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25話

「そう言えば、初めてじゃない?」


「確かに。明日、雪降るんじゃないかってくらい珍しいよ」


「確かに初めてだけど、そこまで言う?」


「だって、いっつも提案するのあたし達で、ひ……間森からってなかったから。最初はちょっとびっくりしたよ」


 約束の日、カラオケ店に行く間あたしは友達とそんな会話をしていた。


 あたしだってみんなとカラオケに行くことはあるから今回だって普通の事だと思っていたけど、どうやらみんなにとってはそうじゃなかったみたい。


「あのさ、迷惑だった?」


「逆、逆。間森の方から誘ってくれたのが、嬉しいの。あたしたちの事、ちゃーんと友達って見てくれてたんだって分かったし」


「だってどこ行くのも提案するのあたし達で、間森はしょうがないなって感じてついてく感じだったでしょ? あたしたち、間森に無理させてんじゃないかなって心配だったんだから。それって友達としてどうかと思うし」


「結構、気にしてたんだからねー?あたし達」


 あたしの不安の言葉に、横に並ぶみんなは口々にそんな風に言ってくれた。


 なんだ、結構みんなには心配かけてたんだ。


 大人として、全然ダメゃない。


 でも、間違っていたことを直すのも大人だから、これからはもっと誘ったりしてみてもいいかも。


 白雪さんはというと、当然このカラオケに参加している。


 だけど、みんなの一歩後ろ。


 あたしは、皆さんの会話には入りませんアピールするみたいな位置を、ゆっくりとついてきている。


 白雪さんは学校ではここにいるみんなと会話することはほとんどないし、やっぱり和を壊すってことで遠慮しているかもしれない。


 もしかしたら、大人の白雪さんだからあたしには分からないことを色々考えているかもしれない。


 だけど無理にこっちに誘う事を白雪さんにはしないし、する必要もない。


 だって、白雪さんはみんなみたいな子供じゃなくて、大人だから。


 ちゃんと入るべきタイミングや、いろんなことは分かってるはず。


 それが出来そうもないって思ったら、大人のあたしがちゃんとリードしてあげるだけ。


 まずあたしは今日、この前白雪さんが言ってくれた『大人の意味の遊ぶ』を、出来るようにやってみる。


「うん、みんなで楽しもうね! もちろん白雪さんも一緒にね?」


「はい。お邪魔にならないように、ご一緒させていただきますね」


 ちらっと振り返ると、白雪さんはいつものちょっと変わった口調で返してくれた。


 みんなは特に何も思わなかったみたいだけど、あたしにだけは白雪さんが言いたいことが伝わっていた。


『心配しないで、大丈夫ですからね』


 少しだけ緩んでいた表情は、あたしにそう伝えるには十分すぎるものだった。




「ねぇ、ちょっと白雪さんマジすごかった!」


「うんうん!一曲だけだったけど、ほんっと良かった!」


「あたし聞いた途端、次に入れてたの後悔したよ……。下手なのが余計に下手に聞こえちゃうって……。あれ」


 カラオケからの帰り道、あたしを含めみんなの話題中心は白雪さんだった。


 3時間のカラオケの間あたしもたっぷり歌って、みんなもたっぷり歌えたみたいで、大満足。


 その中で、白雪さんが歌ったのはたった一曲だけ。


 それも当然、自分からじゃなくてみんなに強引にマイクを押し付けられるっていう感じだった。


 それまでは、こまごまとみんなの世話を焼いたり、どんな歌でもしっかり聞いてくれて感想を言ったりして歌う事はなかった。


 そのどれも当たり前のようにやってるけど、本当にしっかりしした。


 少しでもカップが空けば飲み物を取ってきましょうかって聞いてくれるし、デュエットっぽかったらもう一人分のさりげないマイクの受け渡しだけじゃない。


 どうだったって感想を聞かれれば、本当にいいところを恥ずかしくなるくらい真っすぐに褒めていた。



 そのどれもが、無理してるって全く見えないから凄い。


 いつの間にかみんな白雪さんを受け入れていたのは、白雪さんがそんな小さなことを積み重ねた結果だと思う。


 そしてマイクを押し付けられると、嫌だなんて言わないで『あたしが歌えるのは、この一曲だけですからね?』なんて、おどおどしながらマイクを握った。


 普段の白雪さんを考えればみんなはまともに歌えるなんて当然思っていなかっただろうし、あたしはちょっと祈るように何とかいきますようにって思ってた。


 だけど、みんなの予想は裏切られ、あたしの心配は杞憂で終わった。


 白雪さんが選んだのは、最近はやり始めた女性歌手の一曲。


 声の量もしっかりしないと歌うが大変そうで、英語も多くって、特にサビなんて全部英語。


 そんなあたし達には到底歌えない曲を、白雪さんはきっちりと歌い切った。


 それも、すっごい上手いっていうレベルで。


 いつもの白雪さんの大人しくというか小さい柔らかな声からは想像もできない。力強く滑らかな声だったのでみんなはポカンとしていた。


 その後は、もう完全に白雪さんはみんなから分け隔てもなく接してもらっていた。


「すごいでしょ、白雪さん」


「なんで、間森が得意げなの? まぁ、連れてきてくれたのは感謝だけど」


「皆さんはたくさん歌えますから、そっちのほうがすごいですし楽しみは多いですよ? あたしは一曲だけしか歌えませんし」


「その一曲がすごかったの! ねえ、どうやったらうまくなるの?」


「そうそう、教えてよ。あれだけ歌えたら、あたしももっと楽しめそうだし」


「ねー、せっかくだから教えてよー? ね、いいでしょ?」


「みんな、そんなに聞いたら白雪さんだって困っちゃ――」


「気持ち、ですかね」


 みんなの暴走を止めなきゃやばいと思ったのに、白雪さんはしっかりとみんなの疑問に答えていた。


「上手いとか下手とか考えるのはあたしはかなり後です。まずは、この歌の伝えたい気持ちを考えて、その伝える相手になり切って感情を込める。それをあたしはずっと繰り返していただけですよ」


「へぇ……」


 言わんとすることは分かるけど、あんまりにも具体的じゃない。


 だけど、白雪さんらしい答えだったのかみんな納得していた。


「今回の曲はお誘い受けてから練習したので、練習期間は短くて3日。ですから、不安だったんですけど。何とかなりました」


「は!?」


 あたしとみんなの驚きなんて知らないように、白雪さんは当たり前の顔をしていた。


「ねぇ、ひな……」


「うん、あたしも思ったのと一緒だと思うよ」


「皆さん、どうされました?」


 いつもの様に小首を傾げた白雪さんに、あたしとみんなは同じ言葉をかけた。


「何とかなりましたじゃ、なーい!」


「ふふ、お褒めの言葉ありがとうございます」


 あたしと友達の、驚きをたくさん含んだ大きな声が響く。


 だけど、白雪さんは驚きもしないで予想していたかのような、どこか茶目っ気のある表情だった。


 あたしは相変わらずだなって思いながらも、今日のカラオケを楽しめた事と白雪さんがみんなに馴染んだ嬉しさで心が満たされていった。

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