第101話 健太
現世に転移してから二日目。
俺が目を覚ますとすぐ隣に紗生の姿があった。
何故こいつはわざわざ床に敷いた俺の布団で寝ているのか...。
姉の行動は不可解だが現在の俺はグレース。
超絶イケメンなのだから仕方ない。
紗生も俺の姉である前に一人の乙女なのだから。
そう思う事にした。
だが、そんな事では納得しない人物だって存在する。
納得と言うか説得と言うか...
どんなに偉大な人物だろうと恐らく母親に勝てる存在はいないだろう。
どんなに嘘で塗り固めたとしても、きっとどれもばれてしまうことだろう。
さて...俺は母親になんて弁明したらいいのだろう。
健太であれば姉と寝ているだけなので問題はない。
だが今の俺はグレースだ...そんな言い訳は通用しない。
頼みの綱の紗生も寝てしまっている。
目覚めの最悪な朝。
言い分けは思い浮かばない。
そんなに言葉を連ねようとも既成事実と言うものがある。
やったと言ってなくても一緒に寝ているだけでほぼほぼアウトだ。
紗生から入って来たと言う証明も出来ないし、そもそも俺自身の説明も上手く出来ない。
すると母親の後ろから幼女が現れる。
「兄さん!おはよー!今日は何をみせてくれるのー?」
満面の笑みで俺に抱き着く兎愛。
チャンス到来だ。
兎愛に懐かれている事で恐らく好感度はだいぶましになっただろう。
「もしかして昨日寝かしつけてくれたのは貴方なの?」
「あぁそうだ人形劇をちょっとな」
「そう...この子普段全然寝てくれないからいろいろ大変なのよ。昨日はありがとうね」
妹だからな、寝かしつけるくらいどうと言う事は無い。泣かれたけど....。
「兎愛紗生ちゃん起こして頂戴。それと貴方も朝ご飯用意してあげるからよかったら食べて行く?」
「お世話になります...」
一応認められたのか?
ひとまずは乗り切ったな...後は...親父だな...。
兎愛が紗生を揺さぶりそれでも起きない紗生は兎愛の下敷きになる。
そこまでしてようやく起きた紗生。
俺と同じく目覚めは最悪なようだ。
目をこすりながら手を引かれ階段を下りて行く。
俺もその後に続きリビングへと向かった。
リビングには朝っぱらからテレビゲームをする健太と新聞を読みながら朝食をとる親父の姿があった。
俺はなるべく平常心を保ちながら椅子に座る。
だが意外と何も言われない。
およよ?お咎めなし?親父以外と分かる奴だったんだな!!
「説明してくれるんだろうな紗生」
新聞を読みながらではあるが威厳のある声で親父は紗生に聞いた。
お咎めない訳ないよな...。
案外親父には俺の姿が見えてないんじゃないだろうかと思っていたがそんな事は無かった。
未だ目が覚めてない紗生の言葉に俺がドキドキしていると。
眠り眼をこすりながら平然と答えた。
「私のオリキャラ」
「そうか。わかった」
うんうん!わかってくれたか!!って違うだろ親父!!!
理解はえーよ!!!
俺が親父に対して戦慄しているとすかさず母親が親父のフォローに入った。
「ごめんなさいね。この人まだ寝てるのよ~」
これで寝てる?俺の親父....結構ぽんこつなのか?
まぁ俺がこんなんだしな...。
そう思い割り切る。
すると意外と時間ギリギリなのか親父は慌てて支度をはじめ会社に向かう。
落ち着きないな...ほんとに親父なのか?
俺はどちらかと言うとだいぶ余裕を持って会社に向かう方だった。
まさに正反対だ。
さてと、紗生ももう少しで学校だし...兎愛も幼稚園だな。
健太の学校は創立記念日で休みなのだ。
母親は兎愛を幼稚園に送る。
だが、まだ時間はあるので俺は紗生について行く事にする。
JKが見たいわけではない。断じて。いや、本当に。
一緒に登校なんて少し気恥ずかしいが構わない。
なんせ今の俺はイケメンなのだから。
だが一緒に行くのも校門までだ。
校門まで見送ると紗生は別れ際に俺に手を振る。
「行ってくるねグレース」
するとそのタイミングで友達らしき少女たちに囲まれる紗生。
「あの人だれ?彼氏?」
「外人さんかな?」
友だちに詰められ堪忍したように親戚と口にしていた。
まぁそれが安牌だろう。
彼氏なんて言われたら....俺と紗生では釣り合わないだろう...。
完全に見送ったので俺は転移で家へと帰宅した。
俺が家に戻ると作り置きの食事を作る母親とテレビゲームをする健太が残っていた。
母親はこの後仕事なので創立記念で休みをもらった健太の分を作っているのだ。
「健太~お母さん仕事行くけどゲームも程々にするのよ~。それからグレースさんも少しの間うちの子の事お願いします」
俺の子守りを俺がするのか...。
と言うより早朝あったばかりの俺に子供任せるって親としてどうなんだ?
母親はすぐに家を飛び出していった。
残された俺と俺。
「ねえーちゃんはオリキャラとか言ってたけど。お前ホントは何なんだ?」
このガキ....年上に対する言葉遣いを少しを考えたらどうなんだ...
まぁ俺なんだが...。
「俺か?俺は覇王だぞ?別世界で一番偉いんだよ」
俺は隠さず伝える。
だが、俺への興味は薄いのかゲームの手を止める事はない。
「別世界ってなに?」
「魔法とか使える世界だな」
「魔法っ!!??」
はい!俺の勝ち。
流石に魔法と言う言葉に興味を持ったのかゲームの手が止まる。
仕方ないとった表情をし俺は魔法を見せる。
「何か欲しいものはあるか?」
健太は悩んだ表情をしあるゲームソフトを手に取る。
「これの最新作。できる?」
ふん、他愛もない。
俺は指を鳴らし手元に最新作を取りだす。
残念ながら俺がまだ生きて居た頃の最新作ではない、この時代の最新作だ。
だが、どうやらほんとにうれしかったようだ。
俺が渡す前に俺の手からソフトを奪い取りさっそこうゲーム機に差し込んでいる。
このガキ....
今の俺よりも確実にわがままだ...。
だが....まぁ俺自身だし許すことにする。
「対戦でもするか?」
「負けないよ。相手が大人だったとしてもね」
「俺をただの大人と侮ってもらっては困る俺を誰と心得る」
「コスプレイヤー」
このガキ...そろそろキレようか...大人をなめやがって...。
いいだろう!完膚なきまでにボコボコにしてやる。
できればゲーム引退して友達いっぱい作って彼女を作って欲しい。頼む...
対戦を初めて約10戦。
俺は10勝だ。
ガキに勝たせてあげる程俺は大人ではない。
現実を突きつけるためにも手は抜かない。
半泣きの小童に大人げなくも本気で相手をしてしまった。
そうこうしているうちに既に時刻は12時。
健太がお腹を鳴らすのでゲームを一旦中断し母親の作り置きを食べる事にする。
健太とも随分仲良くなれた気がする。
子供とは良いな...単純で純粋で...このガキは別かもしれんが...。
お皿を取りだした健太は引き攣った笑みを浮かべる。
子供がそんな顔するなとお思ったが皿を見て俺も引き攣った笑みを浮かべてしまった。
「ピーマンの...」
「肉詰め...」
大人になった今でもピーマンは食べれない...
よし。別のを食べよう。
「な、なにか食べたいものはあるか?」
「サイコロステーキ」
俺はご所望の品を錬成した。
一流のシェフが作った様な一品だ。
美味しくないわけがない!
さらにご飯を盛り付け食事を始める。
やはり美味しかったのかお代わりをねだる健太。
いっぱい食べて大きくなれよという意味を込めてお代わりを用意する。
健太の笑顔を見ると複雑な気持ちになる。
明日を境に俺は滅多に笑顔を見せなくなる。
これが最後の日だといってもいい。
「父さんは好きか?」
俺の何気ない問いに健太は少し困惑しながらも答えてくれた。
「別にフツー。遊んでくれるし面白いから嫌いじゃない」
どこかひねくれてるんだよな俺...
「よしなら次も俺が勝ったら父さんに大好きと言ってやれ」
「えーー」
いやがるそぶりを見せつつも負ける気は一切無い様だ。
だが、流石に一方的だと思いハンデを設ける事にした。
健太が悩んだ末に俺に科した条件は『目隠し』
ゲームでは決定的な弱点となる行為だが...俺には効かない。
何故なら例え目を隠されたとしても見えるからだ。
ハンデがハンデではない。
結果は圧勝。
「約束通り父さんに大好きって伝えるんだぞ?」
「わかったよ...罰ゲームだし...」
ずるいと言われればずるいがこれもプレイヤースキルと言う事で。
俺の心残りでもあった親父への思い。
ガキだった俺は親父の大切さがわかっていなかった。。
だからせめて...未来は変わらないとしても....俺自身に後悔はしてほしくない。
そんなこんなでゲームをしていると徐々にみんなが帰宅してきた。
夕食の前。
俺は両親に呼ばれた、理由はわからないが朝の続きだろう。
上手く誤魔化さねば...




