第51話 Sクラス担当教師....
次の試合を待つ間つ間勝敗記入用の用紙を振り分けない俺に対してミーシャが素朴な疑問をぶつけてきた。
「次の試合はどっちが勝つか賭けないんですか?」
次の試合は賭けにならないので...と...素直に言うよりも何かかっこよく伝える方法はあるだろうか...。
少し考えた結果思いついたことを口に出してみる。
「次の出場者を聞いたら考えが変わるかもしれんぞ?」
あまり意味がわかっていないのか小首を傾げているがマーシャとキーラは何か察したようだ。
―――次の試合はシーラ・シュテルケさんVS総合科Sクラス担当ユリウス様です。
観客からはユリウスに対しての歓声が送られている「あの御方が!!」とか「あれが剣聖様か!」とか....。
「あいつ剣聖だったのか...」
「それでは、私は」
シーラはそれだけ言い転移魔法で転移してしまった。
「もうシーラちゃんの出番なんだ...確かに賭けにならないかも...」
「でも...たのしみ...」
「そう?どうせすぐ終わると思うよ?」
「うん....どうやるかを見てみたい」
ミーシャは興味なさげだがマーシャは何事にも興味津々なようだ。
というより強さへの憧れと言うべきだろうか。
そうこうしているうちに試合開始のゴングが鳴らされる、舞台で何を話してるのかと思えば案の定ユリウスがシーラを挑発していた。
「たしか、学院長の妹君と聞いてるが手加減はしないよ?試験生に負けたら教師の威厳が無くなってしまうからね」
「そうですか...ならその生徒にどんな負け方をしたらあなたの威厳は地に落ちるのでしょう」
肩を竦ませ男は薄く笑う。
「私が負ける事が前提の話みたいですが...そうですね...私は剣聖と言われ慕われています、この国には剣姫:エミール様が居られますが...」
「ではこうしましょう」
そう言いシーラは剣を作り出した、それはユリウスの持っている様な伝説級の剣ではなくそこら辺の兵士が使っている様な量産品の代物。
「その様な剣で私の相手を?」
「はい、加減はしますので」
そんな会話を直接聞いた俺の回りの少女たちは笑っていた。
最早滑稽としか言いようがない。
「力量差がわからないとかなんだか可哀想」
「哀れ...」
「でも姉様を侮られるのはちょっと気分良くない...」
「うん....不愉快」
笑っていた少女たちは徐々に真剣な表情になっていくそれ程にシーラを慕い尊敬しているのだろう。
「まぁ、俺たちがここでどう思おうとシーラが勝つことに変わりはない」
納得してくれたのか少女たちの顔に笑顔が戻る。
というよりキーラから魔力が漏れ過ぎていたので宥めたのだ。
強すぎる魔力は人間には毒なのだ...。
キーラも笑顔を取り戻した様なので画面に視線を戻す。
そこでは未だに長々とユリウスが話をしている、その様子に聞き上手なシーラでさえ呆れている。
「はぁ...剣聖なら早くかかってきてはどうですか?それ以上無様を晒すものではないですよ...」
「君の方こそわかってないようだね?かかってこいと言うのならば君からくればいいだろ?私に隙がないから攻めるに攻めれないのだろ?」
さらに話を続けようとするユリウスは突如地面に崩れ落ちる。
「な、なにが...」
ユリウスが視線を自分の足に移せばそこには両断された自分の足がそこにはあった。
「わ、私の足が....」
徐々に状況を理解してきたのか悲鳴を上げる。
ゆっくりとシーラが近づいて行くが足を切られたユリウスでは逃げる術は残されていない、唯一できたのは体を起こし後ずさるだけだった。
「愚かですね....先日、自分の無力さを思い知らされたのではなかったのですか?少しは考えを改めていると思ていたのですが...残念です」
顔を真っ青にし怯えながら後ずさるユリウスそんなユリウスの目を無表情な目で見つめながらゆっくりと歩み寄っていく。
「これが試験でなければ魂を書き換え正しい知識を植え込む所ですが...」
さらに一歩近づく。
「貴方にはこの学院を去って貰いましょう、安心してください」
そしてもう一歩。
「Sクラスの担任はゼルセラに引き継がせます」
最後にそれだけ伝えるとシーラはハイライトの消えた微笑みを見せユリウスの眉間に剣を突き立てた。
「スッキリ....」
「でもちょっとだけ怖かった」
シーラのあの笑顔にキーラは少し怯えているようだった。俺も怖かったぞ...。
あの男の心は折れてしまってないだろうか....でも、まぁシーラの言っていた通りSクラスはゼルセラに任せるか....。
「秘書は私が変わりましょうか」
背後で声がしたと思えばシーラが既に転移してきた後だった。
「そうしたいのは山々だがシーラは生徒だろ」
そういい俺はシーラの頭を撫でる、するとシーラは少し顔を赤らめ嬉しそうに微笑む。
そんな表情のシーラをみて安心したのかキーラもいつもの表情に戻った。
こうしてるとほんとにシーラも可愛いんだよな...。
―――次の試合はキーラ・シュテルケさんVSガイル・ノルウェイズ様です。
先ほどと同じように観客達から歓声が沸き上がる。
確かにあいつは男の俺から見てもいい男だったユリウスの様な色男ではなく暑苦しいタイプの男だ。
あいつの目は本物の男の目だ。
「じゃあ、行ってくるね」
俺たちの居る来賓席から舞台まではそれなりに高度があるそこを軽々と飛び降り舞台に着地した。
その結果高さゆえにそれなりの衝撃波が生まれ多少地面を抉っている。
「嬢ちゃん中々派手な登場だな~!!俺の人気が全部持ってかれちまったみたいだな、さすが覇王様の妹様って訳だ」
そして試合開始のゴングが鳴らされる
「お嬢ちゃん素手な.......」
話の途中だったはずのガイルは血飛沫となって消えた
観客からの声は上がらない俺の回りからも声は上がらない、俺も唖然としていた
「おじさんなんか喋ってたの?」
小首を傾げる幼気な少女。
恐ろしい子...
―――勝者:キーラ・シュテルケ
俺たちは何も言えなかったガイルはシステムに守られているから死ぬことはなく今頃救命室で復活しているだろう。
それでも....ガイルが少しかわいそうだった。
「覇王様...おじさん最後何を言おうとしてたの?」
「恐らくだが...お嬢ちゃん素手なのか?じゃないか?あいつも男だからな素手の少女相手に攻撃は嫌だったのだろう」
「可哀想...」
「一応私たちの命の恩人だし...」
マーシャとミーシャは苦笑いをしている
「ただいま~」
マーシャが舞台からジャンプし来賓室に戻ってきた
「見てた見てた~?私な華麗な膝蹴り」
満面の笑みを浮かべVサインを見せるキーラ。恐ろしい子....。
そう、観客には見えていないだろうがあれはキーラが引き出せる力を限界まで引き出した膝蹴りだった
腹を貫いた膝蹴りの衝撃波は来賓室にまで届いていた
教師たちが張り巡らした魔法障壁をすべて破壊して....
「しっかり見ていたぞ、今までみてきた中で最も美しい膝蹴りだったな」
これはお世辞でもなく本当にきれいな膝蹴りだった。
だからこそ...俺は少し....ほんの少しだけ――――恐怖を感じたのだ...