第36話 形勢逆転
ゼルセラ達が壮絶な戦いを繰り広げているとは知らずグレースは学院の教師達に入学試験の事を説明していた
そこにキーラから念話が届く
(兄様、今、家に超魔王を名乗る人が来ててゼルさんが対応してるみたい)
(何?ゼルセラが?そんなに強いのか?)
(強くはないっぽい、ゼルさんの攻撃で毎回両断されてるから)
なんだそれなら脅威ではないな...超魔王と聞き内心ひやひやしたがここはゼルに任せれば大丈夫だろう
(でもね、毎回進化してるから、もしあの進化に限界が無いんだとしたら...)
嫌な想像が頭を過る、進化には限界があるはず...そう思いたいがそれが奴が超魔王と言わしめる能力だとしたら...
(キーラ、今の所大丈夫なんだよな?ならやばくなったら俺を呼べ急いでいく)
キーラから了解の返事を聞くと念話を切った
「そんなことあるわけないよな」
小声で呟いたはずだったが隣にいたエミールには聞こえていたようだ
教師たちの前だからなのか凛々しい顔と声で訪ねてくる
「なにか問題でも?」
「いやこちらの話だ...いや、死ぬたびに進化する能力はあると思うか?」
一度キョトンとしたいつもの顔を浮かべるが顔を振り凛々しい顔に戻る
「信じたくないわね...でも、あなたみたいな化け物が居るんだもの...条件ありで強くなる奴がいてもおかしくないんじゃない?」
「一度死ぬ...もしくは体力が一定以下で進化...だが進化には限界がありそうなものだが....まさか...」
もし仮に転生者なら...
転生特典が進化だとすればあり得るのか...
その時俺の脳内では転生したときの事がフラッシュバックしていた
俺が最強の魔王になりたいと言った時....ロキは既に居るから無理と言われた...まさか奴が...
すると再びキーラから念話が届く
(大変ミーシャの攻撃で何段階か進化しちゃったっぽくてゼルセラさんでも手に負えてないみたい!)
やはりそうなるか....
(ゼルセラさん【禁忌:終焉の棺】を使ったみたいで...)
(わかったすぐに行く)
キーラとの念話を切りエミールに一言告げる
「少し出てくる!すぐ帰れるかはわからんが...」
「え、ちょっと...」
俺は転移を使わずに全力で飛び立った
自分の速度で周りが止まったように見える程早い速度で移動する
転移するより自分で移動したほうが早いからだ
ほぼ止まった時の中で移動中ようやく見えてくる...いや...見なければよかったとも思える
そこには黒い何かがボロボロになったゼルセラを掴んでいる
ミーシャには槍が刺さっており一緒にマーシャも刺さっている...
苛立ちを通り越し俺の中の何かがはじけた気がした
――――――――――――――――――
「兄様が到着します」
少女の言葉と共に空中に静止していた魔王の姿が消え爆音と共に土煙が上がる
土煙の発生源に視線を向けるとあちらこちらに散らばった闇が徐々に集結し始めていた
先程まで魔王が浮かんでいた場所には白銀の長髪が風に靡く男が天使を抱え浮遊していた
男は天使を抱えゆっくりと地上に降りてくる
「起きろゼル...」
一言そうゆうと天使はゆっくりと目を覚ました、その瞳は涙が溜まっており男の顔を見てそれは溢れ出した
「申し訳ありません...ご主人様」
「どうして覇王級を使わなかった、あれを使っていればこんな奴に負ける事はないだろう」
「あれらを使用する時は止むを得ない時とご主人様に言われていましたので...」
「まったく...そうゆう意味で言ったわけではない...それに使用を気を付ける様に言ったのは覇王級の中の【有象無象】とかについてだ
あれを使用しモンスターを大量召喚するとこの世界では大惨事になってしまう」
「つまり...私の装備に関しては使用していい...と...」
「そうだ、それと、お前の身に危険が迫るときはすべて止むを得ない時だ」
「それほどまでに私の身を案じてくれているのですね...」
「そうだ、それと...なぜ【禁忌:終焉の棺】を使用した...もし相手が破れなければお前は...」
「あれしきの封印術なら私一人で破れました、ですが...相手に邪魔されたのです...それとミーシャが...」
「回復はもう済ませた」
その言葉通りミーシャの腹部に空いていた穴は塞がり傷は完全に癒えている様だった
たった一人の介入により状況は一変した
だが天使達はそれを知って居たかの様にひどく冷静で表情に変化はない
その危機的状況の中で腹の底から響くような笑い声を発する者が居た
超魔王だ
彼女の声とは思えないような低い声が響くが姿は見えずその体は未だに闇に包まれている
その異変に気付いたのは一番長く戦っていた天使のリーダーだろう
「今迄とは別物の様です...進化が長すぎます...」
その闇は徐々に肥大化していきやがて、卵のから雛が出てくるときの様に少しずつひびが入って行く
徐々にその全貌が顕わになっていく
―――それは人類にとっての厄災その物だと即座に感じ取ることが出来た
私の中で渦巻く感情はこんな化け物を召喚してしまった後悔と後の人類への懺悔の念だった
完全に羽化すると闇は広がっていき辺りはあふれ出た常闇に包まれる
抱えられた天使を地面におろし安全な場所に避難させるとゆっくりと超魔王だった何かに近づいて行く覇王
その足取りは決して戦いに向かう足取りではない優雅に歩いていき超魔王だった何かの前に立つ
進化した超魔王は巨大化しており、その全長は10メートル程はあるだろうか、
それは覇王が小さく見える程巨大だった。
全身は漆黒に染まっており全身を赤い電撃がくまなく流れている
胸部には巨大な水晶体が埋め込まれている
やがて超魔王の纏う闇は背後に広がり巨大な顔の様な姿を作る
そして超魔王は大地が揺る程の怒号を覇王に向けて放った
この威圧は以前召喚したときとはもはや別物の代物だった
あの時の物が【魔王覇気】だったとするならば今回のは―――
【超魔王覇気】
圧倒的な生物としての格、存在自体が上位、強者としての遺伝子レベルでの威嚇
これが―――超魔王
対している覇王がひどく小さく見える、だがその表情からは揺るぎない自信が未だに伝わってくる
次の瞬間に覇王の深紅の瞳の光力が増す
いつの間にか天使のリーダーはドラゴンと騎士を抱え私の前に立ち防護壁の様なものを形成する
「防げるとは思いませんが...【多重障壁】【聖域結界】【混沌域結界】【次元】結界」
慌てる様に障壁を張る天使に続きドラゴンと騎士も障壁を張る
「わ、私も【多重障壁】【獅子の聖域】【聖魔結界】」
「【竜魔結界】【竜聖結界】【竜神神域】」
2人と一匹により様々な障壁が張られるきっとこの世界の者では破ることは愚か傷つけることすら不可能なものを何重にも重ねられてできた物だ
だが―――一瞬だった障壁は覇王が発した波動の様なもので跡形もなく砕け散ってしまった、一瞬たりとも耐えれた障壁などはありはしなかった
徐々に薄れゆく意識の中で最後に見えたものは
覇王の背後に聳える巨大な赤黒い何かだったその何かは超魔王の背後にいる影を一瞥すると超魔王の影は忽ち萎縮してしまった
その時だけは巨大だった超魔王もひどく矮小な存在に見えてしまった。
超魔王さえ霞ませる圧倒的な威圧それこそが―――覇王
超魔王が泡を吹いて倒れるのを確認すると俺は現実に目を向ける決心をした
辺りは惨状の一言では済まされない程の状態だった、辺りの木々は消し飛び大地には自分を中心に大きなクレーターが出来ており
さらには...せっかく助けたゼルやミーシャそれにマーシャ...キーラにフリューゲル達が泡を吹いて倒れていた。
さて...どうしたものか....
久々に【覇王覇気】を少し解放したんだが...少しやりすぎたか...
今の俺には苦笑いを浮かべるしかなかった...守るべき者を気絶させてどうする...
「ハハ...ハハハ...シーラ....」
俺はすぐさま連絡を取るべき相手に連絡を取った自分の人工知能スキルのシーラだ、この惨状も彼女なら...という期待が俺にはあった
≪申し訳ありません、後三匹程なので、お待ちください≫
そうして一方的に念話を切られてしまった....
普通の人工知能スキルならこんな事は無いだろう...これは自我を持った影響...主人の成長を促すのもスキルの役目...と言う事だろうか...
まぁ確かに自分の犯した過ちを認めてこそ人は成長するというもの...
だが、過ちを認める事が一番難しいんだよな...
まぁ...とりあえず超魔王以外は起こしてやるとするか...覚えてないといいけど...




