第34話 超魔王
グレースが会議室の微妙な空気を何とかしようとしている時、王女と超魔王ヴェルナータは覇王城の付近まで来ていた
「ふむ、この私でもここまでの城は見たことが無いぞ」
私の隣で魔王がぽつりと呟く、正直に言ってしまうと私の国、ノエル王国の王城よりも遥かに巨大で禍々しくそして神々しかった。
そしてその城に攻め込もうというのだ、今だに私の心臓は早鐘をうっており倒れてしまいそうだ。
覇王城付近の街の住人は皆親切で覇王に会いに行くと言ったらすんなりと場所を教えてくれた。
「時に王女よ、お前はどうする」
何気ない問いに思考が乱れる、どうするとは何だろう、友人にでもなったかのような口調だ、しかしこれ以上返事を待たせ過ぎると相手を不快に思わせるかもしれない、なので質問を質問で返す。
「恐らく戦闘になるだろう、もし仮に昨日の娘、覇王の妹と戦闘になった場合、お前を守りながら戦うのは不可能だ、この私の力をもってしてもだ」
最強の魔王といわれている超魔王をもってしてここまで言わせる程の存在、【覇王】その存在がどれほど巨大だとしても挑まなければならない。
この国の為にも。
「私は大丈夫です、自分の身は最低限自分で守ります、私の事は気にせず戦闘をして下さい...」
「王女よ...もっと自分を大切にするといい、お前は一国の頂点なのだ、その身にはこの国の民の生活が懸かっているんだからな」
魔王とは思えない言葉にまたもや思考が乱される、世の中にはこんなに民思いの魔王が居たのかと...魔王とは残虐非道だというのが常識として世間に広く伝わっている
「私はこれでも感謝しているのだ、この国が魔族を受け入れてくれたこと、そしてこの国の民を案じてくれていることにな。
まぁ、私の子孫だがな...もう、何百年も前の話になる、私は力を手に入れたことで他の魔王達から恐れられるようになった、それだけならよかったが...
他の魔王達は私の力を奪おうとした、奴らが正攻法で来るわけでもなく私の子孫たちを人質に取ろうとしてな、そこで私たちは魔族領を離れ人間領に移動した
私は魔王という素性を隠しただの下っ端の悪魔としてこの国に住み着いた、最初は世間からの風当たりも強かったが住民たちはやがて心を開いてくれた、まぁ、その為に疫病を治したり雨を降らせたり色々な事をしたがな
あの時かくまってくれた国王には感謝しかない、そしてこれまでこの国の平和を維持してきた歴代の王達にもな、そして現王女のお前にもな、この国はお前が王女になってから飛躍的に発展している様に思える
まぁ、私はしばらくいなかったからすべて子孫に聞いた話だがな」
魔王からの言葉に胸が熱くなるこの国の歴史を一番知ってるのはこの魔王だろう、魔王の頂点も苦労しているようだ、なので私は畏敬の念を込め深くお辞儀をした。
「この王国を遥か昔から守り抜いてくれたことに歴代の王たちを代表し礼を言わせてください」
「礼など要らん、それに私が居たのは最初の数年だけだ...」
「それは...どうゆう...」
「住民たちと打ち解けることが出来た頃、私は幸せの絶頂に達していた、笑顔で笑う子孫と近所の子供達、町の人達もほんとに親切にしてくれた、だが、そんな幸せは長くは続かなかった。
平凡な日常、そこに突如として大きな魔法陣が現れた、私の頭上に輝く魔法陣はどこかへの転移系の魔法だと感じ取れた、私はそばに居た子孫を町の人達に託し私は魔法により転移させられた。
それが修羅の世界だ、それから私は私から幸せを奪った神達に復讐するべく更なる力を求めた、だが復讐は失敗に終わり私は封印された」
覇王の妹から聞いたことそして超魔王の伝承とも大きくかけ離れた事実を告げられ私はひどく動揺した。
「もしかしてその子孫って言うのは...」
「子孫って言うのは言い方が悪かったな、私のたった一人の娘だよ」
「その娘さんって今は...」
「生きてたよ三年前に知れたがな、娘と言ってももう500歳をゆうに超えている」
「そんな人が居れば王国の歴史に残っているはずなのだけど...」
「隠匿してくれたんだよ、あの時の国王が、私との約束でね」
「約束?私は聞いたことないけど...」
「長き年月を経て約束さえも忘れてしまったのだろう、まぁ今もその約束は気にすることは無い」
「その約束を聞いてもいいかしら?」
「あぁ、構わない、知っていた方がいいだろうしな」
気軽に言った割には魔王の空気が変わった、それは初めて召喚したときと似た様な雰囲気だ
少しの間話してきた時の優しさのある話し方ではない
「私があの時した約束だな、それは【私の娘に危害が加わった時この国を地図から抹消する】だな」
思わず固唾を飲む、そこには明確な殺意が込められておりもし約束を違えた時には本当にこの国を消すつもりなのだろう
「だからこそ、こうして危機が訪れる前に危害を加えそうな輩を始末しに来てるんじゃないか」
「勝てるの?あの覇王に...」
「もし仮に覇王があの妹よりも強いのだとしたら勝算は限りなく皆無だ」
「皆無って...勝算の無い戦いに挑むって言うの!?」
「奴自体はな、だが奴の妹なら話は違うシーラとか言ったか?あいつは無理でももう一人の妹は可能だ」
「身内を人質にとるのは心が痛むわね」
「危害を加えるつもりはない、ただ覇王と取引をするだけだ」
話をしているとようやく覇王城の入り口が見えてきた、魔王が私に完全不可視化の魔法をかけてくれたので魔王以外には見つからないという。
念の為魔王から少しだけ距離をとりついていく。
見えてきたのは二人の門番だった桃色の髪に透き通るような碧眼に天使の輪それに背中からは真っ白な翼が生えている、前回覇王が王城に来た時に連れていた侍女と同じ種族だろう。
魔王が堂々と近づいて行き堂々と話しかける。
「やぁ、君たちの主人と茶会をしに来たのだが」
「私たちのマスターは現在留守にしています、どうかお引き取りを、マスターには来客があったと伝えておきます」
「その必要は無い、いないのならば仕方は無い、堂々と押し入らせてもらおう」
「ただの悪魔風情が覇王城に単騎で乗りこむと?命が惜しくないようですね、お引き取りを」
魔王は少し不敵に笑うと天使の首を鷲掴みにする。
「その悪魔風情にお前たちは勝てないのか?」
「舐めるな!!」
天使は必死の抵抗もあり魔王の手から難を逃れる、すると魔王は何かを考える様子だった
「ふむ...一般の兵士がこの強さだとすると攻略方法を少し考え直す必要があるな」
「応援を呼べ、私達では手に余る」
一人の天使がもう一人に伝えるとすぐさま天使が三人程現れた、これで5対1数的には劣勢だが魔王からは余裕の表情をとっているので安心して見守る。
「ステータスがどれも誤差の範囲内だな、つまりお前たちの階級は同じか...【暗黒の衝撃波】」
魔王が右手を向けると手の平からまるで闇を凝縮したかの様な禍々しい衝撃波が生成された、その闇は通過したすべてを焼き払い覇王城の城壁に当たった。
天使たちはかろうじて塞げたようだがほぼ虫の息だろう。
だが、不思議なことに城壁には一切傷や汚れなどが出来ていなかった。
視線を上げてみるとさらに三人の天使が頭上を飛んでいた、今までの天使と違うところは瞳の色くらいだろうか。
「橙色か、少しは階級が上がったと思ってもいいのか?」
突き出した手の平をそのまま増援としてきた天使たちに向け同じ技を放つ
「芸が無いね、君」
魔王が放った魔法は剣を持った天使に跳ね返されてしまう、文字跳ね返されたのだ放った魔法をそのまま。
「成る程少しはやるよ―――ウグッ」
魔王の言葉が急に聞こえなくなる、少しすると衝撃波と共に爆音が鳴り響く、それは魔王に攻撃が命中したことにより発生した音だった。
「全く人が話をしていしている時に攻撃とは礼儀のなっていない連中だ」
「へぇー耐えるんだ」「やるじゃん、君」「そう?私はそうは思わないけど」
剣を持った天使、槍を持った天使そして弓を持った天使が順番に言葉を発する。
「さて...第2ラウンドだ」
魔王の体を闇が包み込む、するとすぐに魔王は闇の中から姿を現した、受けていた傷は無くなり額には少し紋様が浮かび上がっている。
魔王が再び手の平を相手に向ける、そして【暗黒の衝撃波】を放った、闇は先ほどと同じ様に天使に向かっていきそれを天使が跳ね返そうと準備をする
だが槍を持った天使があることに気付き前に出る
「跳ね返せない?」「いなすべき」「そう?私はそうは思わないけど」
魔王の手の平から放たれた一本の奔流は槍にいなされ2股になり空に消えた。
「成る程、お前たちの強さは程度が知れた、お遊びはこれまでにしよう」
魔王は大地を強く蹴り瞬時に三人の天使達の真ん中に浮上し攻撃を繰り出した
その攻撃により三人の天使は地面にたたき落されけたたましい音を上げている
「へぇー強いじゃん」「なかなかやるね、君」「私もそう思うわ」
叩きつけられた天使たちは平然と立ち上がり各々が攻撃スキルを展開し魔王に向ける、すると突如脳内に「止め!」というまるで試合を止める審判の様な口調が響き天使たちは一斉に攻撃をやめた。
「トゥー貴方はキーラ様の護衛を、バル貴方は負傷者の治療を、そしてスタ―貴方はそこの透明化している王女を捕えなさい」
新しく現れた天使は優しく微笑んでおり瞳の色はいまだにわからない、その天使が指をパチンと鳴らすと私に掛けられていた【完全不可視化】の魔法が解除されてしまった。
瞬時に動きが封じられ半透明の檻の様なものに閉じ込められてしまう。
「残る二人も即座に行動に移すように。私はこの淫魔の相手をします」
ゆっくりと開かれた瞳は真っ赤に染まっていた、その時あれほど余裕を浮かべていた魔王が汗を垂らしているのが見え嫌な想像が頭を過る
だが私にはただ信じて見守る事しかできない




