第56話 乙女襲来
エミールとの戦闘中、昨日感じた様な魔力を上空で感じた。
なにかと思い上空を見れば昨日助けてあげたスカーレット・ノヴァだった。
俺は昨日心を壊されそうになったが...今は別の意味で壊されそうなのだ
「私と結婚してほしい!!」
綺麗な美少女に上目使いでそんなこと言われて困惑しない男なんていないだろう?
今も尚、まるで猫の様に俺の体に顔をすりすりとしている。
「この温もり...また感じられるなんて...」
ゴクリ....これは...俺が求められているのか。
「貴方はどちら様?私は学院長と試合中なのだけど」
エミールが困惑しながらも平静を装いながらも質問する。
「私は...」
「あぁこの子はスカーレット・ノヴァ、昨日吸血鬼の魔王に頼まれて助けたんだ」
流石に人間に立場がばれるとまずいのか言葉に困っている。
アシストくらいはと思い答えたのだが...何故かキラキラとした目をこちらに向けてくるノヴァ。
「私の名前を憶えててくださったなんて私感激です!!」
「まぁ昨日会ったしなさすがに忘れはないさ」
「私もです!昨日からずっとグレース様の事を考えていました...」
お、おう...何故俺の好感度が急に上がったんだ?俺はなにもしていないし...シエラも接触したわけでもないだろう。
その証拠に結婚と言う単語が飛び出た時誰よりも早く来賓室から顔を出したのだ、シエラもきっと焦ってるのだろう。
だが...理由が思い当たらない....あの時俺は確かに拒絶された、化け物認定されたのは確実だし、嫁には迎えられないと思っていた...。
これは...ワンチャンあるのか?
「どうゆう風の吹き回しだ?昨日はあんなに俺を拒絶したじゃないか」
俺の言葉を聞くと目に涙を浮かべてしまった。
「ごめんなさい....昨日は取り乱してしまって...でも、これを感じますか?」
ノヴァは俺の手を取りそっと自身の胸へと押し当てる、その瞬間に手のひらに伝わるむにゅっとした感触そして零れる少女の吐息。
「わかりますか?この心臓のときめきを...私は吸血鬼なのに...」
わからん!!!どっちの心臓がドキドキ言ってるのかわからん!!!確かにこの子の心臓は動いてるのかもしれんが....俺の心臓は早くなりすぎて止まりそうだ!!
俺の手震えてないよね?
「グレース様の御手...とても暖かいです...それにグレース様もドキドキされてるんですね」
ノヴァが耳を俺の心臓に最も近い所に耳を当てる。
止めてください!!!ほんとにドキドキしてるのがばれてしまいます!!
さりげなく止めないと...俺がもたない...。
「その音はノヴァの心音じゃないのか?」
ノヴァの顔がみるみる内に真っ赤に染め上げられ俯く。
「まぁお恥ずかしい所を....でも感じていただけましたよね...私がどれだけドキドキしているかを...」
「まぁそうだな...それはそうと少し試合の途中だから離れていてくれないか?」
「それは申し訳ありません、ご武運をお祈りしております」
試合中の旨を伝えると理解力が早いのかすぐに距離を取ってくれた―――だが....残されたのはエミールへの罪悪感だった。
さっき認めたとか色々言ってたのにこんなの目の前で見せられたら....もし俺が乙女なら軽く死ねる..
「エミール...」
俺がそれだけ呟くとゆっくりエミールは歩み寄り俺の服の裾を掴む。
「私も強くなるから....だから....」
俯いているので定かではないが恐らく目に涙を浮かべ唇を噛みしめ声を振り絞り言っているのだろう
そんなエミールに俺は掛ける言葉が見つからなかった。
「だから....頂で...待ってて...私も....行くから」
俺の胸を力なく叩き俺に背を向ける、声を掛けなければ....何か...なんでもいいから...コミュ障の俺にはなんて声を掛けたらいいかが思い浮かばない。
そうして俺は...
―――勝負ありーーーー!!
ん?
その言葉に俺は唖然とする、エミールも歩くのを止めその場で立ち止まる。
―――エミール様の攻撃が当たったことによりこの勝負エミール様の勝利です!!
え?あれ?あれって攻撃判定に入るの?
唖然とした表情でエミールは振り向く。
「私勝ったの....?え?...えぇ...そう....私...勝った....そうよ!私勝ったのよ!」
そして妙に姿勢を正し剣を鞘に納める収めた時の金属音が鳴りそれと同時に凛々しい表情で一言。
「私の勝ちよグレース」
こいつ....さっきの阿呆面はなんだったんだ...まぁあれも攻撃には攻撃なのか...。
まぁ負けたことに変わりはないか...なら時空の狭間の使用許可をだすとするか。
「エミール、お前に【時空の狭間】の使用のきょ...」
「撤回しなさい!!グレース様にそんなずるい勝ち方して嬉しいですか?」
俺に向けた時と同じように魔法陣がエミールを囲む、種類も俺の時と同じくらいだ。
エミールに防ぐ術はないそして耐えれる訳もない。
「構わないさ」
俺は指をパチンと鳴らし組み立てられた魔法陣をすべて破壊した。
「俺がノヴァに気を取られたのが敗因だからな、エミールの作戦だろう」
「私の事をそんなに気に掛けてくれているなんて...」
ノヴァが何かをぶつぶつと呟き始めたので先にエミールに話す。
「言いそびれたが【時空の狭間】を使っていいぞ、あそこで修業すると良い、使い方についてはシエラかチェイニーに聞くと良い」
「もしかしてその【時空の狭間】って言うのがミシャ達が強くなったことに関係してるの?」
「あぁそうだ、こちらの世界での1時間が1万年に延長される、今日の職員会議が終わったら早速シエラにでも頼んで体の時間を止めてもらうといい」
「わかったわ」
さてとエミールは俺に勝った事で機嫌も良い様だな、あとはこの嫁候補のスカーレット・ノヴァをどうしようか...何を言っても良い方に勝手に解釈してくれそうだが...。
他の奴ら主にシエラをどう説得するかだな...。




