表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

[chapter:2]

[chapter:2]


 ――夢を見た。

 いつもの部屋の中に羽柴がひとり。ぽつんと立っている。橙色の陽光がにぶく部屋の中を照らしている。

 見回してもどこにもシンがいない。

 あれ? と小さく声をあげて、風呂ものぞいてみるが、当然ながら姿はない。

「シンー? いないのー?」

 玄関を見てから、部屋に戻ると、白い服を来た男性が部屋の中央に立っていた。

 羽柴と同じぐらいの年齢のその男性は、細身で、雰囲気が鋭い。

 その男性は羽柴を見ると小さく笑う、笑顔なのだが雰囲気がやわらぐことがない。

 その顔に見覚えはなかった。

「――それがあの外道の名か」

 その男性の唐突な言葉に、羽柴はぽかんとして、それから『シン』のことか、とひらめくように理解した。

「え、と?」

「礼に、助けてやろう」

「――え?」

「命を伸ばしてやる。あの死魔が消え去れば問題あるまい」

「え? え!?」

 同じ言葉を使っているのに意味が分からない。思わず助けを求めるようにシンを探して視線を動かすが、部屋には羽柴とその男性のふたりきりだった。

「迷子になった眷属を探してみれば、祭りの気配につられて街に出てしまっていたようだ。手間をかけたな」

「は、はあ」

「連れて帰る。ではな」

 尊大に言われて、思わず素直に返事をしてしまう。

「は、はい」

 ――そこで、その自分の声で目が覚めた。

 視界に広がる天井を見上げ、心拍が上がった胸をなでながらゆっくりと体を起こす。

 顔を巡らせれば、シンはいつもの場所におさまって、静かにじっとしていた。

 夢だ。

 最初から夢だと分かっていたが、夢とは思えなかった。

 慌てて立ち上がり、そして部屋のすみに置いたダンボールへと歩き、中をのぞく。


 キツネがいない。


 ――『迷子になった眷属を探してみれば、祭りの気配につられて街に出てしまっていたようだ。手間をかけたな』


 ――『連れて帰る。ではな』


 連れて帰ったんだ。

 ダンボールを見下ろして、羽柴はその確信に沈黙する。

 いや、まさか。部屋のどこかに隠れているんだろう。と無理矢理自分を納得させる。

 探さなければ、と思った時、ごそ、と背後でシンが動く気配を感じて、羽柴はそろそろと振り返る。

 立ち上がったシンが、わずかにふらつきながら立ち上がり、羽柴の横にならんだ。

 そして口元をわずかに歪ませる。

「何があったんです」

「え」

 あれは夢だ。

 羽柴は顔をこわばらせた。

 シンは何も知らないはずだ。

 だが、シンは部屋を見回し、鼻にしわを寄せて、不愉快をあらわにした。

「――……嫌な気配がしますね」

 死神にとって、嫌な気配。


 ――『命を伸ばしてやる。あの死魔が消え去れば問題あるまい』


 キツネは神々の使い。

 神様。

 助けたキツネ。


 ――『礼に、助けてやろう』


 ごちゃっと、シンと、白い服の男性との会話と言葉を思いだし、一気に混じって、つながってゆく。

 そんなまさか。

「……ええと、」

「何があったんです」

「いや、その、」


 何をどう説明したら良いのか分からないまま羽柴は口ごもる。


 これってもしや、


 そしてひとつの結論に至る。


 ……キツネの恩返し?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ