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最強は最高にわがままな証  作者: 早乙女 鰹
第9章 覇王の追憶
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第73話 千寿の森

 俺たちは魔王軍の雑兵を攻撃しながらエミールの戦いを眺めていた。

 触手の様に動く髪はエミールに何本も接近していくがエミールはそれを悉く切り伏せていく。

化け物の使う攻撃手段は再生した髪ではなくなり、周囲の血で作られている、その血槍を受け流しながら距離を詰める。

 その様子にマナは多少引き攣った笑みを浮かべる。


「あれ私負けそうじゃない?」

「どうゆう事だ?」


 言ってる事の意味が分からなかったが言葉の意味を徐々に理解できた。


「まさか....あの気持ち悪いのマナなのか?」

「気持ち悪いって...そうよ!!あれは暴走状態よ血を浴び過ぎるとより多くの血を求めちゃう一種の飢餓状態よ...」


 なるほど...てことはマナも血を浴びすぎるとあんな風になってしまうのか...それはやだな...離婚案件だ...。

 見た目が良ければ種族なんて気にしないが見た目があれだと流石に気にする。


「でもどうやって私を倒すのかしら、一応私不老不死で再生持ちだから基本的に負けるイメージが湧かないんだけど」

「はっきり言わせてもらうとあれを倒すのは至極簡単だぞ?不老不死だろうがなんだろうがな...」


 それを証明するかの様にエミールは背後を取り首を切り落とした、剣に付いた血を払い鞘に納めると魔王軍は撤退して行った。

 普通の不老不死であれば例え首を斬られても死にはしない、だが切り落とされた首が動くことは無くそれは既に死を意味していた。


「どうして...」

「エミールの持つ【断罪之聖剣(エクセキューション)】の効果だな、罪を断ち斬り相手に死を与える聖剣、その前では不死なんて意味を成さない」


「ってことは元の世界でも私勝てなかったってこと?」

「いや、あっちのエミールは【断罪之聖剣(エクセキューション)】を所持していないからな、それにマナは捕えられていただろう?まぁ人間が滅んでいたらこっちと同じ世界線を辿っただろうな」


 俺の行った修羅の世界はいわばパラレルワールドみたいなものだ、魔王の始祖が人間を滅ぼした世界線と魔王の始祖が人間に敗れた世界線だ。


「あなた達怪我はない?」

「あぁ無事だ」

「あの邪龍はどうしたの?」

「剣になったぞ」

「え?」


 俺は剣を見せる今回はマナもいるがあの時の俺がそうしたのだからこうする必要がある。


「まぁあの邪龍が望んだのなら仕方無いわね」


 本来ならここで俺の剣が喋りだすのだがこれはゲームなので喋らない。

 あの時剣は自分が元の姿に戻れない事に気付いたのだ、俺が魔力を流した結果剣と強く結びついてしまい元の龍の姿に戻る事が出来なくなってしまったのだ。


 俺たちが神殿に戻ると赤龍は俺たちの武器を一瞥すると怒りを顕わにする。


「その武器...同胞の香りがするが...まさか我が同胞に手を掛けたのか...」

「マナ、ボコボコにしてあげなさい」

「えぇ任せなさい」


 マナは血で巨大な拳を作り赤龍に殴りかかる、攻撃は見えないが赤龍が攻撃を受けている様子なので拳で殴っているのだろう、はたから見たらただ腕を組んでいるだけに過ぎないのだ。


 結局マナの圧勝で終わった、それはあの時と同じだ、そして俺たちは赤龍に神の居場所を吐かせたのだ。


「お前たちの探し人は【千寿の森】に居る、早く行くと良い我はもう龍王の座を降りる...」


 致命傷を負った赤龍を無視し俺たちは【千寿の森】に向かった。


 移動は面倒臭いので転移の魔法を使用し一瞬で終わらせた。

【千寿の森】そこは神域と呼ばれる領域だ、森と言う名称の割に一本の巨大な木しかない、そして【千寿の森】とはその大きな木の中の領域の事だ。

 木の中にはドライアドや木霊などが住み着いている、いわば精霊たちの故郷の様なところだ。


 人間が立ち入る事はほぼ存在せず龍ですら入る事はない、そんな神域に足を踏み入れて思う事は一つ。


 まさに神域。


芳醇な魔素が辺りに満ちており透き通る様な空気。

木漏れ日がキラキラと輝き心地良い風が通り抜ける。


 エミールが足を踏み入れると精霊たちがわらわらと集まって来る。


 だが、昔の俺は羽虫とかその類だと思い手で払い怪我をさせてしまった、今思えばこんなにも幻想的な光景を前に羽虫が寄ってくるとは考えにくい。


 だから精霊たちからの評価は俺だけ低い...だからこそこのゲームで精霊たちは主人公の事を【邪悪な存在】と呼称する。

 どんなに善行をしようと俺の評価が上がる事はない、逆にエミールは大好評だ、精霊達が加護を与えまくっている。


「ねぇグレースエミールになんの加護が宿っているの?」

「元々は勇者の精霊が宿っていたがそれに惹かれ様々な精霊が宿っている、火水地風光闇、六大属性の最上位精霊が宿ったな後は細かいのが多少」

「私達には無いの?」

「聞いてみると良い、教えてくれるぞ」


 マナは精霊達の元まで近づき期待に胸を膨らませながら精霊達に声を掛ける。


「私には誰も宿らないのかしら?」

「お前は邪悪な存在」「邪悪な存在は一人で生きろ」「邪悪な存在はこの世にいらない」


 ショックで肩を落としたマナがゆらゆらと近づいてくる。


「あんなに言わなくてもいいのに...嫌われてたのね...グレース...」

「色々あってな....」

「何したのよ...」

「実は羽虫だと思って精霊を払ったんだ...それで何人か死んでしまってな...」


 そう、あの事件で死人が出ているのだ...虫だと思ったから殺そうと思った...全力ではないにしろ精霊を殺すのは容易い...。


「そりゃあ嫌われるわ...」


 昔の事だから傷つかないと思っていたが俺は多少のダメージを負ったのだ。


「精霊達よ、ここに神が居ると言われて来たんだが、どこにいる」


 完全なる敵意を向ける精霊達。


「邪悪な存在に場所は教えない」「邪悪な存在は今すぐ帰れ」「邪悪な存在は死ね」


 精霊の内の死ねなんて直接的な表現を使った精霊を片手で掴み俺はエミールに向き直る。


「俺じゃ教えてくれないからエミールから聞いてくれ」

「いいけど....ねぇあなた達、フレイヤ様とロキ様の居場所を知りたいんだけど案内して貰えるかな?」

「いいよ!ついてきて」


 エミールが聞くとすんなりと案内までしてくれるようだ、なんたる好待遇か...。


「ねぇグレース、その精霊どうするのよ」

「あぁこの後こいつは役に立つからな、必須アイテムと言っても過言ではない」

「ふ~ん、役に立つとは思えないけど...」


 少し歩くと一軒の木造建築が見えてくる。


「神様はあそこだよ!!」

「ありがとう、案内はもう大丈夫よ」

「邪悪な存在発言には気を付けろ!」「神様を怒らせるなよ邪悪な存在!」


 そして俺の手の中で精霊がさっきと同じ言葉を発する。


 俺はそれを無視し神が居ると言われている建物の扉をノックする、すると返事が聞こえトコトコと歩いてくる音が聞こえる。

 俺たちの見送りが済んだからなのか精霊たちは帰っていく、俺は手の中の精霊を本気で投げた。

槍投げの様に精霊を投げる、精霊は一直線に精霊たちに向かって突撃していき轟音と共に衝突する、あの時同じことをしていたらきっと俺は精霊達と戦争になっていただろう。


まぁ俺が手を下さずともこいつらは時期に死ぬのだが―――

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