第53話 英雄願望
ユウカの剣劇をミーシャは軽々と防ぐ。
「あなたに一つ問いたい」
剣を振りながらユウカはミーシャに問う。
「なぜあなたは人間の事を【人族】と呼称するの?」
「何故とは何?逆に聞くけど何故人族だけを人間と呼称するの?」
確かに興味深い話だ、人は醜い欲望で仲間を裏切り殺す、自分よりも身分の低い者を虐げる愚かな生き物だ、人間が言う醜い生き物とは人間そのものを指す言葉に思えてならない。
「勇者なら思ったことはあるんじゃないの?何故人族は協力し合わないのかって」
「人間には弱い部分ある...でも、人間には愛がある、人を守りたい気持ちたとえ矢面にたったとしても....」
「どうして愛が人族だけのものだと言うの、魔族にだって愛はある」
「魔族は...人間を襲い殺す...」
「人間だって殺すじゃない...なんの罪もない子供でさえ」
ミーシャの顔から怒りと言う感情がすっと抜け落ちたかの様な表情になる。
「じゃあもう...終わらせるね」
ミーシャが横笛に口を付け演奏を開始する。
とてもきれいな音色が闘技場に響きわたる。
観客たちの歓声は収まり、観客は皆静かに演奏を聴いている。
その中で一人苦しむのは対戦相手のユウカだけだった。
「この音を聞いた以上、あなたの負けよ、それと最後に
―――人族も魔族も命はすべて等しく平等、種族がどうので虐げていい理由にはなり得ない
私は魔族を殺す勇者になんてならない、すべての種族が誇れるような【英雄】に、私はなるよ」
ユウカは血を吐き出しながら勇者について考えながら意識を失った。
―――勝者ミーシャ・ストロニア。
ミーシャはスカートの裾を掴み観客席にお辞儀をすると来賓室まで跳躍してきた。
「ただいま」
「おかえり...」
ふわっと降り立つミーシャにマーシャが返事を返す。
「中々興味深い会話をしていたな、英雄願望か....」
俺がそれを口にするとミーシャは恥ずかしがるように顔を手で隠した。
「もぉやめてください....さっきの話は忘れてください」
「そうか?俺はミーシャの意見に賛成だな、魔族にだって愛はある...か」
恥ずかしさが限界に達したのか走ってどこかに行ってしまった...。
「さてと...次はマーシャだな」
「頑張る....」
マーシャの口調が無機質に戻ったのを確認し覇王級アイテムの使用を許可する。
「【失墜の宝玉】以外の覇王級を使ってもいいぞ相手は一応ヴェルだからな
本来の戦い方ではないがあれが無くても割と本来に近いだろう」
「それは龍の姿で戦ってもいいと言う事?」
せっかく無機質な喋り方に直したのに本来の状態でリベンジマッチが出来ると聞いてキャラ作りを忘れてしまっている。
「これからこの学院は人間以外の種族も出入りすることになるからな、手始めに龍人との交流だな」
まぁこっちの世界での龍人に会った事がないから存在するかも知らないが...一応、龍種は赤龍、青龍、緑龍、白龍、黒龍が存在しているらしい、竜から龍になった存在なのだから人型くらいにはなれるだろう。
「ならヴェルちゃんの力も解放してあげて...」
「どこまで解放してほしい?前回負けたくらいか?」
前回負けたのは13段階目だ、その進化形態の状態になす術もなくやられてしまった訳だが
「今回は私も本気で行くから、向こうも覇王様が最後に戦った時の形態まで進化させてほしい」
「15段階目と言う事でいいのだな?まぁ俺が障壁を張るしそれにシステムに守られているから死ぬことは無い、存分に楽しむといい」
「うん...」
――――マーシャ・ストロニアVSプランチェス・ノエル。
「呼ばれた....」
次の試合のアナウンスが流れマーシャが席を立つ。
「あぁ行ってこい!」
マーシャは飛び降りる事はせずに【飛行】のスキルを使い宙に浮かんで優雅に舞台へ降りて行った。
それと同時に来賓室にミーシャが戻ってきた。
「もう行っちゃったのね...」
「あいつなら大丈夫さ、きっと勝つ」
「覇王様がそういうならきっとそうなのね、もちろん私もマーシャの事を信じてるけど」
片手で髪をクリクリさせながら話す。
「それとヴェルの進化形態は15段階目だそうだ」
手の動きを止め俺の元まで走って近づいてくるミーシャ。
「15段階って...ゼルさんでも勝てなかった形態の2段階上の形態....そんなの....」
「勝てないと思っているのか?」
「別に...そんなわけじゃ...」
「今回は本気で行くって言ってたし、それがマーシャの望みだったからな」
すると試合開始のゴングが鳴らされる、視線を舞台に送ればプランチェスとマーシャは睨み合っていた。
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらって召喚させて貰うわね」
「そうだ...覇王様から話は聞いてますよね?」
「一応聞いてますがヴェルからの提案で14で様子を見てから15にしたいと」
「それで構いません、まずは様子見です」
魔法陣が光だし悪魔が召喚される。
その魔法陣は悪魔召喚ではなく転移の魔法陣だが...それを気付けるのはほとんど居ない。
やがて悪魔もといヴェルナータの全容が明らかになる、その姿は明らかに先程とはことなり額の紋様は14つ。
さらに、体の周囲をバチバチと電撃が流れている。
「あの時のリベンジにしては随分と気が早くないか?」
「本気....だから....」
ヴェルの問いに対し無機質に答える。
「どうしたんだ?その喋り方、うまく話せなくなったのか?」
「キャラ作り...」
「お、おう...なんか大変だな...」
正直試合前にする会話じゃないが別に殺し合いをする訳でも無いのでいいだろう。
「その状態でスタートでいいのか?」
「私は...すぐ強くなる....」
「ほう...」
そしてヴェルナータは驚きに目を見開く。
ようやく、気付いたか...今のヴェル14段階目のステータスではマーシャのステータスを解析できないことに....。
恐らく当たらしく作った覇王級アイテムの真の効果に気付いて昨日から実践したのだろう。
装備無しの状態で解析できないステータスつまり本来の姿のステータスとなればその差は歴然だ。
「成る程....どうやら挑戦者はこの私の様だな...」
状況を悟ったのかヴェルが覚悟を決める、そして最初に攻撃を仕掛けたのはヴェルナータだった。




