第85話 大食堂の脅威
大きな大食堂へと続く道を優雅に歩くミーシャとマーシャ。
二人は止まることなく進む、頭の良いマーシャですら気付いていないのだろうか。
大食堂の大きな扉を豪快に開くミーシャ。
そこで待ち構えるのは【統治天使ドミナミ】と【智天使ルノアール】の二人だ。
ドミナミはフリューゲルの中でも支援型の能力を獲得している。
火力増強や耐久力の増強、さらには戦闘不能の仲間の蘇生、さらには相手への精神攻撃などだ。
彼女は近接での戦闘を得意としない、なので戦闘ではサポートに回る、だがそれは昔の話だ。
ルノアールは一言で表すならばビーストテイマーだ。
朱雀、玄武、青龍、白虎そして最後に聖龍だ。
他にも愛でる為のペットも多数テイムしている、その中でも戦闘に特化しているのが四神と聖龍だ。
能力はメトラと似た様な召喚した時に召喚した獣のステータスが召喚者に加算されると言うもの。
普段の戦い方はルノアールが四神を召喚しそれを倒せた場合にドミナミが蘇生、召喚獣とルノアールのステータスがさらに加算。
そして高ステータスの召喚獣が暴れまわる、これが一連の流れだった。
だが...ミーシャ達は決定的なミスを犯しているのだ。
「どうして!!前はこんな事!!」
相手の攻撃を回避し戸惑いながらも相手を分析する。
まず、根本的に違うのがドミナミが先陣を切っているのだ、支援系に特化しているはずの彼女が武器を手に持ち攻撃をしてくる。
それも、自信にありったけのバフを施して突撃してくるのだ。
それにミーシャとマーシャは重要な事を忘れている
難度20、それは以前ミーシャ達が戦った時とは別格の難度だ。
圧倒的に相手が格上それは多少の覇王級アイテムを所持しているからと言って覆る物では無い、それにドミナミとルノアールは本来の装備である覇王級アイテムが解放されている状態。
苦戦しないわけがないのだ
ミーシャ達がクリアしたフリューゲルのボス達は本来の装備、本来の能力を封印された状態だったのだ。
難度1...フリューゲル未装備状態
難度5...フリューゲル神格級装備着用
難度10...一部能力の解放
難度20...フリューゲル完全装備状態
難度によるステータスは本物と変わらないがフリューゲルの装備は変わる、つまり昔倒した二人は本来の能力の一部を封印されさらに覇王級の装備まで封印している。
根本的に間違えているのだ、ドミナミは支援型ではない、彼女は自身に大量のバフを掛け突撃し虐殺をする。超特化型の火力担当だ
そしてルノアール、彼女も本来は最前線に立って戦う戦闘スタイルだ。
召喚獣も戦闘を行う、そして召喚獣がやられたとき召喚獣は自己蘇生を果たす、なのでほぼ召喚獣はいつまでも戦場に残り続ける
そしてさらに、その召喚獣が居る限りルノアール本体にダメージが入る事はない、そんなダメージが入らない事を良い事に召喚獣を置いて最前線へ突撃し暴れ回る、これが彼女の本来の戦闘スタイルだ。
召喚獣だけを相手取ればいいと思っていたミーシャとマーシャは当然動揺する、戦闘力の高いマーシャでさえドミナミを抑えるので手一杯となっている
ミーシャ一人ではルノアールの持つ二つの剣を止める事は出来ない、辛うじて覇王級装備のお陰で耐えれている様なものである。
もし装備が無ければ瞬殺と言ってもいいくらいの速度で敗北していただろう。
ミーシャの覇王級装備の【炎獄之覇衣】のお陰で物理攻撃と状態異常に関しては心配はいらない。だが....
剣による攻撃を受けても体力が減らない事に疑問を抱いたルノアールは攻撃方法を変更する。
ルノアールの左手の攻撃を躱す事が出来ず斬撃を受ける事になる
「うぐ...何?体力が減ったわけじゃないけど...今の痛みは...」
物理攻撃は無効できると思っていたミーシャに不意のダメージが襲う、それは魔力への攻撃。
覇王級装備の防御力のお陰で大部分は軽減できているが残念ながらMPはそれなりに削られている
「ちょっとまずいよね...これじゃあ長期戦は望めない...」
召喚獣を倒せばルノアールのステータスが上昇する、だが倒さなければルノアールにダメージは入れられない。
勝利の糸口が掴めないミーシャは只々相手の攻撃を躱しマーシャの戦闘が終わるのを待つ事しかできなかった。
マーシャとドミナミの戦闘も膠着状態に陥っていた。
オリジナルのステータスですらマーシャを軽く凌駕しているのだ。
本来の装備を身に着けたドミナミの猛攻は激しさを増す一方だった。
ドミナミの持つ武器は偃月刀と言われるものだ
リーチのある矛の薙ぎ払い攻撃を躱すのも手一杯だ、速度、破壊力共に申し分ない。
自分で作りだした氷剣ではすべてを防ぐ事は出来ない。
なのでマーシャも本来の姿へと変化する。
神龍化それは人型から神へと至る儀式。
龍の形態でのみ装備が出来る覇王級装備をその身に纏う。
【覇雄琥呂】龍種専用の全身鎧であり攻撃すべてに属性を宿らせることが出来る、さらに擬態も可能だ。
といっても人間の時の姿こそが擬態していたころの姿なのだが...
息吹に滅びを纏わせて天使へと放出する。
だが、その息吹も偃月刀に一振りで両断されてしまう、こればかりは流石と言うしかない。
フリューゲルのナンバー4の名は伊達ではないと言う事だ。
支援型だけではナンバー4まで上り詰める事は出来ない、彼女が先陣で神を大量に虐殺してきたからこそ上り詰めた地位なのだ。そこを読み違えた代償は大きかった
スピード、攻撃力、そして耐久力、すべて相手が上でありこちらが下だ、相手の偃月刀は龍神となり格段に上がった超硬度の鱗をいとも簡単に切り裂く。
その圧倒的な力と技術の前に無残にも敗北を期した。と思った瞬間―――閃光
「まったく情けないですね」
圧倒的強さを誇るドミナミを吹き飛ばしたのは桃色の髪に純白の翼を生やし頭上に漆黒の輪を浮かべる赤眼のフリューゲルだ
「ゼルさん!」
ゼルセラは大鎌を構えて不敵に笑う、その傍らにはキーラの姿もある。
「前に見せた合体はしないんですか?」
「したくてもその隙を作りだせない....」
ゼルセラの当然ともいえる発言をミーシャが苦しそうに返す、既にミーシャはMPの約9割を失っている。HPは残っているがMPは既に虫の息だ。
「わかりました....なら私がその時間を...いやここは私が倒すとしましょう...」
意気揚々と大鎌を振るゼルセラ、一振りで四神は露と消え蘇生に移行する、その一瞬ともいえる刹那の間にルノアールに攻撃を加え撃破する。
そんな様を見ていただけのミーシャとマーシャは開いた口が塞がらないと言った表情だ。
「ゼルさんあんなに強かったっけ?前に会った時とは比べ物にならないくらい....」
「うん....強くなってる...」
喜々として戦闘をするゼルセラを眺める、その姿は以前とは比べ物にならない、それもそのはず彼女はこの世界に長くいるのだ。
何十万年とこの世界で戦いを繰り返している、そんなゼルセラが弱い訳がないのだ
ドミナミとの戦闘を終えゼルセラが高らかに笑う。
若干狂っている様にも思えるその姿には仲間ですら恐怖を覚える。
「ククク....私は新たな力を得ました....さぁ私自身で試すとしましょう」
新たに覇王級アイテムを手に入れたゼルセラはかなり上機嫌だ、だがその実は早く力を試したいと言う戦闘欲でギラギラと燃えているのだ
そんな様子を見ていた俺とシーラは最初ゼルセラを叱りつけようと考えていた、だが、あれも一種の仲間を護る行為だと仮定した場合、これを責める事はできない。
それにミーシャとマーシャの戦闘自体は完全に敗北とも言える。なので俺とシーラは触れない事にした。
どうせすぐ痛い目を見る事になるのだから...




