、どう考えてもあたしは耐えられない。
「いいんです。そろそろあたしも学校行きたくなくなっていましたから、いい口実が出来たって感じです」
だけど、不安なあたしとは正反対の白雪さんはどこか晴れ晴れとした口調で、そんなことを言った。
「え?」
驚いて横を見ると、大分青さも増してきた秋の空を気持ちよさそうに白雪さんは眺めていた。
「間森さんは知らないでしょうけど、あたし一学期、ちょこちょこ休んだりしてますよ。それって、学校に行ける気持ちじゃないって自分で判断して休んでたんです。聞かれたときの理由は、適当ですけどね。学校の先生に、今日は気分が乗らないからいけませんって聞いてくれると思いますか?」
最後のところは当然としても、まず真面目そうな白雪さんがそんな自分勝手な事で学校を休むなんてあたしには信じられなかった。
真面目な白雪さんだからこそ、学校は何が何でも無理を押してでもしてくるような性格だと思っていたから。
だけど、あたしはもう分かっている。
白雪さんは、あたしに対して嘘を言う性格ではないってこと。
もちろん、おだてるためとかで嘘を使う事はあった。
そこは指摘すると、恥ずかしそうにして『さすがに分かっちゃいますか』なんて言って見せるんだけど、分かりにくい嘘や普段は当然つくなんてことはない。
「さすがに社会人となると無理な場合は多いですけど、無理でフラフラの状態で仕事をしてもいつもの半分出ればいい方ですし、下手すれば百分の一の力しか出ません。もしかしたら、調子が悪かったせいで大損害を出すかもしれない。それだったら、休んだり遅れて行ったりした方がいい場合もありますよね。あたしはそういう方をたくさん見てきましたし、あたしもそれを実感する機会がありましたからね」
淡々と話されることは、あたしにとっては常識とは思えない事だったけど、どれもあたしの中に浸み込んでいく。
「だから、あたしはできるだけ多く良い力が出せるように、無理しないで休んだりしてみたんです。やってみたらあたしにはぴったりでしたね。そうやって休むことによって、成績や気分も安定しました」
「でも、一日でも休んだら、授業とか大変だったんじゃ?」
「当然、抜けた授業は先生に聞いたりしてましたよ。そうしておけば、まぁ……保険にもなりますし」
そう言うところは、白雪さんは本当にしっかりしてる。
恐らく先生にしっかり謝罪をして、何とか授業のポイントだけでも教えてもらったんだろう。
白雪さんの頭なら、そこさえ押さえればみんなに追いつく事は簡単だろうし。
「さて、どこ行きましょう」
「え?え?」
急に話が変わって、あたしは思わず二回も聞き返していた。
「今から、サボりに行く場所です。間森さんは、どこか行きたい場所ないんです? せっかくなんですから、楽しめる場所がいいと思うのですけれど」
「だ、だって、サボるって初めてだし、学校の辺りしかお店知らないし。第一、そこで遊んでたらバレちゃうよ」
あたしが知ってるお店も時間が潰せる場所も、学校の近くしかないからお店の人もこの服を見れば学校が分かっちゃう。
そんなとこに行くなんてあたしにはできないから、どこって聞かれても選択肢なんてない。
あたしは高校生であたしの知ってる世界なんて、本当にちっぽけだから。
情けなさに俯いてしまうあたしの上から、白雪さんの柔らかい声が振ってきた。
「あのですね、間森さん。あたし達には足とお金と言葉があります。それがあれば、どこだって行けるんですよ」
「それって、もしかして……」
まさかって思う。
白雪さんの提案してくれた意味とその答えを、あたしは何となく知っている。
それは普通なら考えはするけど、やりはしないことで。
だけど、白雪さんはそんなことをやってしまう人間だって知っている。
「それを使って間森さんを誰も知らない場所に行っちゃえば、いいんですよ。そうすれば、好き勝手出来ます。どうですか?」
白雪さんが教えてくれたあたしへの答えは、完ぺきなほど予想通りだった。
そんな場所に行くことができたらいいなって、心の底では思ってた。
でも、一人じゃできなかった。
あたしは、出来なかった。
でも、今は一人じゃない。
隣には、白雪さんが居る。
一番の特別な友達の、どんなあたしでも認めてくれる大切な相手がいる。
はっきりと頷いて、白雪さんに手を伸ばした。
そして、笑顔と共にその手はゆっくりと握られた。
「じゃあ、決まりですね。行きましょう。あたし以外、間森さんを誰も知らない場所へ」




