第60話 覇王の眷属
眷属に名前を与えると能力値が一回り上昇する。
既に何度かレベルをやり直しているので、ゼルセラではまず手に負えないだろう。
気になるのはどれくらい攻略したかだ、俺と同等では無いが俺に近しい程能力値が高いのならばある程度は攻略しているはずだ。
「どこまで行ってきたんだ?」
「はい、【覇王の居城】は攻略できませんでした...お許しを...それと、面白そうな都市も攻略しました」
「面白そうな都市?」
「はい、【黄金卿 中央都市グレーステ】エリアボスなどは見受けられませんでしたが覇王様の壁画や黄金像などがあたりに立っておりました」
なにその恥ずかしい都市名...俺の記憶にそんなエリア無いぞ...そもそもエリアボスを配置し忘れた記憶は無いし。
まさか...。
「そのエリアに桃色の髪をした天使が居たんじゃないか?」
「はい、桃色髪の天使と黒髪の忍者のような敵がいたと思います、それなりの強者で、たしかレアなアイテムをドロップしたと記憶しておりますが...倒してはいけない敵でしたか?」
あぁゼルセラはやはり敵わなかったのか、それにしても中央都市グレーステ...一度行ってみるとしよう。
シルビアの言ったようにこの世界では対人戦も可能だ、倒せばレベルや能力に見合ったアイテムをドロップする。
ゼルセラはこの世界でかなりの年月を過ごしているはずなのでかなり強者の部類だ、それに昨日はゼルセラにくのいちを作れとこの世界の利用を許可したが...。
既に普通の世界の15時間つまり、こちらでは15万年ほどは居たはずだ、以前のミーシャやマーシャよりも圧倒的に強くなっているはずだ、そんなゼルセラを「それなり」か。
「シルビアよ、お前に与える役目はこの中で眠っている少女の護衛....傍使えだ」
「少女ですか....」
シルビアを連れて拠点に入るそこには未だに寝ているノヴァの姿がある。
「【状態】、ステータスはまだこれ位だ、だがかなりスキルが強いから基本的に戦闘に関して手を貸す必要はないが普段の生活で何かと補助が必要だろうからな」
「スカーレット・ジル・ノヴァ様ですね、畏まりました」
寝ているノヴァのステータスを開示しある程度の説明をする。
俺の伴侶となりたいと願っている事も伝えた
それからノヴァが起きるまでどこに行ったかを聞いた、ゼルセラとくのいちを瞬殺した話や俺に惨敗した話などだ。
ゼルセラに関しては初めて初撃を防がれたそうだ、やはり一筋縄ではいかなかったようだ、だが二発目で斬ったとのこと。
そんな存在でも俺には攻撃する事すら叶わなかったという、何という理不尽な存在か...この世界では難易度変更ができるのである程度弱くしたりレアなアイテムを取るために強くしたりと色々と楽しめる様にはしている
だが.....俺に関しては難易度低くしたとしてもステータスは変わらない、いや変わっているのかもしれないが、誤差に過ぎない
そもそもエリアに入った瞬間に不可視プラス回避不可の斬撃を飛ばしてくるのだ、なんたる理不尽か...。
この世界の俺に本物の俺の様な甘さや、優しさというものは存在しない。
「グレース様?...そのお方は?」
おっと話に夢中になってしまい起きたことに気付かなかった...。
「あぁこの子はシルビア、俺の眷属でありこれからノヴァの世話役として傍にいてもらう」
「シルビアと申します、覇王様の命により今後はお嬢様のお側にてその使命を存分に全うさせて頂きます」
深々とお辞儀をするシルビアをじっくりと観察した後俺に視線を戻す。
「グレース様と二人きりだと思ったのに....」
少し落ち込んだように言うノヴァ。
「そう言うなまずは食事にでもするとしよう」
「はい、ではすぐに準備いたします」
「いや、実はさっき肉を焼いていてな、シルビアには次回から頼むとしよう」
「畏まりました」
少し落ち込んだ様にシルビアが言う、さっきから俺二人を落ち込ませてばかりだな...。
【収納】からさっき作った緑龍のステーキを取りだした、香ばしい香りが部屋を満たす。
これだけで少しお腹が空いてしまう。
秘蔵の焼肉のタレももちろんだす。
俺が食べてもいいと指示を出すとノヴァが徐に素手で肉を掴もうとするのでそれをシルビアが慌てて止める。
「お嬢様!こちらをお使いください」
銀のナイフと銀のスプーンを取りだす、おそらく冒険で手に入れたのだろう。
そしてノヴァはそれを迷う事なく掴む。
「銀は大丈夫なのか?」
吸血鬼と言えば銀武器を用意したりニンニクやら十字架で弱体化させるのが基本のようだがそこらへんは大丈夫なのだろうか...。
日光は克服しているようだが...。
「大丈夫です、日光を克服したときに弱点を克服してるので、唯一あるとすれば―――」
話の途中で肉にタレを付けてそれを口に運ぼうとする。
ん?待てよ....ニンニク....
!!!!????
俺、タレにニンニク使ってるじゃないか!!
俺は慌ててノヴァを抱き抱え机から距離を取った、ふぅ何とか間に合ったか。
抱きかかえられたノヴァは顔を真っ赤にして俯く。
「唯一あるとすれば...グレース様が私の弱点....です....」
「ってことは。ニンニクは大丈夫なのか?」
「はい、ちょっとした冗談のつもりが...」
どうやら冗談だったようだ...俺があまりにも早い速度で行動に移したせいで反応出来なかったようだ。
この俺に冗談言える様な存在はほとんど居ないだろう、俺も久々に冗談を言われ真に受けてしまった。
この子に関しては少し冗談への耐性を付けた方がいい様だなと俺はスカーレット・ジル・ノヴァに対しての警戒度を上昇させた。
窓の外を見れば既に日が落ちている部屋割りを決め俺は部屋に入った。
睡眠は必要ないが布団に入り目を閉じる。
ノヴァとシルビアはスキルの把握をしてるはずなので休むとしよう。
隣の部屋からは女同士の笑い声や話声が聞こえてくる、中々仲良く出来そうだ。