第57話 新世界
俺はノヴァを連れて来賓室に戻る...戻ったはいいが俺に向けられるのは冷たい視線だ。
特に...シーラとキーラ....。
「兄様が結婚だなんて....」
キーラが口に手を当てながら言う反対にシーラは何も言わない。
逆にそのほうが怖い...せめてなにか喋ってくれ...。
「お兄様...」
シーラは俺の呼称だけを口にするそして大きくため息をつく、俺は固唾を飲み続く言葉を待つ。
戦場に居る時よりも重い空気だ、心臓は早鐘を打っている。
「まずは一歩前進....ですね」
そういい親指を立てる、肩透かしを食らった俺は安堵に胸を撫で下ろす。
「てっきりシーラは反対だと思っていたが...」
「反対ですよ...最初からね...ですが....最初と最後にまた私を愛していただけるのであれば私は妥協します」
シーラの言葉をきっかけに昔の事を思い出す、俺がハーレムを目指そうとしたと時シーラは反対した。
シーラからしたらたった一つの愛であり主人であるグレースの思いが他に移ってしまうのが怖くて。
だが....急にシーラの意見は変わり突然宣言した、「最後に私をまた愛してくださるなら妥協します、ただ―――ハーレムが完成した暁には私も―――
「お兄様、私には約束があるのでなるべく早く完成させたいのです、まずはその一歩です」
シーラの言葉で俺は思い出から帰ってくる。
「あぁわかっている....わかっているさ...」
「グレース様...この方々は...グレース様の奥様方でしょうか...」
ノヴァのから発せられる言葉を大慌てで否定するミーシャとマーシャ。
「わわ、わ、私が覇王様の奥様なんてと、ととてもじゃないけどおこがましいわ!!」
「ミーシャの言う通り...不敬罪...!!」
俺としてはこの子達も入れたいが...。
「私は妹です」
「私も妹...でも姉様が認めても...私は...私より弱い人なんて認められない!!!」
キーラの言葉に全員が頷く、確かにこの世界ではかなり上位の存在だが...この場にいる者達からしたら取るに足らない存在だ。
「私これでも結構強いと思ってたんだけど...」
「確かにこの世界からしたら強いけど...覇王様どうする?」
「強くなろう...」
そうだな...時空の狭間で修業させるか...あそこなら短時間で強くなれるし。
「なら時空の狭間の使用を許可するぞ、時の流れがこっちと違うからそこで好きに冒険してくると良い」
「私一人で...ですか...」
上目使いで目をウルウルさせこちらを見上げてくる。
そんな顔されたら...。
「仕方ない....俺がいこう...」
俺がそう口にすると、ミーシャとマーシャがずるいと口々に言う。
「わかった....入学説明が終わったら合流するといい、たまには俺も冒険をしないとな」
「いいの!?」
「嬉しい...」
俺が作った世界だが...俺が自分で冒険をしたわけではないゼルセラとかは普段から利用してるから新しく城とか建っているかもしれない
―――これより入学説明会を開始します、合格者は広場に集合してください
アナウンスが流れ皆が移動していく、そして俺とノヴァだけが来賓室の残される
「さぁ、早速行くか?」
「うん!!」
元気な返事をかわいい笑顔でするノヴァにトキメキを感じるがとり合えず転移をして時空の狭間に入る。
扉を開けるとそこには大草原が広がっている、さてと。
「【状態】」
俺がそう唱えるとノヴァのステータスが表示される、やはり普通の世界ではかなりの強者だ。
Lv:230
名前:スカーレット・ジル・ノヴァ
種族:【吸血鬼の姫】
職業:【魔法詠唱者】
称号:【深淵之吸血鬼】
HP:85446
MP:99999
ATK:20321
DEF:20588
INT:69988
RES:38877
SPD:14988
固有スキル:【魔力干渉】【不老不死】【日光克服】【弱点耐性】【血の循環】【夜行性】
スキル:【魅了Lv10】【吸血Lv10】【眷属支配Lv10】【眷属召喚Lv10】【他種族威圧Lv10】【魔王覇気Lv10】
【血の鋭槍Lv10】【血の鋭爪Lv10】【血の怪線Lv10】【血の宝玉Lv10】
ノヴァのスキルを見た結果、そこまでの弱点は見受けられない、【魔力干渉】とはなんなのだろうか。
「ノヴァ、この【魔力干渉】とはなんだ?俺も初めて見るスキルなんだが」
「これは魔法とかを使う時に自分の持つ魔力に干渉しないの、簡単に説明すると....魔法を使う時に自分の魔力を消費しないんです」
ふむふむ....は?
それずるくね?だからあの時もあり得ないほどの魔法を同時使用したのか...。
魔力の消費無しに魔法を使用できるのは反則だ、蘇生魔法を無制限に使えるのも反則だし、もし仮にこの子に覇王級の杖が渡ったら大変なことになるぞ...。
最上級の魔法を同時に何個も発動させ何度でも発動できる、合わせたらまずい組み合わせだな...。
広大な草原にはポツンと木造の建物がありそれなりの規模の畑がある。
「あの建物は...」
「ここは俺の作った世界だが、冒険したのは俺以外の奴らだからな、その中の誰かが最初の拠点にしたのだろう」
ノヴァに説明した通り俺が作りだした世界にはアイテムで建物を建てることもできる、アイテムは基本敵からのドロップ品が主だが、覇王級アイテムに関しては特定の条件をクリアすることで獲得することが出来る。
恐らくミーシャ達だろう、他の利用者のゼルセラ達に関してはこの程度の敵の強さの所にとどまる事はしないはずだ。
あの子達の冒険の軌跡を見ていけるなんて少し楽しいではないか。
「グレース様、これは何て言う植物ですか?」
畑に生っている真っ赤な実の果物を見て不思議そうにそれを眺めている。
スキルの鑑定を使用して見れば【力の宝種】と言う事がわかる。
「それは【力の宝種】だな、食べてみるか?」
俺は生っている実を一つ取りそれをノヴァに渡す、少し不安そうに臭いを嗅ぎ真っ赤な果実に吸血鬼特有の発達した犬歯を突き刺す。
少し待ってみても思った反応と違う、嚙みついたはいいもののどうしたらいいのかわからない様子
頭の上に疑問符を浮かべているようだ...。
「人間の食べ物は食べたことないのか?」
彼女は首を傾げる。
「ごめんなさい...私は吸血鬼なので人間の食べ物を食べる必要が無いんです」
ちょっとした質問だったが彼女を困らせてしまったようだ
「責めているわけではない、それを一度噛み砕いて飲み込んでみると良い」
一口分だけ噛み砕きそれを口の中で味わう、すると目を輝かせながらもう一口噛みつく。
満足してくれたのか果物をすべて食べてしまった。
「人間の食べ物がこんなに美味しいなんて....私の今までの人生は...」
「ヴァンパイアにとって血は美味しい物じゃないのか?」
「私は生まれつき【血の循環】って言うスキルがあったから...」
これも初めて聞くスキル名だ、俺にも未だに知らないスキルはとても多い、使えるがそれはシーラ次第なのである。
俺が聞けばすらすらと答えてる。
「自分の中に流れている血液を食料とし栄養を補給できる、だから何も食べなくても永遠に生きていられる」
フレイヤはこんな気持ちだったのだろう。
本人にとっては食べる必要がないとしても何も食べないと不安になってしまう...。
食文化を学ばせるのもいい機会か...。
俺はさらに青い果物を手に取りそれをノヴァに渡した【素早さの宝種】だ、この世界の食べ物は特別なので強さに直結する、食べることも強くなることへの第1歩なのである。




