第52話 元孤児院の少女
次の試合....これも賭けにはならない。
―――ミーシャ・ストロニアVSユウカ・サカグチ
この二人も以前面識が合ったようだが俺と会った事で良くか悪くか立場が逆転してしまったな...。
勇者よりも勇者の様なミーシャこの戦いはどんな戦いをするのだろうか。
「私はあまり見たことない戦い方を見せてあげるよ、こう見えてすべての武器種をマスターしてるからね!」
自身有り気に言うミーシャに少し意地悪をしてみる。
「ほう?数多の神々や魔王、精霊に亜人、それらと戦った事がある俺の見たことの無い武器種か...」
「うん、少なくともあの世界で使ってる人を見たことないよ」
それはかなり興味深い...ミーシャ達が三万年居た世界それは俺が作り出した世界故に俺が戦ったり直接みたことのある奴しか居ない。
あの世界に居ないと言う事は俺は会った事が無いと言う事。だが――――
「それは覇王級のアイテムを利用して使うのか?」
覇王級アイテムその中の一つ【天覇滅集】。
この武器の効果は。
―――全武器種変化。
―――全武器種熟練度解放。
―――全武器種熟練度最大化。
―――劣化、破損、腐食、その他完全耐性。
つまり、この武器を装備すれば全ての武器種を扱えるようになる、それが意味するのは生まれたばかりの赤子でさえこの武器を使えば剣聖以上に剣が扱えるようになる。
それがすべての武器種なのだ、弓にすれば超遠距離からの目隠し当てすら100%で当てれるようになるのだ。
だが欠点もある、例えば剣などの近接武器ならすべての技が使えるが消費スタミナや消費魔力はそのままなので自身の最大値をオーバーした場合意識を失い何も行動できなくなってしまう。
魔法をすべて扱えるからと言って大魔法をポンポンと使えるわけではないのだ。
そう思って一応バランスは保てている方だと思ったが。
逆に言えば膨大なスタミナと魔力さえあれば魔法を習得してなくても極大魔法をポンポンと扱える。
ミーシャはそれを可能としてるので全く扱ったことのない武器でさえ扱えるのだ。
「疑ってるなら【天覇滅集】は使わない、その代わりに覇王様が代わりに作ってくれませんか?」
「いいだろう、なるべくお前の素が出る様に上昇ステータスは無しで行くぞ」
「横笛なら効果は選びませんなくても結構です!!」
確かに珍しい...そもそも戦いに使う武器ではないだろうに...。
俺はスキル【虚無錬金】を使用し鉄製のフルートを作成した。
俺が作りだす武器では珍しくなんの付与効果もないただフルートの形をした鉄製の棒だ。
それをミーシャに渡すとすぐに演奏を始める。
とてもきれいな音が流れ場が和む。
「たしかにこれを武器として使用する者とは今まで会った事が無い」
演奏をやめたミーシャはキーラの時と同じように来賓室から飛び降りて行った。
なのでそっとマーシャに質問をする。
「いつから使える様になったんだ?」
「サボり癖....」
マーシャは途中で会話を止め一度咳ばらいをした。
「実は二万年程経ってから暇を持て余したのか楽器ばかり演奏してたんですよ、あの子...ダンジョンに行くって言っても笛とかバイオリンとか最終的にはタンバリンですよ...
流石にタンバリンの時は私も苦笑いしか出来なかったですけど....」
どうやら無機質な話し方では説明が難しかったようだ。
「つまりは音に斬撃や刺突や殴打の属性を付与したと言う事か...つまり俺が心臓の鼓動や指を鳴らした音とかに付与したのと同じ原理か....なるほど」
俺は勝手に理解して話したがマーシャは少し困惑している。あれ違うのかな?
「覇王様...そんなことしてたんですか?」
「他にも歩行に衝撃波乗せたり息に滅びの効果を付与したりしたが....」
「覇王様....」
マーシャの表情が困惑から苦笑いに代わってしまったので話を忘れさせる。
「すまない...いまのは忘れてくれ...」
「は、はい...原理は覇王様の言っていたことで合ってるんですがあの武器種の大体は支援魔法なんですよ
音に乗せて仲間を癒したり状態異常を回復させたりバフを掛けたり...覇王様の言っていた様な攻撃系の効果を付与するのはとてつもない技量が必要なんです...指を鳴らすのは未だしも...心臓の鼓動なんて自分たちで操れるものじゃないんですから...」
「そうか?俺は少し力をセーブするのをやめただけなんだが...もし仮に俺が力の制御をやめればこの世界のありとあらゆる生命体を皆殺しにできるが...」
マーシャの顔がさらに引き攣った顔になる。
そう俺の力とはそうゆう力なのだ...強すぎるが故に俺はすべてを解放することができない。
何をするにも制限が掛かる、俺にとっては生きずらい世界なのだ...。
そんな脆い世界を俺がどうして自由に生きていけるかと言うとすべてはシーラとエミールのお陰なのだ。
最初に諦めずに支えてくれたエミールそれのお陰もあってシーラを生み出すことに成功し力の制御をシーラに任せる事で俺は自由に生きれるようになったのだ。
今思えばこっちの世界に来た時に力の制御が出来なかったのはシーラが居なかったからか...。
ふとシーラを見れば可愛らしい小首を傾げてくる。
「いや...苦労を掛ける....ありがとな」
「いえ...慣れてますから」
俺とシーラにしかわからない話をしたので周りが困惑してしまった。
「圧倒的強者も大変なんですね...」
マーシャが俺の大変さもといシーラの大変さを理解してくれた頃試合開始のゴングが鳴らされた。
闘技場の舞台ではユウカとミーシャがお互いを真剣に観察していた。
「それがあなたの武器....なんの魔力も感じられませんが...」
「ハンデだよと言っても本気でやるつもりもないけど」
「つい先日まで孤児だった少女が今は私をも超える強さを手にし勇者の様になってしまうとは...」
残念そうにユウカが言うがミーシャは小首を傾げながら言う。
「私は勇者にはならないしなれないよ?なるつもりもないし」
「どうして...あなた程の力があれば...」
ミーシャはいつになく真剣な表情をして答える。
「魔を滅ぼすだけの人族の人柱になんてならないよ、私は守りたいものを護り救いたいものを救うやりたいようにやって生きたいように生きる、
滅ぼしたいものを滅ぼす、私はやりたいようにやる、この三万年で色々学んだんだ」
「三万年と言う言葉が引っ掛かりますが...」
「ユウカちゃんも勇者なんて止めちゃいなよ、魔族を滅ぼすだけだなんて...」
「その口ぶりだと....人族も滅ぼすと言っている様に聞こえますが...」
ミーシャが微笑む。
「そうだよ、殺す必要があるなら殺す、自分の大切なものを守るために必要なら殺す、もう、奪われたくないから」
「なら、あなたは何を目指すの?覇王でも目指すの?」
真剣な表情のユウカから出た言葉に吹き出すミーシャ。
笑いをこらえる事が出来ずに腹を抱え目に涙を浮かべている。
「そんなにおかしい事かしら?あなたの傍にはその超えるべき覇王がいる、あの人を倒せばあなたは覇王に...」
笑いも徐々に収まってきたのか目を軽くこすりながらユウカに視線を戻す。
「覇王様を倒すって...いったいどうやって?この世界のすべてにおいて頂点に到達している人だよ?何者よりも固く、何者よりも早く、何者よりも強い
そんな人に勝つ方法があるなら教えてほしいよ」
「わ、わからないけど...」
「ユウカちゃんも戦ってみれば?少しはその片鱗を味わえるかもよ?
私は別の世界で何度もあの人に戦いを挑んだけどあの人は理不尽の塊だよ?
こっちの世界だと攻撃くらいなら受けてくれるだろうけど、あの世界だと当てさせてもくれない、まぁ当ててもダメージは入らないけどね」
「まだ、あなたは幼いから成長はある、世界はあなたが思っているより広い」
「私はこう見えてここの人族のだれよりも年上だと思うよ?私に比べたらユウカちゃんは赤ちゃんみたいなものだし」
その言葉をきっかけとしたのかユウカが剣を手に踏み込む。
それを手で受け止める。
「素手で...」
ユウカが驚いたように凝視する。
「手で防いだわけじゃないよ、魔力障壁を展開しただけだよ」
よく見るとたしかに薄く障壁が張られている。
俺の場合は直に受けてるがミーシャは一応普通の人間だからな。
こうして始まったミーシャとユウカの戦いは少し長期戦になった。
というよりミーシャが避け続けているのだ。
だがそれも制限時間ギリギリまで。
そして最後の1分ミーシャはその戦闘にケリを付ける。