[chapter:2]
[chapter:2]
――夢を見た。
いつもの部屋の中に羽柴がひとり。ぽつんと立っている。橙色の陽光がにぶく部屋の中を照らしている。
見回してもどこにもシンがいない。
あれ? と小さく声をあげて、風呂ものぞいてみるが、当然ながら姿はない。
「シンー? いないのー?」
玄関を見てから、部屋に戻ると、白い服を来た男性が部屋の中央に立っていた。
羽柴と同じぐらいの年齢のその男性は、細身で、雰囲気が鋭い。
その男性は羽柴を見ると小さく笑う、笑顔なのだが雰囲気がやわらぐことがない。
その顔に見覚えはなかった。
「――それがあの外道の名か」
その男性の唐突な言葉に、羽柴はぽかんとして、それから『シン』のことか、とひらめくように理解した。
「え、と?」
「礼に、助けてやろう」
「――え?」
「命を伸ばしてやる。あの死魔が消え去れば問題あるまい」
「え? え!?」
同じ言葉を使っているのに意味が分からない。思わず助けを求めるようにシンを探して視線を動かすが、部屋には羽柴とその男性のふたりきりだった。
「迷子になった眷属を探してみれば、祭りの気配につられて街に出てしまっていたようだ。手間をかけたな」
「は、はあ」
「連れて帰る。ではな」
尊大に言われて、思わず素直に返事をしてしまう。
「は、はい」
――そこで、その自分の声で目が覚めた。
視界に広がる天井を見上げ、心拍が上がった胸をなでながらゆっくりと体を起こす。
顔を巡らせれば、シンはいつもの場所におさまって、静かにじっとしていた。
夢だ。
最初から夢だと分かっていたが、夢とは思えなかった。
慌てて立ち上がり、そして部屋のすみに置いたダンボールへと歩き、中をのぞく。
キツネがいない。
――『迷子になった眷属を探してみれば、祭りの気配につられて街に出てしまっていたようだ。手間をかけたな』
――『連れて帰る。ではな』
連れて帰ったんだ。
ダンボールを見下ろして、羽柴はその確信に沈黙する。
いや、まさか。部屋のどこかに隠れているんだろう。と無理矢理自分を納得させる。
探さなければ、と思った時、ごそ、と背後でシンが動く気配を感じて、羽柴はそろそろと振り返る。
立ち上がったシンが、わずかにふらつきながら立ち上がり、羽柴の横にならんだ。
そして口元をわずかに歪ませる。
「何があったんです」
「え」
あれは夢だ。
羽柴は顔をこわばらせた。
シンは何も知らないはずだ。
だが、シンは部屋を見回し、鼻にしわを寄せて、不愉快をあらわにした。
「――……嫌な気配がしますね」
死神にとって、嫌な気配。
――『命を伸ばしてやる。あの死魔が消え去れば問題あるまい』
キツネは神々の使い。
神様。
助けたキツネ。
――『礼に、助けてやろう』
ごちゃっと、シンと、白い服の男性との会話と言葉を思いだし、一気に混じって、つながってゆく。
そんなまさか。
「……ええと、」
「何があったんです」
「いや、その、」
何をどう説明したら良いのか分からないまま羽柴は口ごもる。
これってもしや、
そしてひとつの結論に至る。
……キツネの恩返し?