第86話 熾天使ゼルセラ
覇王の居城の攻略は概ね順調と言えた。
負けたのはミーシャとマーシャだけで済みそれも、ゼルセラによって免れた。
まさか本当に勝てるとは思わなかったが....
俺とシーラは全員が来るのを待つ間に覇王級アイテムの作成に勤しんでいた。
元々覇王級アイテムは20個しか作っていなかったのだ、だがこれからは多くの人が利用すると考えた時に複数獲得が出来ないのに20個しかないとかなり所持数にばらつきが出てしまうと考えたのだ。
それこそ今のゼルセラの様に、一人で5つも所持している者が居る以上偏りが出てしまうのだ
それを無くすために急ピッチで覇王級アイテムを作成しているのだ、だが...
完成したら直ぐに誰かに入手されてしまう、あまりにも早いのはフリューゲル達だ。
彼女たちは成長の為に自分自身との戦闘を繰り広げている、なので倒せたときに最高位のドロップアイテムがドロップしてしまう。
俺がネタで作った【黄金之球体】もすぐにトロンに取られてしまった
一応シーラがある程度のストック分を作ってくれているのでしばらくは大丈夫だろうが...
俺がそんな事に悩んでいるとようやくゼルセラ達が【玉座の間 入り口】に辿り着いたのだ。
ミーシャとマーシャ以外は余裕の表情を見せていた。和気藹々とした雰囲気の一行はほんとに理解しているのだろうか...。
この先には他のフリューゲルと一線を画す存在であるゼルセラが控えていると言う事を、そしてその先には俺が待っていることを...。
恐らくさっき体感したであろうミーシャとマーシャは若干浮かない顔をしているが...そういえばあと一人はどんな表情をしているんだ?
俺は【覇王之御手】を使用し別次元で油断しているだろう茶々丸を掴み別次元から引っ張り出す。
首根っこを掴み引っ張り出したせいで悪さをした子猫の様な姿勢で全員前に姿を現させる。
「ちょッ!覇王様困ります!!私はこれでも闇に紛れる職業に就いているのですから!!他の者に姿が知れ渡ってしまうじゃないですか!!」
「いいじゃないか、仮面付けてるのだから、仮面も取ってやろうか?」
「わかりました!!もう別次元には行かないのでそろそろ離してください!」
俺は言われた通りに離してやると茶々丸は狐の仮面を横にずらす。
幼い見た目ながらも忍者のような凛々しさと可愛さを兼ね備えた少女の顔があらわになる、その様子にメトラとデフォル、ミーシャとマーシャも大興奮だ。
深海の様な瞳に漆黒の髪。必死に堪えてはいるが褒められ慣れていないのか顔は真っ赤だ。
限界に達したのか別次元に逃げてしまった、まぁ話は出来るので問題ないだろう、それに別次元にいてもあまり問題にはならないからな。
「さて、これからゼルセラと戦う事になるが...だれがやる?」
俺の問いかけに対し手を挙げる者はたくさん居た。いやほとんどだ、むしろミーシャとマーシャ以外は挙げている。
「先に合体してから戦闘を始めたらどうだ?」
俺の確信を突いた発言に我が意得たりと言わんばかりにミーシャとマーシャは合体を行った。
閃光が収まるとそこに居たのは銀髪に碧眼を持ち頭部には二本の角を生やした成長したミーシャの様な姿をした女性が立っていた。
龍種専用の装備も着用しそのうえで【炎獄之覇衣】まで着用している、流石にゼルセラでもこの守りは突破できないだろう。
そんな話を横目に聞いていたゼルセラはただ薄く笑うだけだった。
結局全員で挑む事になった。もちろん俺とシーラを除いて。
全員が完全装備の状態で戦場へ侵入する。
ゼルセラ戦は多少の猶予がある、それと言うのも入った瞬間には攻撃はされないのだ、戦闘行為をこちらが獲り始めて、初めてゼルセラは攻撃を仕掛けてくる。
なので全員が入場するまでは余裕がある、そしてデフォルが全員にバフを掛ける
それは宝物庫をクリアした時に入手した覇王級アイテムの効果だ、それは確率操作を超えた倍率操作と言うもの。
上限はあるがデフォルトはサポートもできる様になったのだ。
そしてメトラはアンデットを生み出すその数は18体、それぞれに2体ずつサポートできるようにと召喚されたのだ。
召喚されたアンデットは宝物庫をクリアした時に入手した覇王級アイテムのお陰でステータスが上昇しいままでの比ではない、その18体の影響でメトラ自身のステータスも18倍以上となる
そしてそれらのアンデットは自己蘇生が可能で、このアンデット達が一匹でも存在する限りメトラはダメージを受けない。
マナは負けずとあたりに血を巡らせる、さらに血を活性化させ全員のステータスを一時的に上昇させる。
ゼロとキーラも剣を鞘から抜き構える。
シルビアはリベンジに燃えているが、残念ながら覇王級アイテムを所持していないので戦闘に参加したとしても、いい活躍は出来ないだろう。
ゼルセラはただ静観している、どうやら終わってから一対一をやるようだ、既にマナ達が負ける様な振る舞いだが確率を超えれる程に上質な覇王級アイテムを入手できたのだろうか。
開幕の一撃は茶々丸によるものと話を付けている。
一同は茶々丸の先制攻撃を待つ。だがそれは失敗に終わった。
ゼルセラは首元の空間を掴み茶々丸を別次元から引きずり出し地面に叩きつける
そしてそれが戦闘の引き金となる。
最初に狙われたのはメトラだった、だがアンデットが存在する以上ダメージは喰らわない。そう思い受け止めようとするメトラにデフォルトが大声を発する。
「避けるのだ!!あれには事象改変が施されているのだ!!」
それを聞き慌てて避けようとするが事象が改変され既に斬られたと言う事象が始まろうとしている。
そんな窮地を救ったのはキーラだった、キーラの持つ武器による事象阻止だ。
その隙を狙うデフォルが確率を操作し一太刀を浴びせようと攻撃を仕掛ける、それを改変しようとゼルセラは大鎌を振る。
キーラはまたしてもその改変を阻止しデフォルの攻撃は見事ゼルセラに命中する
大太刀による攻撃を受けゼルセラは吹き飛んでいく、そしてその間にマナは茶々丸と協力し別次元へと向かう
魔法を発動するまでの時間稼ぎを行うのはゼロ、デフォルト、メトラそれから合体したミーシャとマーシャだ。
相手のゼルセラがそれを阻止しようとするのでマナに付けていたアンデットを先陣に出し時間を稼ぐ、だがゼルセラにとってその程度のアンデットは相手にする必要さえない。
アンデットを華麗に躱し別次元に手を伸ばすゼルセラをデフォルが確率操作を施した大太刀で斬りつけ吹き飛ばす。
ゼルセラが立ち上がろうとするときマナは別次元から帰還を果たし魔法を発動させる。
「【崩壊之新星】!!」
発動した魔法陣は200。
400の白い球が生成され迷うことなく相手のゼルセラに飛んでいき大爆発を引き起こす。
世界が白に染め上げられた後、相手のゼルセラは既に虫の息にの様に思えた。
「なんとか....勝てそうね...」
誰かがそう呟いた時、俺の横で未だ静観していたゼルセラは一言言葉を漏らしたのだ。
「もうそろそろですね」
そのゼルセラの言葉に引っ掛かりを覚えた俺はゼルセラに素朴な疑問をぶつけた。
「もうそろそろ?何か奥の手でもあるのか?」
俺の問に対してゼルセラは笑みを浮かべる。
「はい。私であればそろそろ解放すると思います」
ゼルセラの笑みはより深くなる。
同じ事を語る様に相手のゼルセラは楽しそうに笑う。
瞳孔は開き半ば狂気じみた笑みを浮かべる。
その普段とはかけ離れた姿に一同は気圧される様に後退する。
だがすべては遅かったのだ。
全員の前から姿が掻き消えると同時位、全員に強烈な攻撃が加わる。
圧倒的な破壊力を受けた一同は吹き飛ばされる訳でもなく地面に倒れ込む
唯一自動防御が発動したマナだけが立っている
「い、いったい何が...」
マナが状況を掴めずにいると別次元から茶々丸が現れ、再度消える。
「いいわ、時間を稼いであげる」
マナは吹っ切れたのかゼルセラと激しく打ち合う。
ジュバンの力を吸い取ったマナの力はゼルセラよりも高い。だが...戦闘のセンス、技量に関してはゼルセラの方が圧倒的に格上だ。
深い笑みを浮かべるゼルセラを気味悪がりながら時間を稼ぐ
そして別次元から二人目のマナが現れる
「滅びなさい!!【混沌之新星】」
生み出された赤黒い球体はゼルセラに向けてまっすぐ飛んでいく。
だが...世界は白に染め上げられる事は無かった。
信じがたい状況だがゼルセラはその赤黒い球体を手で掴み完全に制御しているのだ。
「う...嘘...」
マナの嘆きも聞かずにゼルセラは笑みを深くする
そしてゼルセラによって【混沌之新星】はマナへと放たれた。
「ゼルセラァァァァァァ!!!!!!!」
マナの叫びと共に世界は白に染め上げられた。




