第83話 大書庫の死闘
すいません!!残業で死んでました。再開します!!
マナ、ゼロ、シルビアは覇王城の大書庫と呼ばれるエリアに来ていた。
そこはこの世界のありとあらゆる知識が詰まった場所―――と言うわけではない。
たしかにこの世界の深淵を除くことは可能だが、本棚に並べられている本はそのどれもが現世の物だ。
なんとなく書庫を作った時に本が少なすぎて書庫とは呼べない代物になってしまった、そこで俺は俺の記憶を元に本の復元を行った。
そして現在は現実世界で本が出来た場合自動でここの書庫に本が追加される。
つまり―――死んだとしても大好きだった漫画の続編が読めるのだ。
この世界からしたら現世は異世界に他ならない、そんな異世界に魅入られた少女こそがここのエリアを守護するフリューゲルと配下の者達だ。
そんな大書庫の管理を行っているのがチェイニーと言われるフリューゲルだ。
彼女はこの世界であまり使われていない戦術や兵法、指南書や戦闘に関わる物から普段の生活に役立つ物、さらには知らなくても問題ない雑学など多岐にわたって網羅している。
彼女の戦闘のセンスは抜群だ、戦闘と言うよりも兵を率いるのが得意なのだ、さらには罠、伏兵などを用いた戦法を得意としている。
個としての強さを求める修羅の世界とは別に群としての強さを求められる世界においては彼女は最高の指揮官と言える。
そんな彼女の能力は戦場の完全把握と生命体の完全把握、さらには地形を変化させることが可能になっている。
彼女にとって戦場とは自分が思うがままに操れる演劇の舞台に他ならない。
そんな場所に侵入してしまったマナ達に待ち受けるのは、計画的に作動するトラップの数々、急な奇襲の数々。
最初は良かった探索も徐々に雲行きが怪しくなっていくのだった。
果ての見えない書庫をマナ達は歩み進める。
「まったく果てが見えないわね...」
「恐らく空間拡張が発動していると思われます」
マナに浮かんだ疑問は直ぐにシルビアが答える。
ゼロはなんとなく目に留まった本を棚から手に取る、パラパラとページを捲り適当な所で止め一節を朗読する。
「二人は....寂しかった時間を埋める様にお互いを求め合った、男は肉食獣の様に女の恥体を...」
「わぁぁぁぁぁ!!ストップ!!」
ゼロには性知識が無いのでただただ意味が分からないと言う表情をしている反対にマナとシルビアは意味が分かるので顔を赤面させる。
読みかけのゼロの持つ本を奪い取り元の場所に戻す。
「今のは忘れなさい」
「一般の男は女性を食べるのですか?肉食獣...食人文化でしょうか?」
「いいから忘れなさい!!」
若干怒り気味のマナに気圧されゼロは本の内容を忘れる様に心がける。
進行方向に視線を移すとシルビアは戦闘態勢を取った。
「敵が来ます!!しかもかなり手練れの様です」
シルビアの額から汗が垂れるその様子を見ていたゼロとマナは緊張感を募らせる。
グレースから生み出された絶対的強者のシルビア、ステータスだけで言えばゼルセラをも軽く上回るシルビアが汗を垂らす存在など化け物以外の何物でもない。
今迄感知出来なかったのが異常なまでの濃密な魔力、そんな暴力の権化の様な魔力が本棚の角から現れようとする。
当然だが戦闘態勢は解除せずにマナがシルビアに問う。
「貴方でも勝てないって言うの?」
一歩一歩と迫ってくる暴力の権化の姿はまだ見えないがシルビアは足音に怖気づくように一歩後退する。
「あ...あれは私達で勝てる存在ではありません...」
明らかに異常な態度のシルビアに一種の恐慌状態に陥るマナとゼロ。
「とにかく逃げましょう!!」
シルビアの提案に二人は即座に行動に移そうとする、だが...。
「退路が...」
「あり得ない...さっきまで普通の通路だったのに」
つい先ほどまでは本棚だった場所は今では壁が出来ている、足音は轟音を発しながら徐々に近づく、隠れる場所は無い。
「欺けるかどうかわかりませんが【完全不可視化】」
シルビアの魔法により二人は透明になる、透明になっている者同士はお互いが見えるのでマナとゼロはシルビアの背中に隠れる様に進行方向を見つめる。
「来ます!!」
徐々に大きくなる足音が角から正体を現す。
現れたのは骸骨だった、顔には肉も皮もなくぽっかり空いた眼窩には真っ赤な炎が宿っている、骨の肉体でありながら筋骨隆々とした骨格を思わせる太い骨、そんな真っ白な骨の手に握るは巨大な大鎌、眼窩に揺らめく炎は角を抜けこちらを視認するとじっとこちらを見つめる。
「ちょっとバレてるじゃない!!!」
「しっ!!まだ確定したわけではありません」
シルビアの言葉を信じただただ骸骨が通り過ぎるのを待つ。
地鳴りの様な足音は徐々に遠のいていくやがて足音が小さくなり聞こえなくなった頃、シルビアは【完全不可視化】を解除する。
「どうやら行った見たいですね」
「大丈夫ですか母さん」
「えぇ大丈夫よ、それにしても...なんなのよあの化け物は....」
「あれは名実ともにこの世のものではありませんね」
シルビアとマナが化け物についての対抗手段を模索する。
「あの骸骨なら母さんとシルビアなら勝てそうな気がするけど...」
「はぁ!?」
ゼロの何気ない言葉に驚愕の表情で返すマナ。
「ゼロ、あれは正真正銘の化け物よ、私とシルビアが協力したってあれには勝てないわ!!」
その言葉をシルビアはうなずく事で肯定する。
だが、ゼロは首を傾げるばかりだった。
「そうでしょうか?たしかに10倍のステータスを誇っていましたけど...」
「10倍よ10倍!!私とシルビアはこの世界で敵となれる者が居ないほどの強者よ、それの10倍の意味がほんとにわかってるの?」
続くマナの言葉をシルビアは無言で肯定する。
「ですが...」
「話はあとにするわよ!あの化け物が戻ってくる前にさっさと突破しましょう」
恐る恐るシルビアは角から顔を出す、そして誰も居ない事を確認するとマナ達に来るようにサインを出す。
「どうやら行った見たいね」
全員が一息つくとゼロがあることに気付く。
通路の遥か先を指差す。
「母さん、あれって何だと思います?」
マナはそれを確認すると青褪めた表情をした後ゼロを庇うように動く。
シルビアも慌てて障壁を張ったが間に合わず爆音と共に吹き飛ばされてしまった。
覆いかぶさるように庇ったので顔と顔が近づく。
「大丈夫母さん!?」
「えぇ少し掠った位よ」
「ありえない...母さんにダメージを負わせるなんて...」
困惑したままのゼロの発言に違和感を感じたマナは思考を巡らせる。
そして一つずつ疑問を正していく。
「ねぇゼロあの化け物のステータスは10倍なのよね?」
戸惑いながらもそれを肯定するゼロ。
そしてマナは一つの仮説を立てた。
あの化け物は見た本人の10倍のステータスを誇るのではないか。と
そう考えればゼロがあまり焦らなかったのが納得できるというもの。
だが、一つだけ引っかかりが残る。
今シルビアと戦っている存在の事だ、もし仮にさっきの説として10倍のステータスを誇るのならだれを元にしているかだ、意見の相違がマナとゼロの二人だけでおきているのだ、恐らくシルビアにも自身の10倍のステータスの様に見えているのだろう。
もし仮にゼロが戦闘に参加した場合、ステータスがどのように変化するのか...ゼロが攻撃する瞬間だけステータスが著しく低下するとは思えないならば...。
これは―――
「恐らく幻術の類だと思われます!!!」
どうやら戦闘中のシルビアも同じ考えのようだ。
マナは指輪の力を使い全員の血を操作し幻術を無理やり解除する。
再び目を開けた時、そこは真っ暗な空間だった。
「ここは...」
「どうやら、落下したようですね」
「ひゃっ!!シルビアも居たのね」
暗闇から聞こえる声に思わず声が飛び出してしまった。
呼吸を整えて冷静に現状を分析していると遥か上の暗闇から一人の天使が舞い降りてくる。
桃色の髪に純白の翼。
瞳の色は桃色に輝く。
天使は舞い降りた後眼鏡の位置を整え、薄く微笑む。
「どうやら資格はあるようですね」
悠然と佇む天使に最初に攻撃を仕掛けたのはシルビアだ。
だが―――
「なッ!?」
突如見えないバリアの様な物で攻撃を遮断されてしまう。
そして理解した、この天使の言う資格それは覇王級アイテムだと言う事。
「ここは私とゼロの出番の様ね、シルビアは見てなさい」
悔しさに顔を歪ませながらも少し離れた所でシルビアは戦闘を見守る。
主な戦闘はゼロが行っている。と言うのもマナは魔力を練っているのだ。
彼女の得意な魔法【崩壊之新星】それでは相手の天使を傷つける事は出来ない
ならば新しい魔法を生み出すまでだ。
超級魔法のさらに上位の存在へと昇華させる、指輪の力をフルで活用し自身の能力も注ぎ込む。
自身の魔力を最大限まで注ぎ込んだ魔法は究極の魔法へと昇華させることが出来た。
【混沌之新星】
グレースから聞き存在だけは知っている究極の魔法、名前に混沌を宿す魔法は最上位の魔法だと言う事を表す。
そう、使える者も限られている究極の魔法。
覇王級魔法。それは完成した。
「できたわ!!ゼロ!シルビアの所まで下がってなさい」
言われた通りに戦闘を中止し距離を取る、それを確認したマナは天使に向けて魔法を発動させる。
「滅びなさい【混沌之新星】!!」
魔法陣から赤黒い球が生成される。
苦しそうな表情でその球体を操り慎重に天使へ放つ。
制御を失えば魔法は消えてしまう。本来マナは魔法を使用する時に魔力を使用しない、そんなマナが魔力を全て注いだのだ。
一度空になってしまえば魔力欠乏になり戦闘不能に陥ってしまう。
放つ事が出来なかった時点でこの戦いは負ける。
放つ事が出来さえすれば勝利は確実だ、能力を注ぎ込んだので回避は出来ないし防御も出来ない、訪れるのは崩壊。
額から汗を垂らす、その間相手が何をしているかと言うと...魔法による衝撃波で近づくことが出来ないで居るのだ
制御できたのか不敵に笑う。
マナから放たれた魔法は迷うことなく天使に当たり衝撃がこちらまで伝わってくる。
本来マナの能力によって齎される攻撃はすべて視認が出来ない仕組みになっている、だがこの【混沌之新星】は能力で視認不可にすることが出来ないのだ。
強すぎる破壊の力はそれだけで世界に顕現してしまうのだ。
世界は白に染め上げられる。
閃光が収まった時、ゼロとシルビアの前に居たマナは柔らかく笑う。
「さぁ先へ進みましょ」
ゼロは母の強さに驚き、シルビアは偉大さを知る。
この世界の絶対の支配者の妻の名は伊達ではないのだ。




