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最強は最高にわがままな証  作者: 早乙女 鰹
第11章 邂逅
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第96話 私と私

精神世界で私自身と対話をする。

何もない空間にあるのは私と私。



「あんたがここに来たって事は...うまくいったみたいね」


「上手くいったって何が?」


「やっぱ教えてもらってないんだ」



肩を竦ませて私自身が笑う。

そこでさっきマナが言っていた事を思い出す



『世界を渡ったのも全部貴方の為なのよ』



マナの言っていたことが本当ならグレースがこっちの世界に来た理由は―――



「私自身を探す為?」



「よくわかったわね。まぁ分かるか...」



少し呆れた表情をする私は手を叩く。



「さて、さっきも言ったけど私の力を貸してあげるわ。でも記憶だけは渡さない」


「どうしてよ!私自身なんだから記憶だって一緒でいいじゃない!!」


「嫌よ!!健太君は私のものなんだから!!」



始めて見せたもう一人の私の真剣な表情。

だが健太と言う名前に覚えはない、グレースの口から健太と言う言葉を聞いたことは無い。


「健太って?」


言うつもりは無かったという表情を浮かべるもう一人の私。

さらに大きく溜息を付いたもう一人の私は首を振る。


「もういいわ...グレースの本当の名前....う~んこの場合は違うか...前世は佐藤健太(さとう けんた)っていう名前なのよ」


「転生者ってこと?」


「そうそう。貴方たちの言葉で言うと転生者ね。まぁ私もなんだけどね」



もう一人の私から発せられる衝撃の事実に困惑する。

転生者も何もそんな記憶はない...

ましてや自分の名前なんて....エミール・べオーラが本当の名前じゃないってこと?


「この際だから教えてあげる。私の名前は『西島綾香(にしじま あやか)』。それだけは教えてあげる」


「どうしてよもっとあるでしょ?生い立ちとか色々...」


「どうして?あなたには関係ないのよ?」



私自身の事なのに私には関係ない?

頭の整理が追い付かず思考が停止する。


「私は精神生命体まで進化できたから魂に刻まれた記憶を掘り起こす事が出来たけど。あなたには無理だろうから」


「私にできる事なら私にだってできるでしょ?」


「ならやってみる?消滅の効果が付与された剣で自分を貫くとなれるわよ」



満面の笑みで言うもう一人の私の笑顔が憎い...

間違いなく死ぬ...。

私に残された道は一つ。



「遠慮しておきます」


「賢明な判断ね。まぁ私が力を貸すから別に進化する必要ないしね」



力を貸すとは一体どんな事なのだろうか...

不安はかなりあるが私自身の事なので半ばやけくそな感じでそれを受け入れた。



「私はあんたに力を貸す。だからあんたも私に協力しなさい」


「協力って私にできる事なんてあんまないわよ?」


「期待してないからいいわ。私があんたの中にいるってことは内緒にすること。いい?」


「まぁそれくらいなら?でもどうして?」



グレースは精神生命体の依り代になる肉体を創造することが出来る、いっその事このことをグレースが知れば丸く収まるのではないだろうか。



「それは簡単よ。私の目的は元の世界に帰る事だもの。たしかにグレースだって健太くんよでも、私は今のわがままばっかりの人よりも真面目で不器用な健太君の頃も好きなのよ」


「それが目的?」


「そうよ、貴方にはグレースを相手してもらう。その代わりに健太君は私が貰うってこと。だから私に力は必要ないのよ」



頭の中がグチャグチャになり徐々に痛くなってくる。



「あんまり少ない脳みそで考えすぎない方がいいわよ?サルでもわかる様に簡単に説明してあげるわ」



苛立ちを抑えもう一人の私の言葉に耳を傾ける。



「時がきたら私は勝手に行動するからそれまで私の存在を誰にも言わない事」


「私の中で何がしたいの?」


「最後の思い出作りよ?私だってグレースの事好きだもの...代わってくれるならキスくらいすぐに行動に移すわよ?」



複雑な気持ちになるがそれを受け入れる事は出来ないだって。


私だって...。



「あんたも後悔の無いようにね。私は最後でしか愛を伝えること出来なかったから...」



悲しい表情を浮かべるもう一人の私に対し寂しい思いばかりが募る。

すると、どこからともなく声が聞こえる。



「エミール!!ちょっとしっかりして頂戴!!」



マナが私を呼んでいる。戻らないと心配させちゃう...

空気を壊されたのが癇に障ったのかもう一人の私は激怒する。



「っさいわね!!!大事な話を今してるでしょうが!!!」


「戻らないと...どうやったら目覚めるの?」


「仕方ないわね...行くわよ3...2...」



最後の数秒、私は息を大きく吸い込み叫ぶ。

今迄さんざん色々言ってきやがって!!

それは私のささやかな復讐。困惑に戸惑うがいいわ!!


「マナはグレースの第一...」  


「1...って...え?!ちょっとそれどう―――」



再び意識は遠くに行く。

悔しがる私を嘲笑う。

最後までいわないのがポイントだ。きっと脳内は第一妃の事しか考えられないだろう。ざまぁみろ...




目が覚めると不安な表情を浮かべるマナが居る。

どうやらほんとに心配させてしまったようだ...



それにしても....うるさい!!!!!!!!!



さっきから脳内で私自身の叫びが止むことは無い。

しばらくは出てこないと思っていたがガンガン話しかけてくる。

マナも私に何か言っている様だがもう一人の私がうるさすぎて一切聞こえてこない。


(ちょっと!!ほんとにグレース結婚したの!?)


(なんとか言いなさいよ!!)


(それに第一妃ってことは何人かいるってこと?)


(あんたそれでいいの?!)



あまりにもうるさい...脳内がお祭り状態だ。

どう考えても私がマナと話をしているのはわかっているはずなのにいつまでも一方的に騒がれマナの話が全く入ってこない。

なので適当に返事をしてるのだが...話が合っていないのかマナの表情がどんどん曇って行く。



「ねぇエミールほんとに大丈夫?グレース呼ぶ?」


「えぇ大丈夫よ、ただちょっと時間をくれないかしら」


引き攣った笑いを浮かべた後ゆっくりと目を閉じ自分自身を見つめなおす。

まずは―――脳内で騒ぐこいつを黙らせないと。



(マナはグレースの第一妃でもう子供が居る)


(え!?もう!?嘘よね?)


(ほんとよ!!それからグレースはハーレムを作るみたいよ。だからまだチャンスはあるのよ)


(やっぱハーレム作るんだ...たしかにそんなこと言ってたし...そっか...うん...そっか)



お?意外とすぐ大人しくなった。



静かになった脳内の自分の事を放っておき。

マナと共にストーリーとやらを進める。



マナの解説を聞きながら戦闘を行う。

細かな説明は脳内の私自身がしてくれる。

本人の補足説明があるお陰でしっかりとグレースの過去を理解することが出来た。


それに戦闘面でもかなり補助してくれる。

力の制御の仕方とかを細かく教えてくれるのだ。はっきり言ってチェイニーさんよりも教え方がうまい。

それにあんなに力を渡すと豪語していたわりに、少しずつ力を譲渡してくれるので力がなじみやすい。



あんな事を言ってる割に面倒見がいいと言うか...


(擬態のスキル欲しいわね...もしくは変身系の能力...獣人か...いや猫耳だけでもいいか...)


脳内でこんな事をいっているが...面倒見はいいのだ。

ほんとう何を言ってるんだか...



ピロン!



不意に脳内に響く電子音。


≪スキル変身を獲得しました≫


脳内に流れる無機質な声。



それはスキルポイントを使用しスキルを獲得した時と似た様な状況だ....もしかして?



(なに勝手にスキルポイント使ってるのよ!!さっきマナに教えてもらってコツコツ溜めてたのに!!)


(これならきっとグレースも喜んでくれるわよ!!)


(それにこのスキルめっちゃポイント使うじゃない!!あれ?そもそもこれを覚えるほどのスキルポイント私もってなかったよね?)


(もちろん前借りよ)




は?何言ってんのこの私...スキルポイントの前借り?そんなのおかしい....

そもそもスキルポイントを利用してスキルを獲得するのにそのスキルポイントを最初に前借りできるのならだれも苦労はしない...

不可能だ....あきらかにおかしい...


(そんなのできたら苦労しないわよ。で!どうやったの?)


(不足分は私のスキルポイントから使ったわ。だから前借りなのよ、しばらくはポイント獲得しても私が直接貰うから)



当然の様に言う私自身に苛立ちを覚える。なんというわがままぶり...

これは本当に私なのだろうか...


これが続くの?うそでしょ...



「なによその耳...」



急なマナの言葉に戸惑いを覚える、私は何もしてない....まさか...


慌てて頭を確認すればねこの耳のようなもふもふした何かが付いている。

お陰でいろんな音が聞こえる様になった。ふざけんな


鋭敏な聴覚を持ったからなのかマナが戸惑う声が聞こえる。



また勝手に...



だが怒りよりも恥ずかしさが強かった。

茂みに飛び込むとマナが困惑しながらも近づいてくる足音が聞こえる



「さっきからどうしたの?なんか自分の力を制御できてないようだけど...」


(なんとかごまかして!わたしのことがばれるといろいろ面倒臭い事になるわ!!)



もう一人の私がそう言うので私は適当に誤魔化すことにする。



「大丈夫よ、新しくスキルを獲得したから試してみたんだけど....うまくいかなかったみたいだから」


「そうかしら?たぶんグレース好きよ猫耳...」



マナは関心したように言う。それと比例しもう一人の脳内の私はどや顔を浮かべる。

本当に関心したのかマナはジロジロと眺める。

グレースの好みなら知ってるんだからと自慢げな表情を浮かべる私自身に腹が立つ。



旅は色々とあったがストーリーも最終局面。私は魔王の最後の攻撃で息絶える。

だが私の心にはなにも響かなかった。

なんせ張本人が私の中で何かをばりぼりと貪りながらだらけて見ているのだから....


精神生命体の癖に私の脳内で何を食べてるんだか....



(これ?あんたのスキルポイントよ)


ほんと..何を食べてるんだか...


は?何食べてんだッ!?




脳内での喧嘩は絶えない。この先やっていけるのだろうか...

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