第64話 眷属VS宰相
俺の不安はさておきゼルセラとシルビアは備え付けの闘技場にすたすたと向かってしまう。
とりあえずなんでも勉強だ、超越者同士の戦いと言うものをゼロやマナに見せるいい機会だろう
おっとその前に...。
「くノ一よお前にしっかりとした名前をやろう」
俺は手でくノ一を招き、それに応じてすぐさまくノ一は俺の前に移動する。
余程嬉しかったのかさっきまでの表情とは打って代わり喜びを顔全体で表している。
やはり俺が手を加えただけあってかわいいな...。
黒髪の忍者...思いつくのは半蔵とか小太郎とかだが...この子は女の子....そうだな。
「これからは【茶々丸】を名乗るといい」
「覇王様から直々に名前を頂けるなんてこの上ない幸せです!!一生の宝物にさせてもらいます!!」
名前なんだから一生なんだけど...まぁこの子と言うより元のゼートさんは名前どころか魂や記憶、肉体までもが書き換えられているのだが...。
「さて、俺たちも見物と行こうじゃないか、茶々丸は何度か見たことがあるのか?」
「いえ、ゼルセラ様の戦いは戦いと呼べるようなものではありませんでしたから....」
「戦力が拮抗している相手と戦うのを見るのは初めてか...ならばしっかりと目に焼き付けるのだぞ、ゼロとマナも超越者同士の戦いをしかと目に焼き付けるのだ。滅多に見れるものではないからな」
「父さん、この勝負どちらが有利なのでしょう、私としては今まで共に生きてその強さを間近で体感している身としてはシルビアさんに軍配があがるとおもうのですが」
「成る程な、確かにシルビアは基礎能力値がかなり高く装備もレアなものを揃えている、端的に見ればシルビアに軍配があがるだろうな、だが―――」
闘技場の中心では既に戦いが始まっている、そしてそれは互角の戦いだ。
シルビアのショートソードはゼルセラには当たらない、それと同じくゼルセラの双剣もシルビアには当たらない。
しばらく続いた剣戟は突如終わりを迎える。
「そろそろ終わりにしましょう、それから、私と貴女の決定的な差を教えてあげましょう」
ゼルセラが武器を取りだす。
それは、大きな鎌のような物に細かい装飾が施されておりそれは魂を象っている。
その武器に全員は目を奪われる、それは茶々丸も同じ、あの武器は強すぎるが故に普段からゼルセラがあれを使うことはない。
あの武器の本来の権能を使用するとかなりの魔力を贄とするので、無暗に乱用は出来ない、それはゼルセラとてそうだ。
ここぞと言う時に少しだけ使用する、そもそもこの武器を取りだすのにも阿保みないに膨大な魔力が消費される。
ゼルセラとて10回も鎌を振ることはできないだろう、基本一撃で屠れないことなど無いのだ。例外として俺とシーラがいるが...。
「【覇天魂鋭鬼 真覇】これはこの世界で最上級のレア度を誇る武器です、さすがに途轍もないですね...」
「それは...いったい...」
ゼルセラが取りだした禍々しい大鎌を食い入るように見つめる。
大鎌の刃の部分を手のひらで撫でるとゼルセラは軽く演舞を披露する。
演舞を終えたゼルセラは大鎌を構え不敵に笑う。
「思い出しましたよ貴方の剣技、心の安寧の為に忘れる様にしていましたが....あの時の不意打ちに加え私は完全未装備状態、あの時の私と一緒だと思わない事です」
「成る程....さすが覇王様の最初の従者と言うべきですね...ですが覇王様の血を分けて作られた存在として敗北は許されません」
シルビアの首に汗が流れる、それが物語るのは劣勢、そう、ゼルセラとシルビアの決定的な差は装備アイテムだ。
ゼルセラは覇王級アイテムを所持しているがシルビアは所持していない、それだけの差と思うかもしれないがそれが致命的な差となる、他にもいろいろとあるのだが...。
「武器一つであんなに...」
劣勢を強いられているシルビアを見てゼロが驚きを見せる。
「あれは俺が作り出した武器だ、この世界で一定の条件を達成することで手に入る様になる、まぁ余裕があるなら探すのもありだな」
その後、ゼロにその条件を聞かれたがそれは秘密だ、それを探るのも醍醐味なのだから。
「グレース....シルビアかなりまずいじゃない...あの子のあんな真剣な顔...」
「それがスキル差と言うやつだ、それにゼルセラはああ見えて全知全能の存在、脳の処理能力は最上級、スキルの最適化も自動でされ完璧と言われる存在だからな」
「流石ゼルセラ様...です」
マナも動揺し茶々丸は歓喜に震えている。
「よくぞここまで奮戦しましたね、ですが...これで終わりにしましょう【殲滅】!!」
大鎌が薙ぎ払われ斬撃がシルビア目掛けて放たれるその斬撃を辛うじて避けたシルビアは再び武器を構える。
だが―――確実に避けたと思われた斬撃はシルビアを切り裂いていた。
シルビアは靄となり消える、そしてリスポーンしたシルビアは再びここに転移する。
「何故....今のは確実に...」
「避けたはず...ですか?避けたくらいで避けられるのならこの武器はそこまで凶悪ではありません、この武器の真に恐ろしい点は攻撃をした時に斬ったという事象を残すと言う事。
例え避けたとしてもその事象は残る、避ける方法はただ一つ相殺するしかない、それもこれと同格、もしくはそれ以上の武器で、まぁご主人様やシーラ様、みたいな斬った程度の事象ではダメージを与えられない化け物も居ますがね」
「私の負けですね、大人しく...」
「大人しく認めるも何も、私の圧倒的勝利に他なりません」
「うぐっ!!貴方は...」
言葉を先読みされ、さらには煽りとも思われる言葉を受け、さすがのシルビアも頭に来たようだ。
「一度勝ったくらいで...」
「これで五分です、それに...あんな不意打ちで勝ちを誇られましても...」
ゼルセラは鼻に着いた笑いをし肩を竦ませる。
見るからにもう一戦始まるかという雰囲気だ、まぁそれは個人的に行ってもらうとしよう。
俺は二人のもとに転移し二人を宥める。
「そこまでだ、シルビアよ俺以外にも上が居ると知れただろう、あまり気にしすぎるなよ、ゼルセラは戦闘に特化したスキル構成だが、お前はメイドしてのスキルに重きを置いている、だから気にすることはない、それに時間がある時にまたリベンジでもするといい」
「はい...望む結果をお見せすることが出来ず申し訳ありません...これからはより一層精進したいと思います...」
そして俺は魔力を解放しながらゼルセラに向き直る、褒められると思っていたであろうゼルセラは酷く動揺し目に涙すら浮かべている。
「ゼル...よくも俺の眷属を両断してくれたな...」
理不尽な俺の偽りの怒りに怯えるゼルセラ。
「ご、ご主人様!?それはあんまりでは...」
俺はゆっくりと手を伸ばす、近づくにつれ恐怖からかゼルセラは目を閉じる。
そして俺はゼルセラの頭を撫でる。
訳が分からないと言う表情を浮かべかなり混乱しているようだ。
「強くなったなゼル!以前シーラと戦った時よりも格段にステータスが伸びている、それに茶々丸の育成も素晴らしい、お前に任せてよかったよゼル」
非常に満足した表情をしているので褒美はこれでいいだろう、むしろ忘れてくれ。
「それでは、私に生殖器を付けてください!!」
そう簡単には忘れないか...。
「本当にいいのか?なにかと不便なこともあるぞ?」
「構いません!!」
「トイレとかにも行かないといけなくなるんだぞ?」
「構いません」
現在のフリューゲルは食べ物などを食べた際魔力として体内で分解する、故に便意はない、俺とてそうだ、トイレとか行きたくないからこそ俺も食事をしたときすべて魔力で分解するようにした。
だからこそ俺はトイレも行く必要がない。
「覚悟があるなら仕方ないか...一度人間として体を作り直しそこにフリューゲルの要素を組み込むぞ」
「はい、覚悟ならで出来ています」
マナ達が合流する。
少々不安があるが...仕方がないか...。
そして俺はゼルセラの体組織を組み替えた、結果特に見た目は変わっていない、直接ゼルセラには言わないが俺はゼルセラの見た目を非常に気に入っている。
決して本人には言わないが...。
「ご主人様?これで終わりでしょうか?特に変わったようには...」
「一度自分の股でも確認してみると良い...」
するとゼルセラは徐に前掛けをたくし上げようとする。
それを慌ててマナが抑える。
「あんた痴女なの!?ゼロに悪影響だからそういうのほんっとにやめてくれる!?」
正直...先が思いやられる....女としての嗜みはあるが羞恥の心が多少欠如している。
こいつのそういう部分の教育も今後の課題だな...。




