第76話 決意
マナの脳内で俺の過去を見せる。
エミールを失った俺は一人でエルフの里へと帰還した。里に帰るとエルフの人々は笑顔で俺を迎えた。だが、俺の表情を見ると徐々に笑顔は失われていった。
そんな中で俺に声をかけたのは唯一チェルディスだけだった。
「グレース...なにか用があったら言って....なんでもするから...」
俺はその言葉に返事する事なく部屋に閉じ籠った。
ベットに座り何もない手を眺める俺を見てマナが悲しそうな顔を浮かべる。
「おれはこの後、半年の間部屋から出ることは無かった」
「でも...立ち直ったのよね?」
マナの問に俺は肯定で返す、そして半年後の俺の姿を映し出す。
俺は虚ろな目をしてベットに寝ていた、そこへチェルディスがドアを開け入ってくる。
俺は虚ろな目を動かす事も無くチェルディスに反応さえしない。
それでもチェルディスは持っていた絵画を見せる。
そこには、幸せそうな顔で笑う俺とエミールが描かれていた。かつての俺はこんなに笑えていたのかそんな事を考えた。
不意に虚ろな瞳から涙が流れ目に光が宿る。
「グレース...私にはこれくらいの事しかできない...でもね、私は全力で頑張るから....お願い....もう一度あなたの楽しそうに笑う顔が見たい...だから...」
「チェルディス....」
俺は久しぶりに声を出した、俺の声を聞けたのが余程嬉しかったのか目に涙を浮かべる。
「グレース...!!よかったちょっとでも元気になれたんだね...」
「別の世界を知ってるか?」
俺の言葉はチェルディスへの返答ではない、完全に自分が話たいことを押し付けているだけだった。
「修羅の世界じゃなくて普通の世界ってこと...かしら?」
「あぁ、エミールが最後にそう言っていた、どうやったら行ける...?」
俺の問に対してチェルディスは唇を噛みしめる。
この時のチェルディスは知らなかったのだ、だからこそわからないとは言えなかった、せっかく会話ができる様になった俺が再び塞ぎ込んでしまう事を恐れているのだ。
「私に任せて!!調べてみるから!!だからほんの少し時間を頂戴!!絶対見つけ出すから!!」
チェルディスはやる気に満ちた顔をして俺の返事を聞かずに部屋から飛び出していった。
そんな光景を背後から見ていたマナは真剣な表情で俺に言う。
「グレースにとってチェルディスって結構恩人なのね、どうして嫁候補に入っていないのかしら...」
「あぁ...んぁ?!」
マナの続く言葉に俺は思わず間の抜けた返事をしてしまった。
「どれだけ俺の嫁候補を作りたいんだ...おっと、昔の俺が何か決意したみたいだぞ」
再び視線を戻すと俺は【覇邪聖王神斬 刃皇】を握りしめていた。
俺はすべてを失ったと思っていた。あるのは幸せだった思い出があるだけだど―――だが、そんな俺の元に残っていたのは俺を支えてくれるチェルディスだった。
シーラも俺の元を去った以上俺にはチェルディスと剣となった邪龍のジュバンしか残されてはいなかった。
だが、二つも残っていたのだ、何もないと思った俺はその事実に感動した、そして邪龍である、剣を顕現させたのだ。
そして剣は喋りだす。初めて会った時の様な傲岸不遜な態度ではない、親身になり心配する、ただの相棒だ。
「主よ...大丈夫か...我は心配だ...せめて何かしないか?夢中になれる何かを探そうではないか...」
「夢中になれる事...」
おれ達は少し考えた。
そして剣が何かを閃いたのか宙に浮かぶ
「協力して配下を作りませぬか!!シーラ殿の【神格枢】の残滓と我の創造の力で新たに生命を生み出しましょうぞ!!」
「シーラの残滓...どうすればいい?」
「簡単です、我を手に取り作りたい存在の明確なイメージをしてくれればいいのです!そしたら我が、主の中にあるシーラ殿の感情と言う残滓、記憶を元にし、新たに我が生み出す神格枢に組み込むのです。
そうすれば、感情を持った主の思い浮かべる理想の配下が出来るのです」
俺の目に希望と言う光が宿り笑顔を浮かべる。
「さっそくやるぞ!!」
俺は剣を手に取りさっそくイメージを浮かべる、この時の俺が思っていたのはもちろんエミールだった。
「主よ...これは主自身が傷ついてしまわれないか?」
「構わない、やってくれ」
そして作り出されたのは紛うこと無きエミールだった。
「おぉすごいぞジュバン!!これは!!」
「敬愛なるご主人様、なんなりと...」
俺が喜んでいると、エミールは―――いや、エミールに似た何かは膝を付いた
俺は失敗だと思い俺は作り直そうとした。だが――――
それは笑った。
屈託のない笑みを俺に向け笑う。
俺の大好きな...エミールの顔で笑う。嬉しそうに...楽しそうに...儚げに...。
そして俺はその時決意した。
作り出されたこの子にも感情が存在する、ならば失敗作と思うのは酷だ...
俺は脳内でジュバンに指示を出した、俺の言葉が終わったら俺のイメージ通りに作り変えてくれ...と。
俺はエミールの顔に触れる。
「今から言う事は聞き流してくれ」
「はい?」
理解できなかったのか首を傾げる。
そんなエミールの分身体に俺は決意を告げる。
「俺は君をもう一度探す、君を必ず見つけ出して見せる!だからもう少し待っていてくれ。必ず...君を迎えに行くから」
俺は決意と共に最後の涙を流した、泣いてる暇があるなら一秒でも早くエミールを探す努力をするとそう誓ったのだ。
そしてありえない現象が起きる。
頬に触れる俺の手にエミールは優しく触れて微笑む。
「えぇ、待ってるわ....グレース」
俺は驚くがそのタイミングでジュバンによる改変が齎される。
そうして生み出されたのがゼルセラだ。
エミールを成長させ母性を増し増しにさせた見た目をしている。
そしてそんな光景を見ていたマナが一言。
「ふーん、それでゼルセラがオリジナルが先とか言っていたのね...」
「ゼルセラと話をしたのか?」
「えぇ、創造されたときの事を話してくれたわ」
「やっぱり答えたのはゼルだったか...」
「あの時の事をゼルセラはこう言っていたわ「私の中の何かがそう答えろって言っていた」ってさ」
「答えたのはシーラの神格枢の残滓に残されたエミールの記憶とでも言うのか?」
「わからないわ、でも『私はオリジナルを元に作られた存在、だから私はオリジナルの恋が叶う事を願っています!』って、まぁその後に、『そしたら次は私の番ですけどね!!大好きなオリジナルを元に作られた私の事をご主人様はきっと大好きですから!!』なんて言うから台無しだったわ」
「ゼルセラらしいと言えばゼルセラらしいな...」
俺は微笑んだ、その時昔の俺は改変が齎された女性に名前を付けた
―――ゼルセラと
改めてゼルセラのキャラデザです