第68話 乱入
俺達がエルフの里に向かう為に森を進むと突然手の平サイズの妖精が現れる。
「挨拶、これから冒険のサポートをします」
「グレース、これは?」
「あぁこれは俺の人工知能スキルが芽生えたのが丁度この時でなそれを模したのがこの妖精なんだ、実際は俺の脳内にいるがな」
そう俺は昔、力の加減がめんどくさいなと思っていた時、何故か不意に人工知能スキルを手に入れる、俺の脳内が勝手に進化したのだ。
そして俺は力を委ねる、どんなに本気で殴ろうともある程度加減されるのだ。
解析能力も備えている優れものだ、草を見れば名前と調合した際の効能も教えてくれる。
もしかして魔法も使えるかもとこの時の俺は思ったが残念ながら使えない。
そしてこのゲームでは―――
「あなた達一体何と話をしてるの?」
「グレースどうゆう事?エミールには見えてないの?」
そう、本来はただの俺のスキルなのでエミールには見えるはずもない。
「ならどうするのよ...会話が変よ?」
「俺も魔法を使いたい」
「ちょっといきなり何言ってるの?そんなの適正がないと...」
「そうよエミールの言う通り意味が分からないわ」
そうゆうイベントなんだ、許してくれ...。
「それはこの妖精に聞いてみろ」
半身半疑で妖精に問いかける。
「どうやったら魔法を使えるの」
「解答、一度魔法を喰らってくれれば私が解析します」
妖精は坦々と答える、感情も無く機械の様に。
「まさかグレースこんな魔法の覚え方したの?」
「大体はな、まぁそれも妖精が進化したときに解放されるから安心しろ」
そして俺は魔法攻撃を受ける、さすがに難度25のエミールの攻撃をくらってはマナの身が持たない、そうこれは強制攻撃イベント、ある程度の耐久値がないとこの時点で詰みだ。
このゲームは俺を基本としてるので、強いことが前提条件そもそもこのモードの開始地点は修羅の土地、故にある程度ステータスはあるはずだ。
そして休憩や野宿を挟みながら2か月程歩きエルフの里に近付くと行軍中の魔王軍に遭遇する。
ここからはチュートリアルでは無いので俺が戦ってきた戦場を追体験できる。
「物凄い数...さすがにこの数....」
どうやらエミールはビビっている様子、なので俺はあの時と同じ様に剣を出し行軍中の魔王軍の中に突撃していく。
あの時は王国に落ちていた何の変哲も無いロングソードを握り締めていった。
残されたエミールとマナは単騎で突撃していく俺の背中を眺める。
「ほんとに行くなんて...無茶なことするわ」
そういいつつも笑顔でエミールは後に続いた。
「あんたも十分無茶なんだけど....さすがに同じステータスの相手を大量に相手するなんて....」
今の俺なら斬撃を飛ばして吹き飛ばすことも可能だがあの時の俺は地道に倒していった。
あの頃は人工知能が出来て力の制御の事を気にしなくてよくなった俺は只々攻撃を楽しんでいた。
俺のスピードから相手の動きはかなりゆっくりに見える、なので相手の攻撃に合わせ攻撃を繰り出す。
エミールからしたら俺が超速で移動しながら刹那の内に敵を切り伏せている様に見えただろう。
あの時の俺は楽しみ過ぎていた故にエミールが魔王軍に到着する前に俺は数万の魔族兵を切り伏せてしまった。
その結果...。
「あんたほんとに何者なの...あなたが魔族兵の中に入ったと思ったら刹那...血飛沫が...」
敵兵の血飛沫は宙に舞い血の雨と化し降り注いだ。
返り血を浴びた俺は真っ赤になっていたそして俺は血の雨が降り注ぐ中、あの時と同じ様に不敵に微笑む。
「最高だな...力に酔いしれると言うのは....フフフ」
そんな俺をエミールは引き攣った顔で見つめる。
「私の覚悟は....」
「ほんとよグレース、私も少しくらい苦戦すると思っていたのに」
「すまんな、実はこれタイム制限なんだ」
そうこれは、早く倒さなければエルフの国が敗北してバットエンドだ、許せ。
「タイム制限か....って10秒?!」
「あぁこれでSランクだ、そしてこのランク次第でエルフの国の耐久値が変わってくるんだ」
そして俺たちは先を急ぐ、俺たちが戦った魔王軍は現在進行形でエルフ達と戦っている軍の増援部隊だったらしい。
俺たちが魔王軍の背後から到着する頃、エルフの戦士によって魔王軍は倒される。
そんな全力を出しアドレナリンが駄々洩れな時に魔王軍の背後から血濡れの俺が出てきたらどうなるか...。
そう―――
「っち!!増援か!!敵は少数!!敵は恐らく幹部だが怖気づくな!!我らは誇り高きエルフの戦士!!魔族如きに後れを取る出ないぞ!!」
慌ててエミールは弁解する。
「違う!!私たちは増援を倒してきたの!!」
「耳を貸すな!!」
高ぶりすぎたエルフの戦士は正常な判断が出来ていなかった、まぁ普通に考えて魔王軍の背後から来たら増援だと思うだろう。
なので、俺はあの時と同じ様に振る舞う。
「話を聞かないのなら力ずくで聞かせよう、誰に喧嘩を売ったかをわからせてやろう」
俺はこの状況を楽しんでいた、なんせ俺は力に酔っていたのだ、圧倒的すぎる自分の力に。
「殺しちゃだめよ!!」
「わかっている!!眠らせるだけだ」
今回は時間制限があるわけではない、そもそも殺しても気絶判定になるのだ、ゲームだから。
まぁ実際ではしっかりと気絶させた、ほぼほぼ人工知能のシーラのお陰だ俺が本気で殴っても気絶程度まで力を抑えてくれる。
今回はマナも参加する、そしてエミールは相手のエルフの戦士のリーダーらしき女性と決闘だ。
あっさりとエルフの戦士達を無力化した俺とマナはエミールの決闘を見守る、あの時と全く同じだ。
「魔王軍にこれ程の強者がいるなんて...」
「だから私たちは魔王軍じゃ...」
話途中のエミールにエルフの女戦士は斬りかかる。
「ちょっと!!まだ話してるじゃない!!」
剣戟が続く、エルフの縦斬りを躱し隙を見て横に薙ぐ、それをエルフは躱す。
あれから10分ほどが経過するが一向に決着が付く気配がない、それもそう。
「長いわね....いつまで続くのかしら...」
「この勝負に結末は訪れないぞ?そうゆう仕様だからな、ちょっと懐かしく思っていてな」
「終わらないならどうやって終わらせるの?」
「それは簡単だ」
俺はあの時と同じように二人の頭部にチョップを喰らわせる。
そして二人はその衝撃で地面に頭をめり込ませる。
エルフは意識を失っただけだが、エミールはただ痛かっただけだ。
「なんで私もなの!!それに決闘に手出しするなんて!!」
そして俺はかっこつけながら指を立てる。
「一、長い...ニ、意味がない...三、俺が暇」
「意味がないってさすがに言い過ぎなんじゃ...」
流石にと思ったのかマナが口を出す。
意味がないのは本当だ、だって―――
「本気出してないだろ?」
「どうしてそれを...」
鼻を鳴らした後俺はエルフを抱え木陰に移動する。
「何する気なの?」
「何するのよ?」
マナとエミールの言葉が重なる。
「まずは火起こしだな、腹が減っただろう?」
「別に...私吸血鬼だし...」
「そうね、動いた分お腹が減ったわ」
マナが不満気な表情をする。
「なんかグレース、エミールの事すごい分かってるみたい...」
「分かってるも何も俺が一度体験したことだからな、それにこの時は俺も食事が必要な体だったしな」
話もするが手は止めない俺は大きな木を切り倒した―――素手で。
「何してるの?」
「馬鹿力超えて化け物ね....」
木には多少水分がある、だから燃えなかったりもするので木を絞っているのだ、メキメキと音を立てているが...。
「ほらできたぞ」
「できたって?」
エミールが首を傾げる。
「乾いた薪だぞ?わからんのか?火だ!火!」
「わかったわよ【聖炎】」
そして俺は大きくため息をつく、あの時と同じように。
「なんで聖なる炎を使うんだ...魔族でも食べる気か?普通の火で構わんのだが...」
「だって....」
「エミールって結構馬鹿なのね」
そうして俺たちは【収納】から魚や肉を取りだして焼き始めエルフの女戦士が目覚めるのを待った。




