第65話 子の旅立ち
戦闘も終わり、俺たちは闘技場から離れ茶々丸の案内で廊下を進む。
廊下のT字路に差し掛かった所で急に俺の背中に大きくて柔らかいムニュっとした感触。
跳ね上がる俺の心拍数、今俺の後ろに居るゼルセラ、マナ、ゼロ、シルビア、この中でこれほどに大きな感触は一人しかいない...。
「ゼル!!なんの真似だ...」
見なくても誰かなんておのずと見えてくる、無理やり腕を引き剥がすが次は腕にしがみついてきた。
「ご主人様!こちらに私の部屋がありますので!!」
ゼルセラの顔は妙に紅潮しており、息遣いが荒い、見るからにやばい。
「わたくし...さっきから体が疼いて仕方がないのです!!どうかこの疼きを修めていただきた―――イタタタタタっ!!!ちょっと何するの!!」
髪を引っ張られ強引に俺から引き剝がされる。
ゼルセラは引っ張られた事よりも俺から引き剝がされた事に怒っているのか魔力を解放する。
明らかに全力だ...。
完全に怒っているゼルセラが怒りに身を任せ振り向きからの右ストレートを繰り出した。
だが、そんな本気の一撃もやすやすと手のひらで止められてしまう。
そしてゼルセラから血の気....いや、生気が失われていく。
「ほう....私に戦線布告ですか....」
止めたのはシーラだった。
ゼルセラの髪を引っ張り右ストレートを片手で受け止めその拳を握りしめる。
俺と同じ圧倒的な力で、どれだけの力が加わったかは想像に難くない。
「も、申し訳ありませ...イタッ!い、痛いです!!」
シーラはさらに力を込める、すると人の体から鳴ってはいけない音がメキメキと聞こえてくる。
「痛くしてるんですよ....このまま握りつぶしてしまいましょうか」
「ほんとにごめんなさい、私が血迷いました!!だから...」
強者たるゼルセラにとっては剣で刺されたり斬られる事よりも徐々に人体を圧縮される方が辛いのだ。
「その辺にしといてやれ、謝ったのだし、次はしないだろう」
「はい、!!ご主人様の言う通りです!!もうこのような愚行二度としません!!」
「そうですね...」
俺の言葉を聞き手の力を抜く、ゼルセラは疲労か安堵か床にへたり込む。
そんな座り込んだゼルセラの顎に軽く持ち上げるとシーラは怪しく微笑む。
「それにこれは躾ですよ、お兄様の為のメスですから」
ゼルセラは怪しい笑みを浮かべるシーラに対して何故か興奮している様子。
「これ...いいかも...」
「お前....楽しんでるだろ...」
「まぁ多少」
シーラは感情と言うものに興味があるのか時々人の心を弄ぶ節がある。
「それとゼルセラ、貴方も順番と言うものを守ってください、必ず回って来ます、だから勝手な真似はあまりしないでください」
「そうでしたね...申し訳ありません...つい嬉しくて....」
「貴方の気持ちは痛いほどわかります、なのでこれを差し上げます」
シーラが作り出したのは俺だった、いや、感情の無い人形。
精巧に作られているが喋らないしその心に意志はない。
「お、おいシーラ....それはまずいだろう...」
どう考えたって、俺の体を欲している奴に俺の人形を渡すなんてダメだろ!!
「性の欲求は非常に強いものです、そしてその愛情が強ければ強いほど...だからどこかでガス抜きしないと、こうして爆発してしまうんですよ」
もっともらしい事を言うシーラ。
確かにそれはそう。と俺も思うだけど....はぁ...まぁいいかオリジナルの俺になにかあるわけでも無いし...。
「それだけ知ってて私にあんなことをしたのですか...」
「なにか問題でも?」
シーラが言葉に圧を掛けるとゼルセラは口籠ってしまう。
ゼルセラにとって恐ろしい存在は俺以上にシーラの方が怖いのかもしれないな...。
その話し合いをしている間、マナは早々に勝ち誇っていたのでゼロに見せない事に全力を注いでいた。
こんな歪んだ状況、子供の情操教育としてあまりにも不適切だ。
それから俺達は元の日常に戻る、まず拠点を黄金卿にした。
このエリアは周囲の敵のレベルが格段に高い、なのでレベル上げには持ってこいなのだ!!
ゼロはシルビアを連れて旅に出る。
俺もマナを連れゼロとは別へ向かう次に会うのは1万年後、旅立つ前にゼロの成長は止めてあるので問題はない。
俺は東、ゼロは南、ゼルセラは覇王の居城だ。
ゼロの成長が楽しみだ、シルビアもある程度は支えになってくれるだろう。
「父さん!私は必ず力を手に入れてここに戻ってきます....なので、約束の時が来たら私と一度手合わせを....」
「いいだろう、この父を超えて見せよ!」
「その前に母を!超えてほしいものだけどね」
「母さんは私の護るべき人剣なんて向けませんよ」
そう割り込む母親のマナに微笑みを返すゼロ。
「私を護ろうなんて、まだ数万年早いわ!」
「そうかも知れませんね...ですが、守れるようになって見せます!父さんとの約束ですから」
俺の心にゼロの言葉が響く「父さんとの約束」
あれはまだゼロが5歳の頃、いつか母を護れるほどの強さを得てほしいそういう思いからゼロに俺が送った言葉だ。
その約束の為にゼロは力を求め護るべき者をしっかりと見据えている、そんな息子の姿に俺の涙腺が崩壊しそうになっていた。
「グレース...グレース...グレース!!」
俺が物思いに耽っていると俺の脳内にマナの声が響く。
「グレース!!もう出るわよ」
おっと、俺としたことが...感傷に浸っていた。
「元気でやれよ!ゼロ」
「はい父さん!!」
「それからシルビアもゼロの事を頼む」
「はいお任せください!」
俺は徐々に小さくなっていく二人の背中を見送る、自然と涙が頬を伝う我が子の成長と旅立ち、嬉しいことなのだが、どこか悲しくもある。
「なに?グレース泣いてるの?」
マナからの言葉に俺は涙を拭う、俺がマナに涙を見せたのはこれで二度目、一度目はゼロが生まれた時だ。
「泣いてなんかない、いや...俺は泣いてるな...子供の成長とは早い物だ...」
「そうね...そうだ、私の体を成長させてほしいのだけど」
「ん?何故だ?そのままでもいいと思うが」
「私はあの子の母親、なのに、いつまでも子供の様な見た目だと...ね...」
まぁそれはわからなくもない
「わかった、頭に自分の理想の姿を思い浮かべるんだ」
俺はマナの頭に手を置き思念を読み取る、ほんとは手を翳す必要なんてない、成長してしまうとこの姿のマナの頭を撫でる事ができなくなるからだ
読み取った思念....やたら胸が成長してる気がしなくもないが...まぁ望み通り作り変えるとしよう
そしてスキル【変更】が発動しマナの体が成長する
見た目はあまり変わってないが身長が180センチまで伸び顔立ちも大人びている、そして胸が大きい...ゼルセラと同じ位だろうか...まさかゼルセラに対抗して?
光が収まりマナは自分の体を確かめていく。
「かなり重いわね....う...むむ...」
「どうかしたか?」
「いいえ何も...さぁ私達も行きましょう!ゼルセラから聞いたストーリーモード?と言うのを試してみたいの!」
「あぁわかった、わかったからあまりはしゃぐなよ、今は列記としたレディなんだからな」
「なによそれ、今までがそうじゃないみたいな言い方...」
そんな冗談話をしながら俺とマナは東へ向かった、ストーリーの開始地点のあの森を目指して...




