第63話 一触即発!?
俺とマナが先頭を歩きその後ろをゼロとシルビアが歩く、襲い掛かってくる敵は...と言っても身内のくノ一だけだが。
シルビアの攻撃により即座に霧となる、その度にレアなアイテムをドロップしていく、彼女を可哀想と思わなくも無いが...。
くノ一の襲撃も5回目となる頃、気付いたことがある。
何かを必死に伝えようとしていることだ。
城内を進めば進む程襲撃の回数は増えて行った、まぁもちろんリスポーンする場所が近いのでその分回数が増えているのだ。
そして、ある時ピタリと襲撃が止まる。
不思議に思いつつもさらに進むと道の先から女の泣き声が聞こえる。
声に釣られるように奥へ奥へと進む。
やがて見えてきた扉を開くとそこには凛とした表情とは似つかないほど号泣した女の子が居た。
その少女は天使の羽をした女性に泣き目元を真っ赤に腫らしている。
「ゼルセラ...この国は一体なんだ...」
「何と言われましても...私の拠点ですよ」
ゼルセラは少女を慰めながらなんでもないかのように肩を竦めながら言う。
そしてとうとう、あまり会わせてはいけないような二人の目が合ってしまった。
「ねぇグレースこの天使さんは誰なの?」
「それはこっちのセリフです、ご主人様、そこのヴァンパイアは誰ですか?」
おやおや?既に一触即発の雰囲気じゃないか...。
だが、ひとまずはゼルセラに紹介...いや、ここは先にマナに紹介する方が良いだろう。
「この天使は俺の配下のフリューゲルの宰相?まぁフリューゲルをまとめてくれている者だ」
俺は出来るだけ普通に紹介した、だが...マナは勝ち誇ったかのようなニンマリとした表情を浮かべている。
やめてくれ...。
「そうですか、配下の御方だったんですね、私は不束者ではありますがグレースの妻です」
俺の体に雷が落ちたかのような衝撃を受ける、まさかこのタイミングで正妻アピールをするとは思わなかった...。
たしかに妻ならば俺が他の女と仲良くするのは好ましくないのだろう...。
「流石ご主人様の側室ですね・・・この私に堂々と喧嘩を売るなんて命知らずも良い所です」
ゼルセラの体から魔力が溢れ出す、弱い魔物や人であればこの瘴気のような魔力を受けただけで絶命してしまうだろう。
今にも攻撃をしそうなゼルセラの前にシルビアが立ちはだかる。
「あなたも妻とか言わないですよね」
引き攣った笑顔を浮かべゼルセラは問う。
「いえ、私は覇王様直々にスカーレット様とゼロ様の守護を命じられております、なのでそれ以上の敵意は敵対とみなします」
シルビアが言うとゼルセラはすぐに魔力を抑え大きなため息をつく。
「あなたも配下でしたか...ご主人様からの命ならば仕方ありませんね...」
ゼルセラに敵意が無いことを確認するとシルビアは後ろに下がる。
そんなシルビアを眺めていたゼルセラが思い出したかのようにくノ一を見る。
「そうですご主人様!私のくノ一にあまり酷い事をしないで下さい」
くのいちは涙で目元は真っ赤になっており肩をひくひくとさせている。
「申し訳ありません、撃退していたのは私です」
シルビアは隠さずに正直に白状した、まぁ真実なので隠す必要もないだろう。
「ご主人様への言伝を頼んだのに何度も何度もリスポーンしてきて...どうして攻撃したのかしら?」
「敵意を向けられたのでそれと、お嬢様よりも強者だったので、やられる前にやらせてもらいました」
ゼルセラはくノ一に向き直り敵意を向けたのかを訪ねる、すると少女は鼻を鳴らしながらも話を始める。
「それは...もう何十年も前ですけど...うぐっ...負けたことがあるのでそれのリベンジって思ったんです...なのに...なのに...う...ううぅ」
よしよし、と頭を撫でながらゼルセラは慈母のような微笑みを浮かべる。
「それに!それにぃ!!この人何も話聞いてくれないんですよ!!私はただゼル様からの言伝を覇王様にお伝えしたかっただけなのに!!問答無用で装備をはぎ取られ....」
溜めていた涙は崩壊したダムの様に溢れ出す、止まることは無くただ溢れ続けている。
「俺への言伝とはなんだったんだ?何度も伝えようとしていたようだが、それほど重要な事か?」
「ゼル様から預かっていた言伝は今私達のいる『この部屋でお待ちしております』たったそれだけの事なのに...装備を...うぐっ...全部....う..ぅぅ...」
「弱肉強食のこの世界でお願いするのは心苦しいのだけど...この子に装備を返して貰えないかしら?この子...装備はどうせ一つしか使わないんだからと言って入手した武器装備なんかを全部メイン装備に合成してしまうの...だから今この子装備が無くて...」
たしかに、可哀想だよなぁ...話も聞かずに倒されて、挙句丹精込めて作った唯一の装備アイテム達をすべて没収されて、少しは強くなったと思えた所での大連敗。
心も体も壊れてしまうだろう、俺が植込んだ心に泣いてしまうような代物はいれていない。
だからこその、黒髪の凛々しい顔立ちなのだ、なんだか不憫に思えてきたな...。
「それにしても....この子はこの世界にきて既に18万年程は生活している....それをを倒すなんて貴女は一体....」
ゼルセラが不思議な視線でシルビアを見つめる、それもそうだろう、この子は元の世界の魔王達との会議からずっとこの世界に居て貰っている、ゆえに未だ20年程が経過した程度で勝てる程強くなれるとは思えない。
恐らくマナはゼルセラに勝てないだろう。
それはゼロも同じだがシルビアだけは群を抜いて強い、くのいちはもちろんゼルセラでさえ相手にならないのではないだろうか。
そんな、シルビアの秘密それは俺の血から作り純度100%で出来ているので強いのは当たり前だ。
「シルビアは俺の血から作った配下だ、以前その力は証明したはずだぞ」
だが、ゼルセラは記憶にありませんと言わんばかりに首を傾げる、そして何かを閃いたのか瞳をキラキラと光らせる。
「ご主人様!!私がシルビアと言う者に勝利した暁には私に生殖器を付けては下さいませんか!!」
こいつまさか....気が付いたのか?だがそれとなく理由を付けて断らなければ...。
「何故だ、生殖器を持つとそれなりにめんどくさいと思うが理由があるならやってやらなくもないが...」
「私に隠し事が出来るとお思いですかご主人様、そこの後ろの男性からはご主人様と同じ匂いを感じます。スカーレットと言う側室の臭いも交じってますがご主人様のお子様でしょう?それならばこの重鎮ゼルセラも側室に加えて頂けるというもの」
「そうは言ってもなぁ...」
俺が渋るとゼルセラはあからさまに涙を流す。
「このゼルセラ...いままで無償の忠誠を見せておりましたがそろそろ褒美を頂戴したく...」
俺は女の涙に弱い。
だから俺はシルビアに勝ってくれと願うしかない...すべてを託して...。
ゼルセラの様な俺への異常な愛情をもつ存在に生殖能力を与えたら何が起こるかは想像に難くない。
「わかった...ただし、シルビアに勝ったらだからな...」
喜びに笑みを浮かべるゼルセラ...。
その笑みはどこか影があり俺は悪寒を覚えた。
俺のシルビアへの期待とゼルセラへの不安はより一層深まるのだった。




