第105話 戦争の終結
兄妹で向かった戦場の遥か上空からは敵軍が一望できるほどに壮大な景色だった。
俺は楽し気に。
シーラは普通に。
キーラは誇らしげに。
おれ達三人は上空で手を上げ魔法を発動させる。
『【混沌之覇王】!!!』
三者の魔法は無事発動し世界を白に染め上げる。
音も無く色さえないその世界で平然と立つのは俺たちのみ。
覇王たる器を兼ね備えたこの世界で最上のステータスを誇る三人だ。
閃光が収まった時俺たち以外は何も無かった。
その空間内のすべての事象と秩序を破壊したせいでその空間が乱れたのだ。
その空間と言っても元々はルシファーを封じていた空間だけだが。
幽閉空間だからこそこの魔法を使用したのだ。
でなければ修羅の世界の魔界と同じようにすべてが無に帰るだけになってしまう。
一度世界を作り直すことも考えたが文明の発展とか色々面倒なのでやめたのだ。
まぁ、この中世チックなファンタジー世界が好きなのでやらなかっただけである。
それに俺の一存で世界を滅ぼすには大切なものが出来過ぎたからな。
何も無くなった空間から転移を発動しゼルセラ達と合流を果たす。
スキルも力も失ったクロノスはフリューゲル達に捕らえられ肩身を狭くしていた。
「滑稽だなクロノスよ...我輩を追放した貴様を今度は我輩が追放させる。我輩はお前ほど優しくはせんがな!!!」
キーラではなくキーラの身体を借りた混沌が傲岸に言い放つ。
そしてクロノスの首根っこを掴み全力で振りかぶる。
そして全力投球。
音の速さも光の速ささえも超越した速度でクロノスは消えた。
視界に残っていた時間はほとんどない。
投げられる一瞬目が合った気がしたが次の瞬間にはすでに遥か地平の彼方に飛んでいった。
あの先に何もない事を祈る....。
岩か何かあったら今のクロノスは成す術なく衝突し砕けるだろう。
俺たち程の肉体強度があれば助かるかもしれんがまぁ無理だろう。
混沌は手を叩き満足そうな表情をした後キーラに交代した。
その光景に驚く者も多い。
なんせ、ステータスは以前の何倍とも言えない程のステータスを誇る。
普通の世界に顕現しただけで世界を揺るがしうるほどの存在になって帰って来たのだ。
フリューゲル達は先ほどまで坦々と神達をを殺戮し命令に従っていた、故に気付かなかったのだ。
ゼルセラはクロノスを引き渡すと時に引き攣った顔をしていたが....まぁ次第に慣れるだろう。
それにしても....混沌は何故投げる事を選んだんだ?消してしまえばいいものを...
(なぜこっちの方角にクロノスを投げ飛ばしたんだ?)
俺は脳内で混沌に直接メッセージを送ってみた、するとあっさりと返事は帰って来た。
(修羅の反対だな)
(修羅の反対?どうゆうことだ?修羅は別次元にあるのではないのか?)
(いや、違うが?修羅は元々我輩がここから追放された時に全速力で1万年移動した場所だからな....)
(なら転移で行けるんじゃないのか?)
(普通の転移で移動可能な場所にないだけだ、早い話遠すぎる。だが...転移魔法を我輩のエネルギーで構築すれば....まぁそれでも他の者達には使えないがな)
なるほどな....確かに俺が全速力をだせば世界の端などあっという間だ。
この混沌の力が届く範囲こそ宇宙の法則でありそれは今でも広がりつつある。
それが世界の法則であり。
彼女が生まれた理由でもある。
全ての母ともいえる混沌。
この世界で最初に生まれた神それが混沌と言う存在なのだ。
正直やばい存在を実の妹に宿らせてしまったと後悔している。
混沌自体に悪意がない様だから今の所問題は無いが....この先の学院生活は大丈夫だろうか...。
それから混沌が言っていたこと....俺との子作り....
ふとキーラを見れば曇りの無い笑顔を向けてくる。
罪悪感と言うか....
「コホン!!」
突然シーラが咳払いをしフリューゲル達を集める。
「スキルの統廃合を行うので集合してください」
ゼルセラ以外のフリューゲル達の獲得スキルの統廃合をシーラがしている間に俺は覇王城の玉座に腰を下ろした。
さて、俺自身も得た能力の解析だ。
【時之神】のスキル効果は時間の跳躍。
好きな時間軸に移動が可能になると言うもの。
俺が真っ先に思ったのは俺自身の殺し方だ。
クロノスは俺の過去に戻りまだ強く無い時に殺してしまえば俺の無力化ができると思ったはずだ。
では何故クロノスはそれを行わなかったのか。
それは出来ないから。
未来に事象で改変出来ないほどの強さを持つ俺がいる事で過去で俺を殺す事ができないのだ。
逆に言えば確定した未来がある以上。
過去で死んだとしても未来に生きて居るので二人の俺が存在することになる。
俺が閃いたのは元々の前世である現世の俺、佐藤健太。
彼を救う事。
過去に戻り健太を救ったとしても未来に俺と言う第二の健太が居る以上現世で俺は生き続け異世界でも俺は生き続ける事になる。
俺自身を助ける事が出来るのなら助けたい。
あいつはまだ童貞だからな...。
思い立ったら吉日!
さっそく向かおう。
俺が死ぬ前に転移する。
正確な場所までは分からないが問題はないだろう。
年数と時間さえわかればどうとでもなる。
俺は玉座を立ち上がりその場に居る者達に宣言した。
すると全員から「行ってみたい」と言われた。
だが、流石に前世の自分を見られるのは恥ずかしいと言うか...いやだ.....
「いや、俺一人で行く。お前たちはお留守番だ。まぁそれかいつかな」
おれの「いつか」と言う言葉を聞き皆納得したというか諦めたと言うか...。
俺が絶対と言うほど拒否したからだ。
だがその中で一人だけ頑なに俺に着いていくと言う奴が居た。
「何度も言わせるなエミール!!俺は一人で行く!!」
「お願い!!最後のお願いだから!!ほんとに!!お願い!!一生で最後にするから!!」
う...どうしてこいつは俺の過去に行こうとするんだ...いった所でこいつは何もする事無いだろうに...。
ビルから転落する俺を助けるだけなんだから...
まぁ逆に言えばそこまで拒否する理由も無いし、俺がこいつは昔の俺と口走らなければ済む事なんだ...。
俺は大きくため息を付きエミールの同行を許した。
俺はエミールだけを連れ現世に向かった。
巨大なコンクリートのビル。窓ガラスに反射する夕日。
往来の激しい交差点。
あの頃のまま、懐かし景色が広がっている。
さて、まずは俺を探すところからだな...
その前に俺はエミールと俺自身に完全不可視化の魔法をかけておく。
こんな派手なコートと騎士の鎧を来た男女はただの変質者でしかない。
それに今の俺の顔立ちはイケメンのそれ、神々しさまであるのだ。すぐに俳優やら様々な仕事が回ってきてしまうだろう。
女性に見られた暁にはきっとその人は俺に夢中になってしまうだろう。
それ程の自信が今の俺にはある。
さてと....
「私はこっちを探してみるわ!!」
「おい....」
探すってお前俺の前世の姿知らんだろうに....どこに探しに行ったと言うのか...。
まぁ不可視化は掛けてるし問題はないので俺も探すとしよう。
正直体感では10年などではない。
マナと時空の狭間で1万年と言う月日を過ごしたせいでほぼ昔の職場の記憶など無い。
自分の顔さえ正直うろ覚えだ。
それでも探すしかないので探すんだが...。
魔力感知で生命を感知出来れば楽なんだが...。
こちらの世界には魔力が存在しない。人間も魔力を持たないので感知どころの話ではない。
自力で探すしかないのだ...。
脆弱な人間め...苦労させてくれる...。
 




