第72話 魔王軍襲撃イベント
赤龍が祭られていると言われている神殿への足取りは非常に軽い、主にマナだけ、剣から哀愁と言うか悲壮感と言うか...絶望感と言うか...或いはそのすべてなのかひしひしと伝わってくる。
「ねぇグレース!この力を早く試したいのだけど!!」
「なら俺の代わりに赤龍の腹を殴って叩き起こしてくれ」
「いいわ!!任せなさい!!」
マナはボクシングの様に腕を素早く動かす。
楽しそうで何よりだが、剣の悲壮感が凄い、悲しみと言う圧が凄い。
「主よ...我の力...」
「おいジュバン....」
「面目ない....一生の不覚....お許しを....」
あまりにも重い空気を漂わせながら神殿に入る。
そこには岩を思わせる様な巨体を誇る真っ赤な鱗をした龍が居た。
しばらく動いていないからか埃が積もっている。
「これが赤龍なの?なんかパッとしないわね」
それはお前が邪龍の力を吸ったからだろう...。
「ほろ、そこの狸を起こしてくれ」
ポキポキと指の骨を鳴らしながら寝ている赤龍の横に立ち深呼吸をする。
「我の力...」
未だに背後で剣が何かを呟いてるが流石に面倒臭いのでこの際無視する。
マナが力を込めて恐らくアッパーカットを喰らわる、俺には見えてないのでもしかしたら蹴り上げたのかもしれないが...。
赤龍は天井を破りやがて重力に従って降下を始める。
流石に加減を知らなすぎだ、俺の苦労を教えると共に苦労を知ってもらおう。
「加減をするんだ、その力はほぼ禁忌だ、元の世界に行ったら加減をしっかりとするんだ一歩間違えると世界が滅びる事になるぞ」
「わかってるわ...ただちょっと試したかったの、この手に入れた力を...」
「我の力....」
手をワキワキさせ微笑むマナ、圧倒的力には責任が伴う俺にはシーラが居るがマナは【人工知能】や【並列意志】を所持していない。
力の制御もできる様にならなければならないのだ、自分の力で徐々に手に入れた力ではなく急に手に入れた力ともなれば制御が出来ないのは当たり前だ。
これ程の力を手に入れた以上もうマナは冒険をする必要がない、後は力の制御の修行だけだ。
ここで登場する赤龍はHPが必ず残るようになっている、なので死ぬことはない、現に降って来た赤龍はピンピンしている。
「終焉を齎す龍を目覚めさせるとは愚かなものよ...」
「おい狸、ロキと言う神はどこにいる」
「それとフレイヤ様も」
俺の言葉に続きエミールが口を開く、例え狸と呼称しようともそれに赤龍は反応できないだからこそ普通に返すのだ
「ほう、人の身で神族を求めるか....」
赤龍は俺たちを一瞥するとどこか遠くを眺める。
「あれはお前達の味方では無い様だな...」
「この龍何をいっているのかしら?」
「第一回魔王軍襲撃イベントだ」
傍観に徹している龍種に攻撃を仕掛けるのは異例の出来事だった。
「魔王軍?」
「あぁなんか気持ち悪い化け物でな...やたら血を欲していたなそういえば」
流石にあの魔王は気持ち悪かった。
髪は触手の様に動くし口の中はトゲトゲした牙がやたらといっぱい生えていた
舌はやたら長いしウネウネ動くし...いまでも絶対に戦いたくない、あの時もエミールにすべて丸投げしたくらいだ
「いいだろう、見事あの軍を退けたら神族の居場所を教えてやろう」
俺たちは来た道を少し戻り魔王軍の元へ向かう。
すでに戦闘は始まっており邪龍は竜人を護りながら戦っていた、それを見たマナが剣に向かって疑問を浮かべる。
「あなたなんで守ってるの?」
「我は....主からの命令を守っていたのだ...一人でも死ねば我が抹殺対象だからな...」
「意外とまともなのね」
「我をなんだと思っておるのだ...貴様は...我の力を得た分際で」
「ふ~ん今なら私あなたを壊す事できるけどどうする?またやる?」
「貴様...いい気になりおって...主よ!!!我の代わりに仇を取ってくだされ!!!」
「断る!!!もう少し待ってろ」
「主よ...!!」
待ってろと言う言葉が嬉しかったのか歓喜に震えそれに対し、マナは愉悦の笑みを浮かべる。
「エミール、お前はあの魔王を倒せ、俺はあの龍を救出に向かう、しっかり倒しておくのだぞ」
「ちょっとあなた!!普通逆よ!!」
俺たちはエミールの悲鳴にも似た叫びを聞き流し邪龍の元へ向かった。
「いいの?エミールに魔王を任せちゃっても...」
「あぁエミールならば問題ない、あの程度の雑魚なら瞬殺だ」
「エミールって強いのね...」
俺たちが邪龍の元へたどり着くと邪龍は嬉しそうに反応する。
「主よ!我は主の言われた通り守り抜きましたぞ!!」
「何か欲しい物はあるか?」
「であれば、私を主の剣としてお使いください」
「わかった」
俺が了承すると邪龍は形態変化を始め、やがて俺の持つ剣と同じ見た目になった。
それをもう一人の主人公であるマナに渡す
ここでは主人公専用でレアな武器を入手できるのだ。
魔力を流した対象者に最適性の武器を授けるそれがこの邪龍だ、ゲームならばかなり重要な登場人物なのである。
俺も俺で意気消沈した剣に魔力を流す。
「主よ...」
剣は再び瘴気を纏う、帰って来た力に喜び剣は震える。
「主よ!!やはり主をお慕いして正解でした...我は嬉しく思います」
「まぁお前は俺の相棒だからな、俺だってそれなりに感謝している訳だ」
「主よ...主よぉぉぉ!!!!」
剣が涙を流す、どうやって流しているかはわからないが...。
「マナそっちはどうだ」
「なんか指輪になったみたい」
マナの薬指にはきれいな指輪が嵌められて真っ赤な宝石が光輝いている。
「綺麗...でも武器の入手ができるんじゃないの?」
「試しに剣を思い浮かべて掴もうとして見るんだ」
言われたとおりに掴もうとすると薄っすら光を放つ半透明の剣が握られていた。
「すごい...本当に想像したとおりに創造できたわ!!もしかして...」
すると武器が次々と形態変化していく槍、鎌、斧、槍斧、そして武器は消える。
「形態変化可能な武器か中々優秀だな」
「当然よ私の魔力を流したんだもの!」
「さぁさっそく試し斬りだな」
「えぇ、この剣の腕試しよ!!武器なんてほとんど振ったこと無いけど...」
最後の言葉に多少の不安はあるが俺も久しぶりに【覇邪聖王神斬 刃皇】を振ってみようと思った。
そして俺とマナは喜々として魔物達を斬り倒していった。