第42話 覇王の目的
配下を二人も獲得してしまった。
一人は不死者アンデットだ、アンデットだからと言って肉が腐ってたり変な臭いがするわけではない
生気を感じさせない肌をしている。
臭いはしない...幼い顔をしてるからいい匂いがすると思ったのだが一切その臭いがないのだ。
残念だが腐った臭いがしないだけましだろう。
もう一人は黒髪のくのいちだ。
凛とした表情をで作った俺の自身作だが弱すぎるので今は修行に出したが...
それはそうとメトラの望みを叶えてやろう。
罪を被る代わりにあの大鬼を救えとの事。
俺は大鬼を正面から見据え微笑む。
「お前のお陰で配下が増えたぞ」
「っく!!」
「配下の願いくらい叶えてやれない程俺は狭量ではない、だからお前は助けてやろう」
「殺せ...情けまで掛けられてのうのうと生きることなんぞ我には出来ん」
大鬼は吐き捨てる様に言った。
「俺の配下の言葉が聞こえなかったのか?俺の配下はお前の命を見逃してほしいと言った
俺は再び魔法を使った【変更】だ。
身体の組織を組み換え見た目を変更した、性別も含めて...。
俺は【覇王の御手】を解除し地面に下ろす。
大鬼は少女に変更した、メトラと横並びになるとまるで姉妹の様にさえ思える程に。
大鬼の少女は隣に立つメトラを見る。
「好敵手よ、なぜそなたはそこまで成長しているアンデットは成長しないはず....」
空いた口が塞がらないという表情でメトラは言う。
「我が成長したのではない....ゼート...お前が幼い少女になったのだ...」
言われたことにはっとした少女が自身の体を確かめる。
「これが...我の体...だと...おのれ...人間風情の畜生が....」
俺の中に沸々と感情が沸き上がりそれに呼応するかのように覇王城全体が大きく揺れ始める。
「ご、ご主人様!!」
ドミナミとルノアールから悲鳴の様に呼ばれ俺は落ち着きをとり戻した。
「すまない、少し取り乱したようだ」
俺は深呼吸をし大鬼の少女に告げた。
「その口調はどうにかならんか?」
俺の中に発生した感情は【怒り】。
現在大鬼の少女は和服カテゴリの着物を着させている
見た目からすると自分の事を妾と言ったり廓言葉を使っているイメージなのだ。
それを我だと?
俺の中のイメージが崩れるのと同時にそれを崩壊させた奴への怒りが俺の中にあった。
やはり間違いだったか...
俺は大鬼の少女の頭に手を置き魔法を発動させた。
【魂改竄】
「余はマオーなのだ!!」
そこには先ほどまで男だった頃の記憶を持った少女ではなく生まれてから乙女として生きていた正真正銘の魔王がいた。
少し馬鹿な気もするが、大鬼なのだちょっと馬鹿でわがままなくらいがちょうどいい。
さっきまでは廓言葉をと思っていたが...気が変わり知能指数を下げさせてもらった。
その代わりに少女のパラメータつまりステータス能力値を底上げしておいた。
メトラと同じくらいまでに。
これでメトラとオーガの少女は友として過ごせるわけだ。
これでこの子達のキャッキャウフフを見れるというもの。
この顔だとゼートっという名前は不釣り合いだなと思い名前も変えておいた。
【セル・デフォル】
それがこの少女の名前だ。
最早【大鬼王:ワトゥセボ・ゼート】はもう存在しない、代わりに存在するのは同じ記憶を持った少女が存在するだけだ。
メトラは未だに信じきれないようでデフォルを見て硬直している
その間もデフォルは「オネー」と呼称を繰り返している、可愛らしいものだな。
「オネー、オネー、余の顔になにかついておるのか~どうしたとうのだ...余はオネーと遊びたいのだ...」
「うん...うん...」
メトラは適当な返事を繰り返している、ショックなのか嬉しいのかわからないが。
俺は満足だ。
悲し気な表情を浮かべデフォルがこちらに視線を送る。
「ハオー...オネーはどうしたというのだ...余は...余は...」
俺は指をパチンと鳴らすとメトラは正気に戻る。
「デフォルが遊びたがっているぞ、どこかで遊んでくるといい」
メトラの手を引きデフォルは玉座の間を出ていく。
「ドミ、遊んでやれ」
ドミナミに指示を出すと一番の笑顔を見せ返事をした。
そんなに遊びたかったのか...。
さてと...まだ会議が終わったわけではない。
「まだ、意見のあるものは居るか?」
この状況で意見を言うやつが居れば大したものだ。
魔王の中でも上位の者達があっという間に少女に変えられ記憶まで変えられたのを目の当たりにしたのだから。
残る魔王は7人、少し待っても誰も口を開こうとはしなかった。
「そうか、なら本題に入るとしよう」
俺は全員に向き直る。
「俺は他種族と共存できると思っている、その最初の一歩として俺の学院...まぁ魔法や剣術、その他諸々を学ぶところがある、それはお前たちの治める国にもあると思うが、そこで生徒たち同士を交流させたいと思っている。色々と問題はあると思うが俺は信じている、確かにお前たちの不安はわかる。人間の大人はあまりにも欲深く醜く汚いものだ。それは俺とて思っている、何度滅ぼしたらこの世界は綺麗になるだろうかと、な。だがお前たちも昔は思っていたのではないか?―――人間と仲良くしたかったと」
俺はシーラに魔王と言うものを教えてもらっていた。
―――その昔、ほとんどの種族は共存しあっていた。
―――だが、異界より来る転生者は魔族を醜いという理由で虐げた。
―――力を持つ異界人は、罪も無き魔族を殺して回った。
―――その異界人を支持した勢力も存在する。
―――それが教会、人族以外は悪だという教えを信徒に習わしたのだ。
―――その結果、エルフの里は焼かれ、魔族の村や街は襲撃を受けた。
―――罪なき民たちが人間に殺されていくそこで立ち上がったのが者達も居た。
―――力をもつ魔族と言われた種族の者は人間から民たちを守った。
―――守るために得た力、それを恐れた彼等をこう呼んだ。
―――魔王。そしてそれに対抗する力を持った人間を勇者と呼んだ。
そう。これは魔王の始祖の話だ、人間を信じていた最初の魔王はその人間に裏切られた。
話し合いで解決しようとした始祖を人間は攻撃し致命傷を負わせた。
逃げた始祖は最寄りの国へと逃げ込んだ。
だが愚かな人間はその国を攻めた。
滅びゆく国の王と妃は愛娘だけはと始祖に託し人間に殺された。
だが致命傷を負った始祖は人間達から逃げる事はできず少女を奪われてしまった。
人間達は始祖の前で少女を処刑した。
始祖は怒り狂い攻めてきた人間を皆殺しにした。
それが心優しき始祖がした最初の偉業となった。
だが、受けた致命傷は始祖の命を奪おうとしていた。
死の間際、始祖は目の前で処刑された少女の元まで行きすべての魔力を倒れた少女に託した。
命を尽くした大魔法は無事成功し一人の少女を蘇らせることに成功した。
その結果不老不死の魔王が誕生した。
【不死王:メトラ・ソネフティマ】
彼女が他の魔王より力を持っているのは始祖の力をすべて受け継いでいるからだ。
俺はこの話を聞いたとき人間の醜さを知った。
メトラの使役する配下はすべて滅びた国の住民だったのだ。
人間は欲深く罪深い、だがそれは昔の話だ。
今の子供達にまでそんな罪を背負ってほしくはない。
そんな腐った歴史など断ち切る。
すべての種族が手を取り合い共に暮らす。
それは辛く苦しい茨の道になるかもしれない。
それでも俺は信じている。
「覇王様、私は賛成です、そもそも今の人間に我々をどうこうできるとは思えない、貴方の妹君を除いてね」
最初に口を開いたのは巨人王だった優しい声をしておりその言葉に嘘は無いと思えた。
「何か策はあるのでしょう?愛する子供達をみすみす敵地に向かわせる王は居ません」
次に口を開いたのは空人魔王だった。
「二人の疑問は最もだ、人間は他種族よりもステータスで劣る、子供であればその差はあまりないと思うがな、怪我や命を失うことは決してない、この俺の名に誓おう」
俺は真剣な表情で言った。
「どうして言い切れるのでしょう」
「生徒たちには俺の加護が働く、その加護に居るうちはたとえ戦闘行為を始めようとしても強制的に模擬戦になる。そしてその模擬戦で死んだとしても影響はない、それと生徒以外のものが生徒と戦闘を始めても強制的に模擬戦に取り込む」
「生徒の家族はどうする?生徒だけで人間の王国に行くことなど出来まい」
巨人でもそんなこと心配するのかと思ったがその疑問も正しい。
「生徒とその家族には俺の領地に住むと良い安全は保障するそれと」
俺は指をパチンと鳴らし転移魔法を発動させた。
そこから現れたのは大きな体躯をした狼だ、漆黒にきらめく毛並みに大きな牙、鋭い爪に強者としての覇気。そう、オルフだ。
オルフは領地の警備を担当している。
なので安全を保障できるかを魔王達に自分の眼で確かめてもらう。
「某はオルフ。現在は主より命のあった町の警備を我が種族で行っている、なにか聞きたい事があればご自由に」
魔王たちは魔眼を使用しオルフを見極める。そして魔王達は驚愕に目を見開く。
魔王達の質問を待っている間、俺はオルフと世間話をした。
「オルフよ力はどうした?以前より格段に強くなっている気がするが?」
そしてオルフは喜々として答える。
「某はルノアール様の使い魔になりましたその恩恵もあり。みて下さいこれを...」
オルフが目を閉じるとオルフの体が光を発する。
光が収まった頃そこに居たのは美青年だった。
黒髪に赤い瞳それから発達した犬歯に獣の様な耳。
「成る程...人型か」
「そうです主よ、それから某は聖獣から神化を果たし神獣の領域へと至りました」
「つまりお前の眷属たちは...」
「その通りでございます、聖獣へと進化しました」
「眷属たちが全員かつてのオルフと同等の存在になった...かなりの戦力増強になったじゃないか」
尻尾をぶんぶんと振り喜びが出ている真面目な表情をしているが感情は尻尾に出るようだ。
魔王達からの質問を待っているとようやく一人の魔王が口を開いたのだった。